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暁に高く翔べ  作者: 秋月真鳥
中学二年生

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12.桃の特大パフェを食べに

 歩いて行ける範囲のデパートに入っているフルーツが有名なカフェで、特大の桃のパフェが食べられると聞いて、私はパパとママにお願いしていた。


「このお店にどうしても行きたいの! お願い!」

「旭くんはまだ小さいから連れて行くわけにはいかないからなぁ」

「暁ちゃんを一人で行かせるのは心配だし」


 パパとママの許可は簡単には降りなかった。

 それでも私は何回もお願いした。


「この特大パフェが食べたいのよ。お願いします」


 パパとママも私のために考えてくれた。


「一人で行くのは危ないから、千草ちゃんと香織ちゃんと一緒にだよ」

「お手洗いに行くときも三人、離れてはいけませんよ」

「いいの?」

「そこまで暁ちゃんが言うなら仕方がないよ」

「楽しんでおいで」


 許しを得て、私は塾もピアノの教室も歌とダンスの教室もない日曜日に、香織ちゃんと千草ちゃんとデパートのカフェに行けることになった。

 注文はお小遣いの範囲内ですること。

 何かあったらすぐにパパとママに連絡すること。

 お手洗いでも三人離れずに一緒に行くこと。


 ちょっと過保護かもしれないが、中学二年生の私と千草ちゃんと香織ちゃんだけで出かけるのだから仕方がないだろう。

 保護者がいなくて自分たちだけでお出かけをするのは初めてで、私も千草ちゃんも香織ちゃんもワクワクしていた。


「明日何着て行こうかな」


 塾の帰りに香織ちゃんのママの車の中で千草ちゃんが言う。


「沙織ちゃんにバレないようにしないと。追及が厳しいのよ」

「ねぇね、なぁに?」

「何でもないわよ」


 香織ちゃんは沙織ちゃんに内緒で出かけるつもりだった。

 私も明日の洋服には迷う。

 爽やかな水色の襟と袖のシャツに、水色のスラックスをはいていこうか。

 前髪もあげ気味にして歌劇団の男役さんみたいにしようか。


 初めてのお出かけは私にとってはずごく楽しみだった。


 当日は千草ちゃんと私のマンションの棟の真ん中にある公園に集まって、三人で歩いてデパートまで行った。

 千草ちゃんはミントグリーンの袖と襟のシャツを着て、ミントグリーンのプリーツスカートをはいて、トレードマークのポニーテールに髪を結んでいる。

 香織ちゃんはシャツとジャケットとジーンズという格好で決めていた。

 話しながらだとデパートまでの道も時間がかからないように感じられる。


「次の発表会はウエストサイドストーリーだって言ってたよね」

「ロミオとジュリエットの派生になっちゃうね」

「トゥナイト、私は好きだから嬉しいわ」


 春に行われる発表会は、もう演目が決まりつつあった。

 今年はロミオとジュリエットだったが、今度はウエストサイドストーリーだ。

 ウエスサイドストーリーもロミオとジュリエットの派生で、街を二つに分断する派閥があって、別々の派閥の男女が愛し合う物語だ。


 千草ちゃんは主題歌であるトゥナイトが好きだと言っているが、私は少しつまらなくも感じていた。

 もっと幅のある演技をやりたい。


「オペラ座の怪人とか、エリザベートとか、やりたかったなぁ」

「暁ちゃんは、ラウルかしら。怪人かしら」

「怪人をやりたいわね」


 正統派の男役ばかりではなく、悪役もやりたい。

 私の言葉に千草ちゃんがころころと笑う。


「怪人とか死の象徴をやったら、暁ちゃんが相手役じゃないみたいじゃない」

「香織ちゃんがラウルや陛下をやったらいいのよ」

「私が千草ちゃんの相手役!?」


 香織ちゃんが千草ちゃんの相手役で、私は悪役を演じる。それもまた面白そうだと感じていた。

 正統派のヒーローばかりを振り当てられるのは面白くない。


「役決め、楽しみね」

「主役をもらえるように頑張らないと」

「私も主役を狙ってみようかな」

「香織ちゃん、ライバルだね」


 自分の意に添わない演目でも主役の座は譲れない。

 私の言葉に香織ちゃんが自分も主役を狙うと言って、私と香織ちゃんは顔を見合わせて笑い合った。

 どちらが主役になってもいい発表会になりそうだ。


 デパートに着くと案内板を見ながらカフェのある場所まで歩いていく。

 休日のお昼過ぎだったのでカフェはひとが並んでいた。


「お名前をお書きになってお待ちください」


