8、第三謁見室で会おう
「あっ、ロビン殿下~ぁ! 私、今日の授業でわからないところがあってぇ~」
「何度言ったらわかるんだ。許しもなくこれ以上殿下に近付いてはならん!」
側近たちもがんばってるし、そもそも魔女の呪いのおかげで実害はないんだが、ちょろちょろちょろちょろ鬱陶しいことに変わりはない。
いつマーガレットにとばっちりがいくか気が気じゃないし、すでにその取り巻き共々、その都度不逞の輩を注意するにとどまらず、なんとも心優しいことに指導を試みてくれたり、でも暖簾に腕押しで気苦労が絶えないようだし何とかできないものか。
まず担任に相談してみたんだよ。
すぐに学院長に投げっぱなしジャーマンされたよ。
学院長は汗を拭いながら話は聞いてくれたけどな。
厳密には生徒たちは貴族の子弟なだけでまだ貴族じゃないんだが、やっぱりそのバックに忖度しないわけにはいかないわけで、まあ大半の教師たちの方が身分が低いからなぁ。
逆に「お力をお貸しください」と泣きつかれる始末。
ちなみに保険室に詰める治癒師はさり気なくベテランと入れ替えられており、あやしい奴は真っ先に、それ以外もなんやかやと理由をつけて片っ端から頭の中を調べてるようだがスライム発見の報告はまだない。
飼っててくれたらどんなによかったか……
王宮に帰って父上に相談。
側近たちにもそれぞれ宰相、騎士団長に話をさせる。
結果、何もできないことがわかった。
あんな阿保でもマナーがなってなくても強引に社交界デビューさせられるくらい、実家がブイブイ言わせてるんだ。
港湾都市を領地に持ち、ものごっつ儲けてるのにここ数年ろくに税も納めず、王からの召喚状も無視。
肥やした私腹で私兵を増やし、もうそれだけで王家に対する反逆なんだが、周辺貴族も金の力に靡いて国軍勝てなさそうとか。
「いや、内戦にでもなれば周辺国に付け込まれるからな」
つまり様子見という名のお手上げ状態なわけね。
……切なねぇ。
王家、思いっきり舐められてるじゃないか。
でもまあ娘を使って王子を落とそうとか、武力による簒奪は考えてないわけだよな。
優秀な王太子を狙わないあたりバランス感覚がいいっていうか、単に私がチョロいと思われてるだけか。
下手な傷は負いたくないし、内憂からの外患って流れは理解してるってことだろう。
ん~うん。これ以上、考えても無駄だな。
器用な人は一遍にいくつもの問題を解決できるが、私のような小物はそんな真似をしようものなら大失敗するに決まってる。
そもそも目的は、阿保娘が分を弁えて最低限のルールを守るようになればいいわけで、それができないなら退場させる! いたってシンプルじゃないか。
日々国の舵取りに頭を悩ませてる王や宰相、それらを命懸けで守ってる騎士団長には申し訳ないが、ほら~私もまたアホな第二王子だからさ。
周りのことまで気を遣えなくて当然なのだよ!
というわけで、突撃してきたところをレッドフォードに抱きとめられた件の令嬢の額を定規で叩いてみた。
平らな方じゃなくてメモリの先端でなっ。
「いったぁ~い! ひ、ひどいですぅ」
「で、殿下さすがにそれはっ」
「ご、ご令嬢の顔に疵をつけるなど、どのようにして責任を取るおつもりでっ」
側近共が騒いでいるが、これが気の迷いでもなんでもないことを示すためにもう一度チェ~スト~!
