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騎士団のアッティラの部屋兼事務作業部屋。
”いつになく機嫌が悪そうだな・・・”
アッティラと一緒に事務作業をしていた、ヴォールーニ大公家とは親戚にあたる公爵家の長男でアッティラの幼馴染、この団の副団長の位いにある。
そして、エリシュカがこの国に着いた時に城まで護衛した人物でもある。
「新婚なのに喧嘩でもしたのか?」
「ルーア、何度も言ってるが新婚と言う事になっているだけで、お互い納得はしていない」
「新婚で間違いないと思うが?」
少し意地悪そうに言うルーアに対し、アッティラは真顔で仕事を続ける。
「形だけの結婚なんて結婚した事には入らない」
「正式な手順を踏んでるんだから入るに決まってると思うが?」
「王女殿には指一本触れてはいから、正式には夫婦ではない」
「そうか、陛下が亡くなられてまだ日も浅いから寝室も別と言うわけか」
※ヴォールーニ大公国は、家族の喪中の間夫婦は一緒の布団には入らない、との決まりがありる。
「それに、できるだけ早く婚姻無効にして貰おうと思っている。兄上も自分が結婚してこの騒動が落ち着けば認めてくれるだろう」
「そのまま結婚していればいいだろう?どうせいつか結婚しなければいけないなら、格を考えても申し分ないだろう?」
「前から言っているように、結婚する気はない。それに王女殿から見れば格が低過ぎる。もっといい相手を選ぶ事が可能だろう」
「そう、本人に言われたのか?」
「違うが、他の相手を探すには早い方がいいだろう。本当ならすぐにでもと言いたい所だが、この状況だから王女殿も大人しくしているしかないのだろう」
「自分が勝手に思っているだけなら、嫌じゃないかもしれないだろう?」
「それはないだろう」
”名目上の肩書しかない相手より、きちんとした相手の方がいいに決まっている”
「王女様はこの事態をどう思っているんだ?」
「普通に過ごしているようだからどう思っているのかはわからないが、全部話したから理解はしているはずだ」
「全部って!それはどこまでの全部なんだ?」
「この結婚に関する事全て」
「まさか、婚姻解消の理由も?皇女との婚約も?」
「そうだが、何か問題があるのか?」
「そんな事話したら、衝撃が大きかったんじゃないのか」
”女性が傷つく事をバカ正直に話すか!普通?恋愛経験ないのは仕方ないが、女性の気持ちを考えられないのか??”
アッティラに対し呆れながらも、性格を知っているからこそあり得る、と思ってしまう。
「だが、黙っていてもすぐに知るだろうし、たぶん隠した方が面倒な事になりそうだと思たんだが」
「それもそうかもしれないが・・・」
「それよりも、あの王女何を考えているのかさっぱりわからないんだ。朝、夜は食事を一緒にさせられるし、食事中は無言だし、昨日誰かから手紙が来てそれを燃やした挙句、今日は昼食まで一緒にする羽目になったんだぞ!」
初め冷静に話していたアッティラは色々思い出しながら話すうち段々と力が入り、書いていた書類にペンを強く押し当てすぎて書類の紙が破れてしまう。
「破れたな」
「っ!」
アッティラは敗れた書類をゴミ箱に捨てる。
「それで最近は早く帰っていたのか、皆新婚だからと噂してたのに」
「誤解だ」
「食事中無言が嫌なら、自分から話しかければいいんじゃないのか?」
「それはそうだが・・・話す事がない」
「それじゃあ、仕方ないな」
「・・・」
「だが、手紙か・・・オールフェン国王からか?よく普通に届いたな?」
「そう、そこなんだ。しかもすぐに燃やしていた」
「燃やした。そんなに知られたくない事なのか?そうするように書かれていたか?」
「どちらか、だな」
「それよりアッティラ、なんで今日昼食を王女様と一緒にする事になったんだ?」
「灰になった手紙を見せてきて「「お昼をご一緒に」」と言われた。それでは断れないだろう」
「くすっ、なるほど、それは断れないな」
「なぜ笑うんだ?」
「いや」
ルーアは、手紙の内容も気になるが、こんなに人に振り回されているアッティラを見るのは何となく面白いし、こんなに感情を表に出しているのを見たのは、子供の頃以来だと思うとなんだかわからいが、少し笑いがでてしまった。
そして、そんな王女にも興味が湧いてきた。