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大公国
「陛下、こちらが届きました」
「どこからだ?」
「帝国からです」
「帝国?」
”父上が亡くなった事への悔やみか?”
新大公になったカッティラがその書状を読む。
”これは!?”
「どうかなさいましたか?」
カッティラの表情が驚きに変わるのを見た側近が何事かと思い尋ねる。
「帝国から、お悔やみの言葉と即位の祝い、それと・・・釣書」
「釣書!?アッティラ様にですか?」
「いや」
”どういう事だ?エリシュカ王女と婚約している事くらい知っているはずだが??”
釣書は、アッティラにではなくカッティラ宛だったことに驚きつつ、釣書と添えられていた手紙を読んでみると、以前アッティラとの縁談話しがあった当時の皇女、現皇妹。
全く興味のかけらも示さなかったカッティラが驚きと共に書かれた最後の一文に目が止まりそこを何度も読み返す。
”持参金は領地”
「この皇女、昔アッティラにも話しが来ていたな?」
「はい」
「その時の皇女の絵はまだ残っているか?」
「残っていると思いますが」
「持ってこい」
「かしこまりました」
「カッティラ様、ありました」
見せられた絵を数分眺めたカッティラは一人頷くと、絵を元の所に片付けるように言いい、側近の数人を部屋に呼ぶように伝える。
突然の呼び出しに皆が何事かと急ぎ揃う。
「本日、帝国より釣書が来た。ついては、王女との婚約を破棄し、帝国の皇女と婚約する事にした」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・」
その場に居た全員が、カッティラの発した言葉の意味を理解するのに時間が掛かり、聞き間違いではないのか?と思い頭の中で、巻き戻し➡再生、を繰り返すが何度カッティラの言葉をリピートしても聞き間違いではなく、夜にわざわざ大臣まで呼んで冗談を言う様な人間でもない。
「ついては、どのようにすれば穏便に婚約破棄できる?」
「カッティラ様、いきなりそのような事をおっしゃられても、婚姻はもうすぐなのですよ。今更破棄などと言う事は無理です」
「そうです。一体なぜその様な事をおっしゃられるのですか?理由をお聞かせください」
「理由か。さっきも言ったように皇女と結婚するためだ」
「オールフェンの王女様ではいけない理由でも?」
「そうだな、王女ではいけない理由か・・・好みでは駄目か?」
「好み?陛下本気ですか?」
「自分の伴侶となる者を自分で選ぶ事に何の問題がある?その相手が、王女より格上となれば何ら不都合もないだろう」
「そういう問題ではありません!結婚までもう半月もないのですよ!」
「まだ半月もある」
「とにかく、そのような理由では無理です」
「では、どのような理由であればいいのだ?」
「はっきり言いますと、破棄などできません」
皆がそれに同意するように首を縦に振った。
「そうかわかった。今同意した者の職を解く」
カッティラはそう言うと、大臣達を無視し部屋を出て行ってしまった。
残された大臣達は、顔を見合わせそのまま部屋に残る者、職を辞める事を恐れカッティラの後を追う者それぞれに分かれた。
国のトップが変わればその周りにいる人間も変わる。
変わらない者もいるが、新しく権力を手に入れる者もいる。
それは、どこの国でもよくある事でありヴォールーニ大公国も例外ではなく、この瞬間、大公の後を追わなかった者達はその任を解かれ、権力を手に入れようと何年も前から新大公に従っていた者達がその地位に就くこととなった。
ただ、この新に権力を手に入れた者達は大公の機嫌を取り、自分の得た地位を守る事しか考えない、少し、いや、かなり、残念な者達が大半を占めることになってしまった。
そうして、カッティラとエリシュカの結婚のはずが、アッティラとエリシュカの結婚のきっかけを作る事となった。