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暁に高く翔べ  作者: 秋月真鳥
中学二年生
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2.香織ちゃんに打ち明ける

 担任の先生のことが気になって、私はタロットカードに向かっていた。


 最近の悩みは、タロットカードのことや守護獣のことを香織ちゃんに話すかどうかだ。

 香織ちゃんも私の友達になったのだから理解してほしい気持ちはあるのだが、こういうことを話すと気味悪がられることもあると私は学習していた。


 小学校のときに千草ちゃんと私が話しているのを聞いたクラスの子が大声で言ったのだ。


「高羽さんと狛野さんは幽霊が見えるとか言ってるわよ! そんなものいるはずがないのに!」


 幽霊が見えるという話をしていたわけでも、幽霊がいるという話をしていたわけでもなかったはずだが、守護獣の話やタロットカードの話を聞いて勝手に勘違いしたのだ。


「霊能者のつもりなの?」

「タロットカードとか使っておかしい」

「占いなんて信じるのは馬鹿だけよ」


 全否定された挙句、私と千草ちゃんはクラスで変な子たちだと言われて、仲間外れにされてしまった。

 あの言葉の裏に、私と千草ちゃんの成績や、ダンスと歌の教室やピアノの教室に通っていて、運動神経がよく、音楽の授業でピアノを弾くように頼まれることもあるからだろうと分かったのは、かなり後になってから。

 それまでは私は確かに傷付いていた。


 あんなことを香織ちゃんから言われてしまったらどうしよう。

 香織ちゃんは私の言葉を信じてくれるだろうか。


 不安になりながらもタロットクロスの上でタロットカードを混ぜる。

 最初は左回りに浄化をしながら。続いて占うべきことを考えながら、全てのカードに触るようにして右回りに混ぜる。


 お祖母ちゃんからもらったタロットカードは少し傷はあるけれど、裏面の絵も綺麗なままで、触っているとさらさらとした感触がする。

 その感触に私は落ち着いていた。


 ヘキサグラムという六芒星を模したスプレッドで占う。

 これからの私のこと。担任の先生のこと。


 一枚目の過去のカードはソードの五の正位置だった。

 意味は、混乱。

 手段を選ばずに強奪するという意味がある。


『暁ちゃんの大切なものをあの先生は狙っている。夢とか、千草ちゃんのお母さんのお腹にいる赤ちゃんとか、中学校に出て来ることがあれば旭くんとか。それを強奪したい、できないならば壊してしまいたいと思っているね』


