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うっかり王子に転生していた!  作者: 御重スミヲ
6/10

6、まさかの呪い


 それはともかく本題は例の痴女の話で、主に父上と兄上が話していて私は傍観者を気取っていたんだが。

「それではその魔女は私に呪いをかけようと?」

 繊細なところのある兄上の顔色がヤバイ。

 私はせっせと小皿にクッキーを取り分ける。糖分、こんな時は糖分だよ!

 ほとんど無意識に口に運ぶ兄上。

 侍従が入れ替えた熱い紅茶を飲んでほっと息を吐いた。

 うん、血色が少しは良くなったか。


「すまんな。面目ない話だが事の発端は儂なのだ」

「え? 父上、ですか」

「う、うむ。……ここだけの話だが、彼の魔女は元は身分ある女でな、儂の婚約者候補でもあったのだ。もちろんこのような身分に生まれた故、惚れた腫れたなどという話はない。周囲の貴族の都合や大きく言えば国のためであるな」

「しかし、父上には母上が……」


「うむ、そうなのだ。対抗馬などという言い方は少々品がないが負けず劣らず有力な候補者で、それであるのに儂に対して媚を売らぬ稀有な女であったので、それがとても魅力的に思えたのだ」

 大いに照れる父。

 え、いや、やめて。父親ってだけでもなんなのに、おっさんの照れとかこっちがむず痒い。

 しかも、思いっきり惚れて腫れてるじゃん!


「誓って言うが、儂は彼の魔女にそれらしき態度を取ったことは一度もない。しかし、学院にて王妃をはじめ周囲の令嬢たちを傷付けることが度重なったので、当時の王、儂の父とも協議して彼の女を国外追放にしたのだ。必要な処分だったとはいえ、小々情のないやり方だったかといまさらながら思えてな」

「父上……」

 なんだかんだ親子なんだな。

 普段は厳格な王の顔を崩さない人だけど、兄上のやさしい気質は父親譲りか。


「なんだ。呆れておるのかロビン」

「いえ、感心しておりました。やはり兄上は父上に似てらっしゃるのだと」

「そ、そうか?」

「それはうれしいし光栄だけれど、私は父上と違って優柔不断なところがあるから……」

 まあ戦国時代とかじゃそれはまずいかもしれないけどさ。


「ようはそれが求められる場合、即断したように見えればよいのでしょう? 私個人としてはなんの迷いもなく決められる方が怖いですよ。人を裁く時もそうですね。同じ結論を出すにしても、人の情を持って迷い抜いて決められたのだと思うと救われます」

「……深いことを言う。ロビンらしからぬ、いや、すまん」

 いいですよ~。お宅の次男さんおバカですから。


 結局、王宮に無断侵入して王族に呪いを掛けようとしたなんて極刑は免れない。

 それは父上も兄上もよくわかっていて、でも兄上には彼の女を不憫に思う情がある。

 魔女とか呪いって聞いてあんなにびびってたのに、まあ彼のやさしさは本物だ。

 将来王になって国を治めるにはそれじゃ不味い場面は多々あるだろうけど、兄上には変わって欲しくないなぁ。


 一方で父上の方にもそういう情がないわけじゃないが、それよりも魔女の有する魔法の知識を利用したいって思いがあるようだ。

「宮廷魔法師長の話によれば、呪いを維持するには相当の魔力が必要で、彼の魔女ほどの者でも一つ呪いを発動しただけで、ほかの魔法は一切使えなくなるだろうということだった。その間に彼の者が持つ知識をすべて書き起こさせたい。じつに情けないことではあるが、我が国の魔法はずいぶんと他国に後れを取っておるのだ。そこでだ」

 ぽんと肩を叩かれる私。私!?


「どうも彼の魔女は現王族に呪いを掛けられれば誰でもよいらしく……」

 なんだよ、私を残したのはそういうわけかよ!

 生贄にするなら優秀な王太子よりカスの第二王子だよな、心の底から納得だよ。

 ついでにサラリーマンは心で泣いてもにっこり笑えるんだ、ほんとだぞ?


「まず、伺いしたいのですが父上。その魔女とやらはどんな呪いを兄上に掛けようとしていたのですか?」

「うむ……ごにょごにょ」

 は? なんて?

