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暁に高く翔べ  作者: 秋月真鳥
中学一年生

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旭くんの守護獣

 旭くんが生まれてから、旭くんの周囲に黒い影が現れ始めた。

 黒い影は旭くんに囁く。


『新鮮な生命の香り』

『一口齧れば昇天できるだろう』

『仙骨を嗅いでやろう』


 旭くんのことを狙っているのは間違いなかった。

 お祖母ちゃんは赤ちゃんは死にやすいと言っていたが、こんな風に赤ちゃんを脅かす存在が昔からいたのかもしれない。

 原因不明で死んでいく赤ちゃんの話を、お祖母ちゃんの話を聞いてから私も調べていた。


 ママは旭くんに付きっきりでお世話をしているけれど、疲れて眠ってしまうときもある。パパも旭くんのお世話と家のことをしてくれているけれど、旭くんを見ていられないことがある。


 私が旭くんを守らなければいけない。

 決意を新たに私はタロットカードで子犬さんに相談してみることにした。


「旭くんの守護獣がまだいないんだけど、旭くんを守る獣が来てくれないのかな?」


 タロットクロスを広げてタロットカードをよく混ぜて捲ると、恋人のカードが出た。

 意味は、心地よさだが、そうではなくて二匹の狼の番が一緒にいる絵が私には気になった。


『僕の眷属を呼んでみましょう! 任せて!』


 子犬さんは快く請け負ってくれた。

 子犬さんに頼んだ二日後、私が歌とダンスの教室から千草ちゃんのママと千草ちゃんに送られて帰ってくると、大きな犬が旭くんのベビーベッドの足元に蹲っていた。


「セントバーナード!?」


 確かものすごく大きな犬で、救助犬としても活躍している心優しい犬だったではないだろうか。

 セントバーナードは旭くんに黒い影が近寄ろうとすると、『きゃんきゃん!』や『ぐるるるる!』と鳴いて追い払っている。

 これで旭くんは安心だが、私は子犬さんに聞きたいことがあった。


「セントバーナードは眷属なの?」


 タロットクロスを広げてタロットカードを混ぜて出した一枚は、皇帝のカードの正位置。

 意味は、社会だが、イエスとノーで聞いた場合には、イエスになる。


『僕の眷属だよ。まだ子犬だから頼りないかもしれないけど、力は強いし、旭くんと一緒に育っていくよ』


 子犬さんの言葉に、私はセントバーナードについて調べてみた。

 携帯電話で調べてみると、セントバーナードは九か月の時点で既に五十キロを超すというのだ。

 成犬になると八十キロ、大きいものは九十キロになるらしい。


「つまり、あのセントバーナードさんは、九か月くらい?」


 その問いかけに、星のカードの正位置が出る。

 意味は、希望だが、イエスかノーかで言うとイエスになる。


 九か月くらいのセントバーナードさんで大丈夫か不安ではあったけれど、ちゃんと旭くんに近寄る黒い影は全部払ってくれている。その姿に私は安心していた。

 セントバーナードさんが来る前は、私の子犬さんや千草ちゃんの鶏さん、ママの守護獣のパピヨンさん、パパの守護獣のパンダさんが追い払ってくれていたけれど、これで旭くんにも守護獣ができた。


「旭くんの守護獣は子犬さんが呼んだけど、そういうネットワークがあるの? それに守護獣がいないひともいるし、複数いるひともいるけど、そういうのは……」


 質問しかけて、私は口を閉じた。

 タロットカードを使うときには複数の質問を一度にしてはいけない。

 そのことを忘れていたわけではないが、気になりすぎて質問が次々と口から出ていた。


「子犬さんには守護獣のネットワークがあるの?」


 私の問いかけに、カップのキングの正位置が出た。

 意味は、寛大。

 頼りになる穏やかな男性という意味もある。


『僕は守護獣の中ではそれなりの地位があるんだ。子犬だけど。だから、眷属を呼ぶこともできる』


 続いて私は子犬さんに聞く。


「旭くんは守護獣がいなかったけれど、守護獣がいないひととか、複数いるひとがいるのは何故?」


 問いかけながらカードを捲ると、ソードの三の逆位置が出た。

 意味は、痛み。


『守護する相手の痛みを引き受けて消えていく守護獣もいる。心に痛みを持っていて守護獣を引き寄せないひともいる。そういうことだよ』


 子犬さんが答えてから、私はまた二つの質問をしてしまっていたことに気付いた。いないひとのことは子犬さんは答えてくれたけれど、複数いるひとに関しては答えてくれなかった。


