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暁に高く翔べ  作者: 秋月真鳥
中学一年生

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4/60

土曜日の過ごし方

 土曜日を私はすごく楽しみにしていた。

 土曜日には中学校は休みになるが、その分歌とダンスの教室がある。

 中学校でも別々のクラスになってしまって、歌とダンスの教室では休憩時間くらいしか話す時間がないので、久しぶりに千草ちゃんとゆっくり話せそうで嬉しかった。


 夜もこっそりとメッセージアプリを使ったり、通話したりしているのだが、私の携帯電話も千草ちゃんの携帯電話も制限がかかっていて、夜の二十二時以降は使えなくなってしまう。

 夜更かしをしてしまうと次の日がつらいのだが、もう少し話したいことがある日もあるのだ。


 千草ちゃんとはオムツをしている時期から歌とダンスの教室と、ピアノ教室で一緒になっている。私も千草ちゃんもその頃はまだ二歳とかだったと思う。

 記憶にはないのだが、一人っ子の私と千草ちゃんは姉妹のようにして育ってきた。


 両親がこのマンションに住むようになったのも、千草ちゃんが隣りの棟に住んでいるからだし、千草ちゃんの両親が仲のよかった頃は家族ぐるみで付き合いがあった。

 今は別居して千草ちゃんのパパは別の場所に住んでいるが、それでも千草ちゃんのママと私のママは本当に仲がいい。

 小学校も中学校も高校も一緒だった幼馴染というのもあるが、歌劇団が千草ちゃんのママと私のママを繋いでいた。


「見た? 次の公演のポスター?」

「見たわ! 最高に格好よかった!」

「絶対にチケットを取るわよ!」

「頑張るわ!」


 顔を合わせるたびに私のママと千草ちゃんのママは歌劇団の話をしている。共通の趣味なのだ。

 その歌劇団が私と千草ちゃんを出会わせてくれたのだと思うと、感謝しかない。

 私にとっては千草ちゃんはかけがえのない親友だった。


「土曜日に千草ちゃんが泊まるんだろ? ベランダでバーベキューするか?」

「パパ、休みなの?」

「その日は有休をとらせてもらうよ。午前中は寝かせてもらうけど、午後からは頑張るよ」


 パパも社畜と言われるお仕事が忙しい会社に勤めているのだが、こういうときはちゃんと有休をとって私のための時間を作ってくれる。

 普段は仕事しかしていないとママも文句を言うが、こういうときにはちゃんとしてくれるパパのことを信頼して愛しているんだと思う。


 土曜日には朝から歌とダンスの教室があった。

 お弁当を持って行っているのだが、先生たちが私たちにお弁当を出すように言った。


「四月なのにこの陽気だから、お弁当が傷んでしまうと大変です。事務所の冷蔵庫に入れておくので、お弁当は預かります」

「お願いします」


 数年前に夏場にお弁当が傷んでお腹を壊す事件が起きたのだ。それ以来、私たちのお弁当箱は冷蔵庫に入れてもいいものになっていて、冷蔵庫から出したら先生たちが電子レンジで軽く温めて持ってきてくれていた。