 店員さんに声をかけられて、私は千草ちゃんと香織ちゃんの顔を見る。初めてなのでどうすればいいのか分からないのだ。


「そのボードの上の紙に名前と人数を書けばいいんだと思う」

「分かった。やってみるね」


 店の入り口にボードが立ててあって、そこに紙が置かれている。

 名前と、人数と、禁煙か喫煙かと、子どもの数を書く欄があった。


 高羽、三人、禁煙で書いてみたが、会っているのか分からなくて落ち着かない。

 そわそわしながら椅子に座ると、隣りの女性たちが私と千草ちゃんと香織ちゃんを見ている。


「あの子たち可愛い」

「どこかの芸能人かしら?」


 噂されているのに更に落ち着かなくなる私の手を両方から千草ちゃんと香織ちゃんが握ってくれる。


「この試練を乗り越えたら暁ちゃんの特大パフェが待っているのよ」

「桃を丸々一個使った、贅沢なパフェよ」


 演技っぽい言い方に私も表情を引き締める。


「そのために来たんだものね。絶対に食べて帰らなくちゃ!」


 三銃士が「一人はみんなのために、みんなは一人のために」と誓うように、私と千草ちゃんと香織ちゃんは手を重ねた。


「全ては特大パフェのために」


 お会計を終えたお客さんが出て行って、前に並んでいた女性たちが呼ばれる。

 その次は私たちの番だ。

 ドキドキしながら待っていると、名前が呼ばれた。


「三名でお待ちの高羽様」

「はい!」


 返事をして店の中に入る。

 四人席に通されて、椅子とソファに別れて座る。

 私は椅子で、千草ちゃんと香織ちゃんがソファだった。


 お水とおしぼりを持ってきてくれた店員さんに、勇気を出して注文する。


「特大の桃のパフェをお願いします」

「スプーンは何個お付けしますか?」

「三個で」


 私と千草ちゃんと香織ちゃんで食べるだけの量がパフェにはある。

 一つだけ私は特大の桃のパフェを注文した。


「お飲み物は?」

「水で大丈夫です」


 飲み物まで注文するお金はない。水で十分だと言えば、店員さんは注文を繰り返して戻って行った。

 特大の桃のパフェが来るまで千草ちゃんと香織ちゃんとお喋りをする。

 千草ちゃんも香織ちゃんも、お店の雰囲気に慣れていない様子で、そわそわしていた。


「子どもだけでこんなところに来るのは初めて」

「暁ちゃん、堂々とした注文ぶりだったわよ」

「本当?」

「私、メニューを指差して、『これ』しか言えなかったと思う」


 千草ちゃんにも香織ちゃんにも褒められてしまった。


「主役になったつもりで注文したのよ」


 私が言えば千草ちゃんも香織ちゃんも感心したように目を丸くしていた。


 特大の桃のパフェが運ばれて来る。

 大きなパフェ用のグラスの中にはぎっしりと桃が詰まっていて、上には一個丸々桃が乗っている。


「どうやって食べる?」

「何とかなると思う」

「食べてみれば分かるわ」


 どうやって食べるか迷う私に、千草ちゃんと香織ちゃんは挑戦的だった。

 崩しながら桃を食べていく。

 桃の中にはアイスクリームが入っていて、冷たくてとても美味しい。


「美味しいね、千草ちゃん、香織ちゃん」

「うん。来てよかったね」

「千草ちゃん、もう食べないの?」

「お腹がいっぱいになって来ちゃった」


 千草ちゃんと香織ちゃんと食べていると、香織ちゃんが千草ちゃんがもうスプーンを置いたことに驚いていた。


「千草ちゃんは小さい頃から食が細いから」

「暁ちゃんがものすごく食べるからそのイメージだったわ」

「私と暁ちゃんは食べる量は全然違うのよ」


 香織ちゃんは千草ちゃんが少食だとは気付いていなかったようだ。

 残りの特大の桃のパフェは私と香織ちゃんで食べた。

 最終的には私が最後まで食べて、私が一番量を食べていたと思う。


 食べ終わっておしぼりで手を拭いて、紙ナプキンで口の周りも拭くと、お会計に行く。

 お会計では千草ちゃんと香織ちゃんは遠慮したが、私は自分が支払うことに強引にしてしまった。


「私がどうしても行きたくて誘ったんだし、私が一番食べてたから、今回は私に支払わせて」

「申し訳ないわ、暁ちゃん」

「私も食べたのに」

「いいのよ、千草ちゃん、香織ちゃん。次にどこか行くことがあったら、今度は奢ってね」


 約束をして、私が支払いをした。

 デパートに入っているお店なので安い金額ではなかったが、桃が丸々一個以上入っていることを思えば、順当な値段だと言えるだろう。


 デパートからの帰りも歩いて私と千草ちゃんと香織ちゃんはずっと離れなかった。


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