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帝国宮殿
現皇帝は、数年前に父親から帝位を譲られ、前皇帝は隠居と言う形であまり国政には関わらずにいる。
「皇帝陛下並びに殿下にご挨拶を」
陛下とその弟殿下二人のいた部屋に三人の女性が入って来て、カーティシーをする。
女性三人の顔は優しく微笑んでいるが、その顔を見た男性三人は顔から笑顔が消え引きつった。
なぜなら、このような非公式の場で正式の挨拶などする必要などない事、そして女性達の微笑んだ顔をしているが、目が全く笑ってないのが見てとれたから。
「皆揃ってどうかしたのか?」
「三人共里帰りをしようと思います」
「皆同時にか?」
「はい」
三人が首を縦に頷く。
「なぜ突然?」
「なぜ?突然?、本当に疑問に思いになりますか?」
「・・・」
皇帝と弟二人は言葉に詰まる。なぜなら、その理由ははっきりと解っているから。
「もう限界ですのよ、皇帝陛下」
「そうですわ。どれだけ我慢してきたことか」
「私なんて、自分の弟の嫁だからと上から目線で!」
三人の顔から笑顔が消え、最後通告と言わんばかりの怒りに満ちた顔でそれぞれの夫を睨みつける。
その怒りの原因は、皇帝の妹であり三男の姉にあたる人物。
「まぁ落ち着け」
”今度は何をやらかしたんだ?”
「落ち着いております。先帝は、国の決まり事をまた無視なさろうとされているようです」
「父上が何か?」
”妹じゃなく父上が原因なのか?”
「皇后は皇妹より地位が下らしいですわ」
「それはどういう事なんだ?」
「今度の式典の並びをワタクシよりも前に並ぶそうです」
「まさか?皇后は私の隣りの椅子に座るのではないのか?妹が座るなどあり得ない」
皇妹は、兄弟達の妃の生まれが自分より下である事を理由に、行事などの並びを上位に持ってくるようにねじ込んで来る。帝国では、継承順に並ぶ決まりがあり配偶者もこれに準ずる、ときちんと決まりがあるのだが、そんな事お構いなしに父親である先帝にお願いをし、可愛い娘のためにとその願いを叶える。
これを、民の前であろうが、他国の賓客の場であろうがお構いなしなのだから、皇后はじめ他の妃達は立場が丸つぶれだ。
「先帝陛下が御主席なさり玉座にお座りになり、陛下は隣りに立って並ぶことに」
「そんな話しは聞いていないぞ」
「先ほどそう決まったようです。妹君が先帝陛下のご出席を強くご希望なさり、それを受け入れられご出席に」
兄弟三人は顔を見合わせ小さくうなだれる。
「ですので、わたくし達三人共気分が優れずお医者様から静養がいいと言われましたので、実家で静養してまいります」
言い終わるとすぐに妃三人は部屋から出て行ってしまった。
「兄上、あれは本気ですよ!」
「もし、皆が欠席となれば色々と面倒ですよ」
「わかっている。わかっているが、あの妹を説得なんて無理だ。しかも、父上が許した事を覆すなんて無理がある」
「母上がいれば、こんな事には」
そもそも皇帝が帝位を息子に譲ったのは、皇后が亡くなったのが理由だった。
それまでは、皇太子は離宮に、二人の皇子達はそれぞれ帝国直轄領地に居たため普段の生活において皇女の嫌味などにさらされることもなく、式典などの行事においても皇后である母親が抑えていたため特に問題もなかった。
だが、皇太子が帝位につくと皇子達皆が基本的に宮殿に住むことになった。
そうなると、妃達と皇女が同じ屋根の下に、さらに母親がいなくなり甘やかすだけの父親が残った結果、皇女の我儘がさらに悪化したと言うわけだ。
「兄上!」
「なんだ?」
「いっその事、どこかに嫁いでもらいましょう!!」
「どこに?大体適当な相手は皆断ったか断られてしまっただろう。今残っていそうな相手で、しかもあいつが納得する相手なんてどこにいるんだ?」
「・・・」
三人が無言になる。
このままでは皆妻に逃げられる、それだけは避けなければならない。
三人は頭の中をフル回転し、王族しかも独身を探すが配偶者と永遠の別れをした自分達の父親、それ以上の人物ばかりしか思い当たらない。
「そうだ!結婚してなければいいのではないですか?」
「どういう事だ?」
「この際、多少のリスクは仕方ないと思い、結婚していないまだ独身の人物に話しだけでもしてみるのはありでは?」