表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
海を照らし、天を照らす テスト投稿  作者: アメノなんとか
1/1

第一章一部、第二章ノい

 とにかくこのサイトの使用法に慣れる必要性が!

 口伝や都市伝説の類を散りばめたものであり、小説と呼べるものかどうか疑わしいが、習作とはそういうものでいいのではないかと思うことにする。


 タイトルも迷っていて、海をウミなら天はテン、アマならアメと読ませたい。ただ、ここで迷いすぎていて、本文がまったく手付かずなのもどうかと、練習のために、まったく構想になかったストーリーを書き始めたものが、以下からの文章になる。

 第一章ノは 


 「簡単に死ねると思わないでよね」



 第二章 例のアレ計画、始動

 

 第二章ノい 安全第一


 「おはようございます」

 男女どちらともとれるような明るい幼子の声が到着を知らせた。


 「おはよう、もう着いたのね。」

 「はい」

 眠っている間に目的地に到着するシステムの簡単な船旅だった。宙港からまばたきの間にあっさりと目的地、というわけだ。


 仄明るい円柱形の白い空間。ここはスリープルームである。

 必要な機器類は全て壁に内蔵され、整然とスイッチ、及びその確認灯が並んでいる。照明は天井と床一面である。今はぽつりぽつりと小さなスイッチの確認灯だけが光源となっているが、それは起床者の目を光に慣らすため、充分な余裕を持ってゆっくりと明るくなるよう設定されているからだ。睡眠装置(ベッド)は床に納まるよう放射状に内蔵されていて、利用者の乗降時、また、メンテナンス時にだけ床から隆起する。この殺風景とも機能美ともとれる簡素な内装は、白を基調にしたこともあり清潔感が強調されている。それが利用者に好まれ、長期航行船に採用され続けたことでスタンダードモデルになっていた。


 女は蓋の開放された睡眠装置の中で状態を起こし、足首などから幾つかのチューブを外しながら周囲を見渡すと、自分が入っているもの以外の装置には動きがないことに気付いた。


 「私だけ?」

 「他の皆様は、死んでおりますので」


 返された言葉に女の思考は完全に停止した。直後、足元の肌から髪の先まで瞬時に悪寒が駆け上がり、髪はえりあし側から頭頂側へ、宙に浮くかのような感覚があった。同時に、静寂の中にいながら鼓動だけは響き、まるで全身が耳だけ残して消えたような感覚も伴った。鼓動のリズムが女の視界を小さく揺らした。そして、女は自分を確かめるように片手を側頭部にやり、やっと1つに結べる程の長さの髪をぐしゃっと握って、睡眠装置(ベッド)から身を乗り出した。


 女は建設部に長く所属していた。転生システムで生まれるたびに建設部に人生を捧げていた。


 危険な業務はこれまで多々あった。実際の業務は全て安全なものだ。が、業務に没頭するあまりに自ら危険度を上げ、結果的に危険を感じた、というのが真相だ。

 過去、建設業務は常に危険と隣り合わせだったが、危険は今や皆無となった。人力による建設はほぼなくなっていた。建設部に限らず、各部の業務は、機械化が進むに連れて、安全となっていったのだ。

 スタンダードタイプの建築物は、キットを現場に持って行けば、後はプログラムを実行するだけで組み上がるようになっていた。キットはたいてい箱型で、折りたたまれたダンボール箱のような形状だ。要請されたプランに合わせたオプションキットもある。それらの組み合わせを提案し、クライアントの要望にいかに近づけていくのかが、建設部の仕事の大半になっていた。

 カスタムタイプは装飾がキットにされていないものが多い。だが、キットに頼らない建設にこそ、建設部は燃えるのだ。

 何故か建設部には所謂(いわゆる)「職人気質」の者が多く集まっていた。古代建築課と美術装飾課があるためだ。天井のメインレリーフや壁画を施す場合、芸術部の出番となるところだが、ちょっとした箇所であれば建設部美術装飾課が職人としての誇りを持ち、凝ったことをしたがるのだ。その際、手作りにこだわれば、彫刻刀やドリルやチェーンソーまで、骨董的大工道具の世話になる。そのことが人命を危険にさらすこともあった。

 そのため、刷り込まれるように、なにかに付け唱えられた「確認」の言葉。日々の就業の開始は、「確認しましょう」が「またお昼(ランチ)に会いましょう」などの挨拶代わりに交わされる。部の催事や会議などでも「確認するように」の一言が終了の合図になるほどだ。

