4、側近の名前
判決待ちの気分で過ごす日々。
私は自身の側近について考えた。
あーはい、ちょっと真面目モード。
いや、いまさら取り替えようにももうろくな候補者がいないしな。
だいたい私はなんの期待もされてない第二王子だ。
マーガレットを婚約者に宛がわれた頃は結構イケてた。たぶん王太子って地位も視野に入るくらい。
でも、いくらなんでももう駄目だな。
なにしろ今年の新年の祝いと合わせて兄上が立太子している。
それ自体は目出度い!
兄上は賢いしやさしいし、そうなってよかったと本気で思ってる。
ちょっともったいなかったか?なんて前世の貧乏性が顔をのぞかせても、もとより私にそんな才覚はないし、王サマなんて絶対に大変で割りに合わない職業だ。
いや、やったことないからじつのところは知らんけど、自分の柄じゃないことくらいわかるさ。
まあ数いる王子の一人としてそれなりに公務をこなして、これ以上マーガレットに肩身の狭い思いをさせないよう振る舞うのが今後の目標といったところだ。
それなら別段、剃刀のように切れる側近は必要ないわけで、馬鹿だのなんだの言ってる私自身大したものじゃない。
奴らをあんなふうにしてしまった一因は私にもあるしな。
赤、レッドフォードには「まず、クラスメイト全員の名前を覚えるように」
青、ブルームには「訓練場の周りを走って三週できるようになれ」と命じた。
「は? え? 何だよ突然、殿下」
「殿下、殿下も御存じの通り幼少の頃より私は体を動かすのが苦手でして」
「なにもいますぐできるようになれと言っているわけではない。そうだな、私がこの分厚い王国史Ⅰをすべて読み終わるまでの時間、それくらいを目標に少しずつ皆でがんばってみないか?」
阿保ではあるが、二人とも根は素直なのだ。
私が強引に作り出したなんとなく良いような雰囲気に押されて、やらなければというような目になってる。
「わかったよ。でも、なんだってオレが人の名前を覚えて、こいつが走るんだ?」
「そうです。逆であればまだしも走ることなどに意義を感じませんし、そもそも数十人分の人名を記憶するくらいすでにできていてしかるべきことで努力する必要すらありません」
「だからこそだ。相手の得意分野を少しでも齧ってみれば、それがどれだけすごいことかわかって尊敬の念も湧くだろう。お前たちは共に私を支えなければならないのだぞ? 相手を貶すばかりでなく、もう少しわかり合わなければな。とにかくやってみるのだ! ……私も苦手な王国史に取り組むのだから」
最後は王子の強権発動だ。
しかしまあ、なんで私は歴史の授業をあんなに嫌がっていたんだ?
前世では三国志とか大好きで、この王国史もちょっと文章は硬いが半分は戦史で面白いのなんのって。
軽く徹夜しかけて、野太い侍女にベッドに放り込まれる始末。
「えっ、もうそんな進んでるのか?」
「ず、ずいぶんと早いペースで読み進まれているのですね」
毎日、移動する栞の位置に焦る側近たち。
本当に読んでるのか疑うから、一緒にいる間は音読してやる。
「風雲急を告げる。憐れゼラム将軍、敵の悪辣なる奸計に気付くことなく……」
マーガレットにはマーガレットの付き合いがあるし、あまり付きまとうと彼女も息が詰まるんじゃないかと思い直して、婚約者2:側近1くらいの割合で休み時間を過ごしてる。
もう少し私の婚約者に対して気が使えるようになったら同席させるのもありだが、まあいまさら焦ることもない。
こいつらもこいつらなりにがんばっていることは確かなんだ。
「ア、アストス、ガストン、ハイデッカー……バ、バ、バー?」
「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……ゼーハー、ゼーハー」
じつは私は家ではすでに王国史Ⅲを読んでいる。Ⅹにまで読破したらもう一巡するつもりだ。
もともとの私が苦手にしていたことは確かなんだが、騙したようで悪いなレッドフォード、ブルーム。
二人共そんなカッコイイ名前だったとは、あらためて地味に驚いてるよ。




