第1屋 胡散臭い男
電車に揺られながら東京の暮らしに想いを馳せていた。母親の言葉が蘇る。
(東京行くなら、帰ってこなくていいから。)
なぜそんなことを言われたかは分からない。
離婚してから母親は、変わってしまった。
優しかった頃の面影は消え仕事に明け暮れている母親を目の前で見ていた。
そんな母親から逃げるように、遠くの大学への進学を決めた。
電車に揺れていると窓から川が見えてきたその瞬間に桜の花びらが舞った。
目的の駅で降り、東京の街並みに圧倒されていると、とんでもない事を思い出した、急いで近くの不動産屋に駆け込んで、住宅を探したがみつかるわけもなかった。
途方に暮れていると、不思議な看板を見つけた
(季節屋)
「季節屋…」
何なのかわからずボソッと呟いた
(チリンチリン)
扉がひらいた。
中から20代くらいの男が出てきた
「何してるの」
「別に何も」
顔をのぞき込まれ
「入りな」
立ち止まっていると
「いいから、入りな」
急かされた
「は、はい」
あとを追いかける。アンティーク調の店内の奥へ案内される。
「名前はなんての」
カウンターの奥ノイズに座った男に尋ねられた。
「あっ、四季春です」
「そうか…君が、ちなみに僕は、アキだよ」
そう名乗った男は続けて
「何してたの店の前で」
「実は……」
事の顛末を話す
するとアキは
「じゃあ、うちに住めばいい。確か2階の一部屋が空いていたはずだ。」
一人で話を進めるアキに。
「ちょっとまってください!」
私が静止した瞬間に扉がひらいた。
「アキさん、冬をくれ」
中年ぐらいの男が言う
「あいよ、了解」
と言いつつ(春休み中なのに)とぼやいている。
「あれ君は?」
中年ぐらいの男が聞いてくる。
「あっ、えっと…」
戸惑っていると
「新しい同居人」
アキが背中を向けたまま言う
「あぁ〜君が」
男が頷く
「私まだそんな」
私が訂正しようとすると
「いいからいいから」
間髪入れずにアキが言う。
アキが透明な水晶玉を棚から取り出す。
アキが水晶玉を撫でると段々と白くなっていった。
「はいこれ、気を付けてね。」
男に手渡す。
「ありがとう」
封筒を男が秋に渡す。
「はい、たしかに受け取りました。」
アキが封筒を胸ポケットにしまった。
「ではまた。」
男が店をあとにした。
「今のって?」
「魔法だよ」
「魔法?」
「そう、魔法」
ポカンとしていると
「そんな変なもんじゃないよ」
外が騒がしくなる。
「あぁ、まさか」
店を飛び出すアキを急いで追いかける。
店の外に出た瞬間4月だというのに寒かった。
騒ぎの方へ行くと急激に寒くなり雪が降っていた。
そして、割れた水晶玉の周りが白くなっていて雪をかぶった小さな木が生えていた。
すると、突然アキがシャボン玉を吹かし始めた。
「何してるんですか?」
気にせず続けるアキに不信感が湧いてきた。
でも、そんな気持ちはすぐに消えていった。
シャボン玉が白くなり弾ける瞬間にどんどん冬の気配が消えていった。そして、気が枯れ騒ぎが落ち着いた
「ふぅ、なんとかなった。」
さっきの男にアキは、
「もう、ほんとに気をつけてね」
「あぁ、急いでたもんでなぁ」
「もう一個作る?」
アキが、優しく聞く
「いや、いい。もう、今日はやめておくよ」
男に別れを告げ店に戻ってきた。
「で、さっきのなんですか?」
アキに詰め寄る。
「だから、魔法なんだって」
困り気味に言うアキに
「だから、魔法ってなんですか!」
困っているのはこっちだ、わけのわからないことが多すぎる。
「簡単に言えば、季節を閉じ込めることができるのこの水晶玉に。」
「これにですか」
手を伸ばす私の手をアキが掴んだ。
「駄目、触っちゃ駄目。」
その顔が、少し怖かった。
「はっ、はい、すいません!!」
「分かればいいんだよ。分かれば」
アキが、不貞腐れたように椅子に座る。
「そう言えば、なんで私が来るってわかったんですか?」
あの、男の反応といい予め私がここに来ることをわかっていたかのようだった。
「それは…」
カウンターの後ろの本棚から1冊の分厚い赤い本を取り出す。
「これ、占いの本」
アキが古ぼけた赤い本を見せる。
「コレの占いで、新しい出会いがあるって出てね。」
「胡散臭い…」
ボソッと呟いた
「なんか言った?」
ニコニコしているアキが怖い。
「何でもないです…」
どうなってしまうんだろう。
こんな胡散臭い男との生活なんて…
今回は、都会と季節と魔法のお話です。
春とアキやり取りやいろんな人との交流を楽しんでもらえたら幸いです。