バッテン印を額に刻まれた猪令嬢は、我が側近によって大事そうに保健室に運ばれて行った。
「大丈夫ですか、殿下」
いまさらビビって膝を震わせてる私をマーガレットが気遣ってくれる。
「ああ……もしもの時は一緒に逃げてくれるか?」
「ふふっ。地獄の底までお付き合いいたしますわ」
可愛らしい顔でなんと頼もしい。
そこにはマーガレット自身の侍従はじめ、侯爵領の三分の一くらいの人員が軽く付き従ってきそうだな。
私はその日もちゃんと最後まで授業を受けて、マーガレットを自宅まで送り、家に帰った。
猪令嬢の両親はやはり猪のようで、すでに王宮に押し掛けていた。
あれだけ召喚状を無視してたのに、やはり娘は可愛いとみえる。
それとも王家に付け込む隙ありってことだろうか?
でも残念。王と王妃は視察に出かけてる最中で、宰相も外国の大使(王弟)をおもてなし中。
そりゃ狙うよ、それぐらいのタイミングはなっ。
騎士団長は当然王に付いて行ったし、副団長は宰相に付いている。
もちろんそれ以下の命令系統も決まっているが、いまいちしまりがないというか自信がなさそうな近衛を八人ほど選んで、なけなしの小遣いを押し付けて侍らせる。
相手は力のある伯爵だ。
目を付けられて後で仕返しされても可哀そうなので、仮面を付けさせたら、だいぶ気が楽になったようだ。
まあ下した命令自体シンプルで、伯爵一家を決められた線から私に近付かせなければいいだけだしな。
もっともあの騎士団長に鍛えられてるわけだから、必要とあれば命令外のことでも臨機応変に体が動くはず……動くといいなっ。
場所は謁見の間。
ただし、謁見の間はいくつもある。
王が権威を示すための、めちゃくちゃ段差があって、ものすごく豪華でバカみたいに広い第一の間。
信用のおける者に親しみを感じさせつつ、でも一応身分差を示す、こじんまりとして数段しか階段がない温かな雰囲気の第二の間。
貴族の罪人を処罰したり、場合によっては拷問するのを見届ける殺風景な第三の間。
今回は当然、第三の間を使う……無断で。
管理者である文官には小遣いを渡して、王子の命令で逆らえなかったと言えと言ってある。
さて、どうなることやら。
石造りの部屋には窓などなく、段差はあってもせいぜい一段。
血とか汚物などのもろもろが、こっちに流れてこないようにしてあるだけらしい。
いちおう緋色に金縁の豪華な椅子があって、そこに私はどっかと座る。
王をマネて最後に登場する方が権威を示せるのだろうが、前世の私は待ち合わせ場所には先に行っていないと落ち着かない性分で……と、来たな。
「ロビン殿下、どういうことですかな? お答え如何によってはこちらにも考えがありますぞ?」
「そうです、私たちの可愛い可愛い娘にこの仕打ち、何か恨みでも!? どうしたらこんなひどいことができるのですっ」
そんなに可愛いならちゃんと躾けておけよ。
しかし、ここで私が答えることはない。
だってさぁ。ほんとこの親にしてこの子あり。
「そうですぅ、ひどいですぅ、ロビン殿下ぁ~! 私、傷ついちゃいましたっ、だから責任とって私を殿下のお嫁さんにっ」
「おおっ、いい考えだ。私の娘は可愛い上に天才でもあるようだ」
「そうね、その通りね」
「いやだぁ、パパ、ママ~、そんな褒めないでよぅ! ほら、ロビン殿下も呆れてらっしゃるわ」
うん、最後のところだけは正解だ。
くどいようだが、私は仮にも王子。
無冠の貴族の子弟とは違ってこれはれっきとした地位だし、それなりに権利も権限もある。
少なくとも伯爵よりは偉いわけよ。
なのにこいつ等、膝を突くこともなければ、形ばかりの挨拶すらせず、許可もなく王族たる私に話しかけ、名前を呼ぶだけでも度し難いのに愛称呼びときた。
第三謁見室の内装もこけおどしと思っているようで、伯爵に至っては入室時、鼻で笑ってたもんな。
事実、私が勝手に使ってるわけだが。