 とにかく確認、再確認。最重要事項は安全確認、危険回避、であった。建設部所属の者は皆、「確認」を身に付けさせられていた。

 そうまでしても、うっかり命を落とす者がいるのが建設部だ。


 女は古代神殿の立替え業務中に死んだことがある。

 天井レリーフの仕上げ作業中に、邪魔になるので、ヘルメットはベルトをゆるめて背中にずらしていた。充分な長さにしていたはずの命綱が、想定より進んだ仕事によって、少々足りなくなった。だが、気分は乗っていた。あと少しで作業の区切りが見えていた。命綱を長いものに交換する時間が惜しくなったので、足場と床のクッションを信頼し、自ら命綱を切って業務に没頭したのだ。

 そして、綱を切ったことをすっかり忘れてうっかり転落した。背にずらしたヘルメットで頭部に致命傷を負った。

 残念だが、このような事故は建築部には付き物だった。



 確認、警報は鳴っていない。安全。

 確認、床は白。異常事態なら赤色の照明になるはず。安全。

 確認、壁に点滅する光はない。異常があれば該当機器の箇所だけが点滅するはず。安全。

 

 再度確認、全ての睡眠装置は床から隆起しているはず。この部屋の全員が目覚めるはず。しかし、この部屋の装置で目覚めているのは自分だけ。危険。


 握られた髪でひっぱられた頭皮が痛むことから、女は夢ではないことを知った。

 長方形の睡眠装置(ベッド)が放射状に並ぶ円形のスリープルームが、白一色の墓場にさえ見えるようだった。


 一体何があったというのか。

 長距離とはいえ移動するだけの簡単な航行。ワープの後はセンサーで自動的に障害物を避けながら目的地を目指すだけ。そして、無事に目的地には着いているらしい。着いたから起こされたわけで。睡眠装置(ベッド)の故障であるとするならば、むしろ私が使ったこのたった1台だけ無事だった理由とは何か。


 女は最悪の事態、最悪の被害状況を算出し始めた。

 建設部各課から1名ずつ、中津(センター)からのアバター1体、アバター技師1名、医師1名、巫女1名、そして神官1名、この部屋だけで15名。『他の皆様』が別室をも含むとなれば、総勢・・・


 「冗談ですよ?」

 その音声にまた思考が完全停止したが、2秒後、全滅を想定した具体的な数字を打ち消すように、女は声に出して長く息を吐いた。呼吸も忘れていたらしい。安堵するのも束の間、両手で強く着衣を握り締め、黒すぎる冗談への怒りとまだ消し去れない恐怖で震えた。


 この船は建設部所有の基地建設キット輸送貨物船であり、従って、所謂「船長」を兼ねた基地建設責任者がこの女なのであった。


 現場を離れたくなくて、長く逃げ続けていた最上級役職(大臣)。とうとう断わり切れずに、今回の任務を最後の現場として我侭を通し、役職就任となった。

 だからこそ、無事に任務をまっとうしなければならない。なんとしてでも。


 「冗談? 冗談ですって?」

 つぶやく声も震えていた。

 そして1つ気付いた。「おはようございます」と目覚めの挨拶を聞いたのだから、音声は睡眠装置(ベッド)の目覚ましアラームが出所であることに。


 違和感。

 長期航行にて睡眠装置(ベッド)を使用したことは幾度もあったが、アナウンス音声はこれまでは男女どちらかの大人の音声であって、幼い声を採用したものは今までになかった。


 「そうだった。」

 冗談好きな幼馴染の睡眠装置整備師(メカニック)が「ナイショよ」と、装置に冗談を追加入力したことを思い出した。

 「しばらく会えなくて寂しいだろうから、私だと思って」とのことだったが、航行中以外に用もない装置に、それも睡眠中に冗談を聞かされたところで全くの無意味だ。彼女からこれを知らされたのは、どうにも対処できない出発直前のタイミングだった。


 「装置に横たわる私を見下ろしながら、」

 女はつぶやいた。

 「且つ、左手人差し指に長い髪を無駄に絡ませながら、いつもの片側の口角だけを上げる笑顔、周囲にも人がいるのにそちらには聞き取れない程度の絶妙な音量で!」

 つぶやきから徐々に大声になりながら、女は早口で思い出したことを思い出した順に口走った。

 「装置に冗談を入れておいたわ、だなんて言って!」

 と、両目をぎゅっと閉じ、ひざに吐き出すように叫んだ。

 職務違反となじるも、その怒号は睡眠で封じられたのだった。彼女の「楽しんで、か(その後は聞き取れない)」が、宙港で聞いた最後の言葉だ。


 「なんてことをしてくれたの・・・。」

 力なくため息混じりに自然と言葉が出た。


 人類にとって試練ともとれる長大な計画が、開始されて間もなかった。

 まず、計画の正式名称決定すら難航し、短期で次々と変更されたため、漸く決定したやに思えば最後に(仮)や、最終決定ではない旨の一文が添えられるなどし、やがて『例の計画』や『例のアレ』といえばこの計画を指すものとなる有様だった。