 子犬さんの言うことの恐ろしさに私は震えてしまう。

 私は見てしまっていた。担任の先生の纏う黒い影が千草ちゃんのママを階段から突き落とそうとするところを。

 千草ちゃんのママのお腹には赤ちゃんがいるのだ。階段から突き落とされたら無事ではいられないだろう。


 ぞっとしつつ、続いて現在のカードを捲る。

 ワンドの七の逆位置だ。

 意味は、奮闘。

 逆位置だと不利な立場で苦戦を強いられるという意味がある。


『あの先生に憑りついているのは、たくさんの生きている人間の妬みだ。それを引き寄せて一つにしてしまった。僕たちでも簡単には祓えないね』


 子犬さんも簡単には祓えなくて苦戦を強いられると言っている。

 どうすれば担任の先生に纏わりつく黒い影を祓うことができるのだろう。


 考えながら近未来のカードを捲る。


 ソードのペイジの正位置が出た。

 意味は、警戒。

 状況を見定め冷静になるという意味もある。


『冷静に状況を見極めて、先生の方を突いた方がいいかもしれない。先生の心が乱れれば、生霊たちも散り散りになるかもしれない』


 子犬さんは黒い影ではなく先生の方をどうにかしろと言っている。そっちの方が私にとっては難しいのだと分からないのだろう。

 私は中学校の一生徒で、先生は担任だ。どうにかすることなどできるのだろうか。


 アドバイスのカードを見るとソードの七の正位置だった。

 意味は、裏切り。

 誰にも知られないところで悪だくみをしているという意味がある。


『先生を罠にかけよう。危ないかもしれないけど、千草ちゃんのお母さんを中学校に連れて来るんだ。先生は絶対に動く。そこで証拠を掴めばいい』


 先生を教師という立場でいられなくすれば、黒い影の集合体も崩壊して子犬さんと鶏さんで倒せる大きさになるのかもしれない。

 とにかく先生を守るように周囲に纏わりついていた黒い影はとても大きかった。

 あれは子犬さんと鶏さんでも厳しいだろう。


「千草ちゃんのママを中学に呼ぶ……それで罠にかける……私にできるかしら」


 私一人ではとてもできる気がしない。

 千草ちゃんにも助けてほしかったし、香織ちゃんにも助けてほしかった。

 そのためには香織ちゃんに私が守護獣が見えることと、タロットカードで守護獣と会話して占いをしていることを話さなければいけない。


 それは私にとってハードルの高いことだった。


 それでもこれからの中学生活と、私たちの夢、千草ちゃんのママとお腹の赤ちゃんの安全、旭くんの安全を考えれば私は決意するしかない。


 相手の気持ちでは、私は香織ちゃんの気持ちを見た。

 ペンタクルのクィーンの正位置。

 意味は、寛容。

 相手に尽くすことで自分も成長し、強くなるという暗示だ。


『香織ちゃんはきっと協力してくれる。香織ちゃんは暁ちゃんの全てを受け入れる準備ができているよ』


 子犬さんに言われると勇気が出て来る。


 質問者の気持ちは当然、私の気持ちだった。

 カードを捲ると、ワンドの十の正位置。

 意味は、重圧。

 重圧に耐えかねて放り出したくなっているという意味もある。


『暁ちゃんにとっては、色んなことが思い出されて香織ちゃんに告白するのも怖いし、千草ちゃんのお母さんを守り切れるかも怖いんだよね。ものすごくプレッシャーを感じている。でも、暁ちゃんならできるよ』


 子犬さんは励ましてくれるが私は自信がなかった。


 最終結果は、ペンタクルのエース。

 意味は、実力。

 今まで頑張ってきたことが実るという意味もある。


『これまでの信頼関係がちゃんと実るから大丈夫。暁ちゃん、みんなを信じて』


 子犬さんの言葉に、私は香織ちゃんに話をすることを決めていた。


 千草ちゃんには中学校に一緒に行く途中で香織ちゃんに話すことを相談してみた。


「香織ちゃんに守護獣とタロットカードのことを話そうと思っているのよ」

「いつかは話さないといけないことだものね」

「千草ちゃんもそう思ってた?」

「香織ちゃんだけ仲間外れは嫌だわ」


 千草ちゃんも見えないし、触れないけれど、私の言うことを信じてくれるし、私の占いを信じてくれる。タロットカードを使っているなんて言ったら怪しまれるかもしれないのに、千草ちゃんは最初からそんなことはなかった。

 最初にタロットカードを使ったときに千草ちゃんが一緒だったからかもしれない。


 お祖母ちゃんに教えてもらって、本も買ったけれど、私は一人でタロットカードを使う自信がなくて、千草ちゃんに同席してもらったのだ。

 本を見ながら一生懸命子どもの手には大きいタロットカードを混ぜて、占いをした。それを千草ちゃんはずっと見ていてくれた。


「香織ちゃんも私たちの仲間よ。心配することないわ」

「そうよね」


 千草ちゃんの一言が何より私を勇気づけた。


 中学校の昼休みに香織ちゃんはいつもの通りに私と千草ちゃんのところに来た。私は他のひとに話が聞こえないように教室から出て、中庭に行った。

 中庭は天気がよくて外遊びをあまり好まない現代の中学生は来ることが少なくて、内緒の話をしやすいのだ。


「香織ちゃんに話しておきたいことがあるの」

「なに、暁ちゃん?」

「信じられないかもしれないけれど、聞いて欲しい」


 前置きをする私に、香織ちゃんは赤みがかった黒い目でじっと私を見詰めている。香織ちゃんの目も髪もちょっと赤みがかった黒だ。


「私、守護獣っていうひとを守護する獣が見えるの」

「え? どういうこと?」

「私には子犬さんがついているし、千草ちゃんには鶏さん、香織ちゃんには兎さんがついているわ」


 説明すると、香織ちゃんはまだ理解できない様子だった。


「みんなに守護してくれる獣がいるってこと?」

「みんなにいるかは分からないんだけど、ほとんどのひとにいるのかな。時々いないひともいる。複数いるひともいる。でも、香織ちゃんには兎さんがついてるよ」


 私が説明すると、香織ちゃんは頷く。


「私には見えないけれど、暁ちゃんと千草ちゃんには見えるんだね」

「千草ちゃんには見えないの。見えてるのは私と、多分弟の旭くんだけ。昔はお祖母ちゃんも見えてたみたいなんだけど、年を取るにつれて見えなくなったって言ってた」


 詳しく話していくと香織ちゃんは納得したようだ。


「暁ちゃんにはそういう力があるんだね」

「それで、タロットカードを使って、守護獣さんとお話ができるの」

「本当に!? すごい!」


 疑うどころか香織ちゃんは私の言葉を信じてくれて、すごいとまで言ってくれる。


「暁ちゃんの占いは当たるんだから、香織ちゃんも占ってもらうといいよ」

「今度お願いしてもいい?」


 盛り上がって話していると、背筋がぞくりとするような気配が近くを通った。私が黙って千草ちゃんと香織ちゃんを茂みに隠すと、担任の先生が黒い影を纏って歩いている。


『あの子たちはどこ?』

『あの子たちの夢を潰さないと』

『正しい道に押し進めてあげるのよ』


 黒い影に口ができて、口々に言っている。息を潜めて私は先生に見つからないようにじっとしていた。

 先生の黒い影は私に気付くかと思ったが、そのまま通り過ぎてしまった。目がないので私を先生の視覚を通してしか感知することができないのかもしれない。

 とにかくあの先生は危険だ。

 早いうちに手を打たなければいけない。

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