15
アッティラとルーアは、机の上に積まれた書類を片付ける。
勿論、昨日アッティラが午後に休んだ分もきっちり机の上に。
「どういう事だと思う?」
「特別変な事は無いだろう」
「この状況で、王女もだがオールフェンの者も皆王女に帰って来いと言わない。それどころか、叔母上からの手紙だ」
「手紙?」
「これだ」
ルーアはアッティラの差し出した手紙を受け取ると、封筒の裏を見て差出人を見るが書かれていない。
「誰からなんだ?」
「叔母上」
「誰の?」
「私と王女の」
「?あー」
一瞬、誰の事を指しているのかわからなかったが、納得した様に中の手紙を取り出し読む。
「・・・何と言ったらいいのか・・・公女様らしいと言うか、そっか、まぁ、頑張れよ!」
手紙の中身は、
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夫たる者、妻の笑顔を守るべし
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「公女様は、相変わらずお変わりないようで何より」
手紙をアッティラに返しながら、半笑いのルーア。
「・・・」
「自分の妻を大切にしないとな、頑張れよ」
「だから、正式にはまだ婚姻成立はしていない」
溜息を付きながら、額を机の上にドンッ、と落とすアッティラ。
「ルーア、オールフェン王族の特殊な力について知っているか?」
「特殊な力?」
「あぁ」
「あの昔話しみたいな、初代王は大地より生まれた。とかいうやつか?」
「そうだ。それは真実だと思うか?」
「それが真実かはわからないが、王の妃選び方からしても我々とは違う力を持っているんだろうな」
「そうだよな」
「どうかしたのか?」
「王女がどうやって自分の居場所と今の現状を教えたのか」
「・・・」
「鳥、だった」
「鳥?」
「そうだ。鳥に伝言を覚えさせ、相手まで届ける。鳥を見せてもらったが、普通の鳥で鳴き声も普通。王女自身も普通の鳥だと言っていた」
「普通の鳥、その鳥が王族の伝言手段なのか、すごいな」
「そうだな」
”伝言する鳥、興味がある・・・”
*****
「いやー、突然お伺いして申し訳ありません!」
「そんな、とんでもありませんわ」
「そう言っていただけると気が楽になります大公子夫人。それよりこちらには馴れましたか?」
「屋敷の中は、けれど敷地より外には出たことありませんの」
「最近は物騒ですからね」
「そのようですわね」
話しをしていると、部屋のドアが乱暴に開きアッティラが勢いよく入ってくると、椅子に座っていたルーアの元に怒った顔を近づける。
「いきなり来てどういうつもりだ?」
「結婚の祝いがまだだったから、休みだし今日だ!と思って」
「お前なぁ・・・」
ルーアに対し半分呆れ気味に諦めの顔になるアッティラ。
「王女殿、彼は私の副官であり幼馴染でもあるルーア・シャレです」
「ご挨拶が遅れました、ルーア・シャレです」
「エリシュカ・オールフェンです。こちらへ来る道中、警護していただいたのでお顔は存じ上げておりました」
「覚えておいでとは光栄です。これは御結婚のお祝いです。気に入って頂けると嬉しいのですが」
「ありがとうございます。見てもよろしいですか?」
「もちろんです」
エリシュカはアッティラの方を見て同意を求めると、アッティラが小さく頷くとエリシュカは嬉しそうに包みを開ける。
中には螺鈿細工の小箱、細工は全体にされてあり蓋の中央にAとEのイニシャルがあしらわれていた。
「綺麗」
「気に入っていただけましたか?」
「はい。こんな綺麗な箱は初めてです。ありがとうございます」
「それはよかった」
”あらっ、これは?”
箱を開けると、中に巾着がありその中に小さな粒が沢山入っており、それを不思議そうな顔をして見るエリシュカ。
「鳥を飼っていると聞きましたので、公国へ来た鳥達にもプレゼントです」
「それはありがとうございます」
”ルーアお前、わざとらし過ぎるぞ・・・”
鳥のエサを見た瞬間、その場にいた全員がルーアの目的を察しワザとらしく笑顔で笑い合う微妙な雰囲気が部屋を包んだ。
「ルーア様よろしければご自分でエサをおやりになられませんか?」
「いいのですか?」
「はい」
「実を言いますと、アッティラに話しを聞き興味がありまして」
「そうでしたか」
「キンガ、連れてきてもらえるかしら」
「はい」
離れた場所に控えて居たキンガに鳥を連れて来るように言うと、キンガは部屋を出て行き、三人は椅子に座る。
「けれど、アッティラ様とルーア様は中がおよろしいのですね」
「物心ついた頃から知っていてよく遊んでいたんですよ」
「そうなのですね。ところでルーア様はシャレ侯爵家の方なのですか?」
「祖父が当主をしております」
「そうでしたか。けれど、なぜ大公国に?」
”確か、息子が一人、孫も一人だったと思ったのだけれど、後継ぎを他国へ?”
エリシュカの疑問は当然と言えば当然の質問で、シャレ侯爵は他国の一族で、その国に仕えるならば納得が行くが、他国に志願する事は少し意外な気がしたのだ。
「意外ですか」
「はい。気分を害されたのであれば申し訳ありません」
「そんな事ありません。初めは意見の対立というか喧嘩で、ここに転がり込んだんですよ。それが今では居心地が良くここに居る訳です。何分家うを継ぐのはまだ先の予定ですし、好きにさせてもらっています」
「そうでしたの」
話しをしていると、キンガが鳥を連れて戻ってくる。
キンガの連れて来た鳥は二羽で、鳥籠などには入れる訳でも紐で逃げないようにするわけでもなく、腕に止まらせており、そのままエリシュカの腕に移らせると、エリシュカはテーブルの上に二羽を移した。
”どこにでもいそうな鳥だな”
鳥を見たルーアの第一印象がそれだった。
「ルーア様、お手を」
エリシュカがルーアじからもらったエサを巾着から取り出し、それをルーアの手のひらに置く。鳥達は躊躇することなくその手からエサをついばんだ。
「警戒しないんですね」
「きっと、敵意を感じないからでしょう」
「そういうものですか」
「この鳥達が伝言を届けてくれた子達なのですよ」
「この鳥が」
本当に、そこに飛んでいてもおかしくないごく普通の鳥にしか見えない特徴のない鳥達と言う印象しかなかった。