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帝国
皇帝の元にヴォールーニ大公国からの返事が届く。
「まさか!」
返事を読んだ皇帝は驚いた。
なぜなら、ダメ元で提案した結婚話しだったのだが、なぜかその話しを受ける、との返事が返ってきたから。
”よかったのはよかったが、どうなっている。オールフェンとの婚約解消がそんなにすんなりいったのか?”
結婚を申し込んだカッティラはオールフェン王女と婚約中、しかも、王女はもうすぐ輿入れのはず。
このタイミングですんなりと婚約解消の話しが纏るとは思えず、かといっって、これは正式な書状である事に間違いはない。
”断られる事を前提としていたのだが・・・まさか・・・”
皇帝とその弟二人は、自分の妻の怒りを少しでも和らげ、式典に出席してもらうためにこのような努力をたと言う事を見せたかったのが本音だった。
なので、当然断られるものだと思い、次の相手を探し始めていたのだ。
”こうなっては仕方ない。話しを進めるしかないな”
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「皇女の嫁ぎ先が決まった」
皇妃の部屋に入ると、机に向かい何かを書いていた妃に話しかけた。
「えっ!?」
「皇女が嫁ぐことになった」
「まさか!?その相手はどなたです?」
晴天の霹靂と言わんばかりに驚く皇妃。
「本当だ。相手は、ヴォールーニ大公国カッティラ大公だ」
「ヴォールーニ大公国・・・陛下それは、確かオールフェン王女と婚約していませんでしたか?」
「正確には、していた、だな。今は妹の婚約者になった。駄目元で申し込みをしたら承諾の返事が来た。嫁ぐのは喪が明けてからになると思うからもう」
「そう言う事でしたら、わかりました。けれどオールフェンとのわだかまりなどはないのでしょうね?」
「それは知らん。こちらは、独身の男性に話しを持っていっただけで、オールフェンとヴォールーニの話し合いには一切の関与はしていない」
皇帝のその言葉は、二国間が争おうが何の関係もなく、どちらにも就く事はない事を暗に言っているようなものだった。
なぜこのような無茶な事をしたのかもわかっているため皇妃はそれ以上何も言わず、頷く。
そして、皇妃はじめ他二人の妃も実家の帰ることなく式典にも出席する事になった。
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数日後。
「まさか!?」
報告を聞いた皇帝は驚くと同時に呆れてしまう。
その内容を聞いた皇妃も皇帝と同じく呆れて言葉が見つからなかった。
「陛下」
「まさか、新しい大公がここまで愚かだとは」
「・・・」
「今から言う事をよく覚えていてほしい」
「はい」
「帝国は、この件についてヴォールーニ大公国に話しをしただけで、大公の婚約解消については関わっていない。オールフェン王国が何を言って来ようともそれは変わらずあくまで二国間の話し合いであり、わが国は関りがない。その事は承知しているな?」
「はい」
「早い話し、ヴォールーニ大公国よりもオールフェン王国は敵に回したくない相手だ。こんな事で戦にはならないだろうが、あの国と事を構えるような馬鹿な真似はしたくないからな。
あの国は、自ら戦いを始めたことはないが、売られた喧嘩に負けたことがない国だ、過去内乱のさなかであった時、他の国がオールフェンを攻めたが負けた。そうして、負けた国の領土と冠を頂いている。あの国の領土が広いのはただ兄弟で分割しなかったからだけではない。
表向きは関係ないが・・・戴冠の儀で会うだろうから態度や言葉には細心の注意を図って行動してくれ」
「わかりました」