 こういうことまでしてくれるのは、夏場にお弁当が傷んで起きた食中毒事件が保護者の間で大きな問題になったからだろう。

 電子レンジと冷蔵庫を買うお金は保護者から募って出されたし、先生たちは手間が増えたので少し給料が増えたと聞いている。


 全員で柔軟体操をして、ピアノに合わせて発声練習からしていく。

 体が温まった頃に、ダンスの練習が始まる。ピアノに合わせて踊るのだ。

 クラシックバレエを中心に、モダンバレエも取り入れて、デュエットも練習する。


 歌とダンスの教室には、私が入った頃のような幼児の生徒さんから、高校生くらいの生徒さんまでいる。

 私はほとんど千草ちゃんと組んでデュエットを踊っていた。

 千草ちゃんにリードされることもあれば、私がリードすることもある。


 踊った後には、歌の練習が始まる。

 全員で歌った後に、一人一人ピアノの前に出て歌う。

 課題曲はそれぞれ違って、違う生徒さんの歌を聞くのも勉強だと教えられているので、私も千草ちゃんも椅子に座って静かに聞いていた。


 時々幼児の生徒さんが泣いたりするのだが、それもいつものことなので気にならない。


 午前中の練習が終わると、先生たちが冷蔵庫から出して電子レンジで温めてくれたお弁当を食べる。


「温かいお弁当って食が進むわ」

「本当に電子レンジがあってよかったね」


 千草ちゃんと話ながら食べるのだが、千草ちゃんのお弁当箱は私のお弁当箱より二回りくらい小さい気がする。

 成長期だし、これだけ体を使っているので、私はいつもお腹を空かせている。千草ちゃんがどうしてそれだけしか食べないで平気なのか不思議でならない。


「千草ちゃん、今日は楽しみだね」

「暁ちゃんの部屋にお布団敷いてもらえるのかしら」

「うん、そうだよ」


 話しながらお弁当を食べて、食休みを少ししてから、午後の練習に入る。

 午後は踊りながら歌う、ミュージカル形式だ。

 ダンスと歌を同時にしなければいけなくて、かなり頭を使う。

 汗びっしょりになって練習が終わるのは午後三時過ぎ。

 そこから着替えて、私と千草ちゃんは迎えに来たママの車に乗った。


「お腹空いたー! ママ、何か食べたい」

「おやつを用意してるわよ。千草ちゃんにも」

「やったー! 千草ちゃんもお腹空いたよね?」

「ちょっと」


 どうして同じだけ運動しているのに、私はお腹がこんなに空いて千草ちゃんは少しだけなのか理解できない。

 千草ちゃんの肩に乗っている鶏さんは元気そうだが、私の膝の上の子犬さんは潰れている。

 私はこういう風に守護獣の様子で守護されている相手の体調や気持ちが分かってしまうのだ。


 家に帰るとママはサツマイモの入った蒸しパンを作っていてくれた。

 電子レンジで温めて、バターを付けて食べると最高に美味しい。


「ママ、美味しい! ありがとう!」

「暁ちゃんは、それが好きよね」

「蒸しパン大好き!」

「バター付けすぎないでね?」


 ついつい大量にバターを付けてしまう私に、ママは注意する。千草ちゃんが一個蒸しパンを食べる間に、私は三つ食べてしまった。

 食べ終わって千草ちゃんと私で交代でシャワーを浴びる。

 歌とダンスの教室の後は汗だくなので、シャワーを浴びなければ気持ち悪いのだ。


 シャワーを浴びてすっきりした私と千草ちゃんに、パパがベランダでバーベキューセットを設置してくれている。

 このマンションはベランダでバーベキューをしてもいいという決まりになっているのだ。

 炭に火を起こすパパは格好いい。


「暁ちゃんのパパは素敵ね」

「普段は寝てばかりだけどね」


 ちょっと羨ましそうに目を細める千草ちゃんは、今頃会っている千草ちゃんのママとパパのことを考えているのだろうか。

 何度やり直そうと言われても、千草ちゃんのママは千草ちゃんのパパの不倫を許すことができないようだった。


「うちのパパはそういうタイプじゃないもんね」


 ものすごく格好いいかといえばそうではないが、普通で平凡なパパ。ママはパパの背が高いところに惚れたのだという。


「パパはすらっとして背が高くて、バレーボール部のエースだったのよ。とっても格好よかった」


 パパの話になると、ママの表情が柔らかくなる。

 惚気も何度も聞いているが、私も千草ちゃんもにこにこして聞いていた。

 ママの頭の中には、子どもを歌劇団の付属学校に入学させるという夢があって、できれば男役にしたいという考えがあった。パパの身長が高ければ生まれて来る子どもは背が高い可能性が増える。

 それも考えてのことだったのだろうが、それ以上にママはパパに夢中なのだと私には分かっていた。


 パパの遺伝子を継いでいるのか、私はクラスの女子の中でも背は高い方である。

 これからどう伸びていくか分からないが、背が高くなる可能性はあるということだ。

 千草ちゃんはほっそりとして小柄だが、学年の最後の三月生まれだから仕方がない。

 私は学年の最初の五月生まれ。

 来月にはお誕生日が来る。


「そろそろ肉を焼くぞ。ベランダにおいで」


 パパが私たちを呼ぶ。

 お皿とお箸を持って私と千草ちゃんとママはベランダに出て行った。

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