「ごにょごにょ……」

「はあ、ようは男のシンボルが立たなくなると」

「ばっ、そうはっきり言うものではない」

 いや、でもこっちにはインポテンツなんて単語はないし。


「それは父上でもいい、というかその対象は父上が最適なのでは? 何しろ魔女にとっては元凶ですし、もうこれだけ子供を作ったのですからもう用は……まあ、老後の楽しみを取り上げてしまうのは息子として申し訳ない気もしないでもないですし、母上にも……」

「もうよい、もうよい。儂が悪かった!」

 高貴な人って割と下ネタに弱いのかね?

 前世ヨーロッパ貴族なんか菓子に乳首とか屁とか平気で名付けてたようだけどな。

 兄上も真っ赤になってるから、この親子だけの気質なのかもしれん。


「呪いを受けてもいいですよ」

「は?」

「え?」

「ただし、そのままは困ります。私にも愛するマーガレットがおりますので。ものは試しです、彼の魔女に私がこう言っていたと伝えてみてください。『何か一つ違えば我が母になられたかもしれないお方だ。積年の思いは如何ばかりか私には想像することもできないが、そう無慈悲な方とも思われない。私には愛する婚約者がいる。その婚約者と将来授かるかもしれない娘以外の女人が一切、私に触れられぬという呪いであれば私は受け入れる用意がある』と」

「ま、待て。このような重大なこと間違いがあってはならん。自ら書面に記すがよい」

「……はい」

 だからといって、罪人と直接会って話すのはダメだっていうんだから王子って不便だ。


 事が事だけに慎重に手続きは進められて無事、私は呪われた王子になった。

 こんな犯罪を犯すのは小々頭がイッちゃってる証拠で、でもようは一途な恋する乙女が拗らせただけなわけだし、魔法使いとしては本当に優秀。

 なおかつ私が指定した通りの呪いしか掛けられないように、宮廷魔法師長がまず契約魔法で魔女を縛ってから呪いを掛けさせるなんて念の入れようだ。

 まあ私も腐っても王子だしな。おかげで安心して呪われることができた。


 魔女としては、私の婚約者であるマーガレットが自分の血縁ってことも大きかったみたいだ。

 まあ、王侯貴族なんて皆どっかで血は繋がってるんだけどな。

 自分の知識を全部吐き出してから最後は毒杯を呷る気満々で、呪いを掛ける時だけは直接触れないとならないらしく直接顔を合わせたわけだけど、なんかお礼を言われたよ。

「殿下のような方がいらして、救われた思いです」


 私だって父上の話をすべて信じるほどウブじゃない。

 大人だろうと子供だろうと自分に不利なことは極力言わないものだ。それはズルではなく賢いんだろう。

 そして大人にはもう一つ知恵があったりする。そう、長いものには巻かれろ!

 当事者にとっては堪ったものじゃないが、すべては過ぎてしまったのだ。


「……あなたが死んだら私のへ呪いは解けてしまうのでは?」

「まあ、フフッ。喜ぶどころか心配なさるのですね。ご安心ください。私の知識は膨大で、すべてお伝えするのに四、五十年はかかりそうです」

「ならば安心だ」

「フフフフッ」


 いや~学院でピンク嬢が退場したと思ったら、今度は栗色の髪に水色の瞳で小動物系って本人は言ってるらしい女生徒が周りをうろちょろし始めて危機感を抱いていたんだ。

 顔のほぼ半分を目が占めてるとか、それ絶対人類じゃないだろ。

 これまではマーガレットとその取り巻きに守られて事なきを得てたけど……ええ!うちの側近たちが役に立ってませんが何か?

 ものは試しとさっそくマーガレット包囲網を解いてもらう。


「あ~やっとお会いできました~っ、きゃるん。ロビン殿下ぁ~! へぶしっ」

 ドカッ。

 おおっなんたる威力、自称最強魔女の呪いの安定感よ!

 五センチほどの距離は残していただろうか? 私に触れる前に弾き飛ばされ、廊下の壁に激突。気を失った模様。

 例によってうちの側近たちが保健室に運んでいった。

 ほんとこういう時だけ素早いのな。

「……素晴らしい効果と言ってよいのでしょうか」

「よいだろうね」

 にっこり。


 実際、たとえば侍女がいままでの習慣でうっかりとか、何も知らない女性が擦れ違いざまにニアミスなんて場合は、少々強めの静電気を感じる程度らしい。

 そもそも私がエスコートするのはマーガレットだけだし、ダンスも彼女以外としなくて良いならそれに越したことはない。

 侍従には当然男もいるし、なんだったら簡単な身支度くらい自分でできるのだよ。エヘン。



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