 同じ質問を何度もするのはよくないと分かっているので、それでタロットカードを片付けて私はリビングに行った。

 ママが旭くんにおっぱいをあげていて、パパが心配そうに私を覗き込んでくる。


「お腹が空いてないのかな? 暁ちゃんがご飯の前に部屋に飛び込んじゃったから心配したよ」

「お腹ぺこぺこ。でも、どうしても気になることがあったの」


 何も食べないで占っていたので、私はものすごくお腹が空いていた。


 パパはお祖母ちゃんの息子だから、私がタロットカードでどうしても気になることを占っていても怪訝な目で見ることはない。

 ママはタロットカードを信じていないようだけれど、私の趣味の一つとして理解はしてくれている。

 私は奇異の目で見られるのが嫌だから、タロットカードのことも守護獣のことも、はっきりと伝えているのはお祖母ちゃんと千草ちゃんだけだった。


 晩ご飯はサーモンとマグロとイクラの乗った海鮮丼だった。青さのお味噌汁と湯通しした千切りキャベツの塩昆布和えも出て来る。

 海鮮丼を頬張りながら、私はパパに親指を立てて美味しいと伝える。

 パパは大らかに笑っていた。


 冬になる前に千草ちゃんのママは正式に離婚して、慰謝料にマンションと多額のお金をもらい、養育費も払ってもらうという誓約書を千草ちゃんのパパに書かせた。


「面会をしたいって言ってたけど、断ったの」


 千草ちゃんが千草ちゃんのママのお腹にいる頃から不倫をしていて、千草ちゃんが生まれても碌に面倒を見なかった千草ちゃんのパパに、千草ちゃんが懐くはずがない。

 それよりも二歳の頃からピアノを習っているピアノの先生の方が千草ちゃんの好感度は高いようだった。


「ママとピアノの先生と三人で、お茶をすることになったのよ」

「本当? 楽しんで来てね」

「うまくいくか、暁ちゃん、占ってくれない?」


 お願いされて、私はその日の塾の後で少しだけ千草ちゃんをお部屋に招いていいか千草ちゃんのママにお願いした。


「千草ちゃんとお話ししたいの。少しの時間だけ、塾が終わったら、私のお部屋に招いていい?」

「千草ちゃんもお話ししたいの?」

「そうなの。ママ、お願い」


 千草ちゃんが頼むと、車を運転していた千草ちゃんのママは柔らかく微笑んだ。

 離婚が成立してから千草ちゃんのママは表情も明るくなって、優しく柔らかい印象になった。


「いいわよ。少しだけね。私も旭くんに会いたいわ」


 千草ちゃんのママは私をマンションの部屋まで送って行ってくれて、私のママとパパに挨拶をして、中に入れてもらった。


「私は旭くんの顔を見たいし、千草ちゃんは暁ちゃんとお話があるみたいなの」

「遠慮せずに入ってよ、千枝ちゃん」

「紅茶を淹れましょうね。暁ちゃんを送ってくれてありがとうございます」


 ママもパパも千草ちゃんのママを歓迎していた。


「千枝ちゃんは結婚して名字を変えなくて本当によかったわね」

「名字は変えたくなかったから、話し合って、私の名字にしたのよね」


 結婚するときに千草ちゃんのママは名字を変えたくなかったので、千草ちゃんのパパを説き伏せて自分の名字にしてしまったようだ。

 そういううっぷんが溜まっていただとか千草ちゃんのパパは言っているようだが、名字を男女どちらのものにするのも結婚する当事者が決めていいものだし、男性に合わせるという考えも古い気がした。


 部屋に来た千草ちゃんのために、私はタロットクロスを広げてタロットカードを混ぜる。丁寧に混ぜて、三枚のカードを出して占うスリーカードというスプレッドを使う。


 一枚目はワンドの四の正位置。

 意味は、歓喜。

 しがらみから解き放たれるという意味がある。


 二枚目はペンタクルの九の正位置。

 意味は達成。

 恋愛的な面では、求愛されるという意味がある。


 三枚目はカップの十の正位置。

 意味は、幸福。

 何のトラブルもなく平和に幸福に過ごせるという意味がある。


『離婚してしがらみから解き放たれた千草ちゃんのお母さんは、これからとてもいい方向に向かうよ。今、ピアノの先生からアプローチを受けているのかもしれない。三人でのお出かけは、何のトラブルもなくて、とても楽しいものになるよ』


 子犬さんの説明を私が千草ちゃんに伝えると、千草ちゃんの表情が明るくなり、肩に止まっている鶏さんも誇らしげに胸を張る。


「よかった。そうじゃないかなって思ってたけど、暁ちゃんの口から聞けて良かったわ」

「千草ちゃん、楽しんでね」

「疲れてるのに占ってくれてありがとう」


 千草ちゃんはお礼を言って、旭くんの顔を見て千草ちゃんのママと帰って行った。


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