 そんな計画の初手とも言える基地建設を目的とした航行が予定されると、具体的な日程すらも定まる前から、連日、四六時中、全星系に派手に報道された。

 『人類初』などと心躍る見出しに煽られ、戦後150年が経ち、平和な世ですっかり我侭になった人類は、権利の意味を大幅に拡大させていった。建設部所属でもない者から「資材運搬貨物船に乗船したい」との声が次々に上がり始めたのだ。当然、丁重に断りが入ると、他部から建設部への転部希望申請が多く上がった。戦後復興事業での建設部拡張期以来のことである。

 資材運搬貨物船とは、名の通り、資材を運搬するための貨物船であり、当然ながら客船ではない。それを理由に断わっていたが、ならば客船を用意するから同行させろと言い出す者が現れた。遠くから見るだけでいい、決して邪魔しない、などなどは、いずれもれなく嘘になるのは確実だった。同行されれば、その分の関係者数が減りことになり、遠くからではろくに見えず、結局は近くで見たがるに決まっている。絶対に邪魔になるし、要望(わがまま)を聞かせられている時点で、すでに邪魔である。

 一般的なモデルの建造物などは、整地後に建設キットを運んでプログラムを実行するだけで短時間で自動的に組み上がる、誰もがどこかで一度は遭遇する退屈な工程だ。そう建設部が何度となく丁寧に説明するも、『人類初』のたった3文字がかき消して行った。

 しかたがないので、当初、最も小さな貨物船だったところを中型船に変更するも、即時、コネで席が埋まった。要望に従って大型へと徐々にサイズを変更したのが悪手で、席が増えれば応募者は倍増し、とうとう最大級豪華客船を用意させられそうになったとき、()()()建設大臣(ミケイリノミコト)が切れた。そして、あっさりと、いきなり辞任したのだ。これには中央政府すらも慌てた。

 部の最上級役職(大臣)は全業種において、もともと成り手が少ない。これは全人類が、ほぼ好きな職に就けるようにした政策の弊害の1つである。閑職の役職に就くより、現場を選ぶ者が圧倒的に多くなってしまった。好きな職とは、趣味が仕事になるわけだ。「働く」とは、趣味を存分に謳歌し遊んで暮らしていることと同義になりつつあった。ところが、役職に就くやいなや社会人として社会をうまく回していく側、つまり退屈すぎる歯車人生へ転落してしまうことになるのだ。全人類、遊び人。・・・とまでは、さすがに言えないが。何故なら、現場の者達もやはり社会の歯車であることに変わりはないのだから。


 大臣が男性だったのも災いした。突然の辞任に「これだから男は」だの、「男はこれだから」だの、理由になっているようで全くなっていない言葉で、大臣を貶める報道が多々あった。これは全人類が、ほぼ好きな性別を選んで転生できるようにした政策の弊害の1つだ。つまり、圧倒的に女性が多いのである。女性人口増加の原因についてはここでは書かないが、男性なら一度は思うことだろう、そう、そのせいだ。

 このようないわく付きの時期大臣は、それまで一番、役職就任を避けた回数の多い女性が、幾つかの条件と引き換えに、渋々、就くことになった。


 最終的に用意されたのはそこそこの大型船だった。しかし一度は最大級豪華客船を予定されていたがために、雷に当たるほどの非常に高い倍率の抽選となった。抽選に当たった者は報道の格好の餌食となる運命のため、皆、賢く口をつぐんだ。実に英断である。アタリが発覚すれば、報道関連業者だけではなく、盗難を画策されたり、ゆずってくれとうるさく付き纏われる恐ろしい日々が、出発まで続くことになるのだ。

 IDカードに送られたハズレ券をわざわざ印刷して額に入れて飾る画像や動画、ハズレをひいた旨を伝える言葉で、各投稿サイトは賑わった。このシュールな流行りに旅行業が目を付けて、建設場所も決まらぬうちに基地ツアーが決定し、それにも応募が殺到し、小型基地は大型施設への変更を余儀なくされた。


 とはいえ、ただの基地である。そして基地外へ出ることは許されない。出れば命を落とすからだ。そういう星しか、まだその太陽系にはない。

 しかも遠方ゆえに、当然、ワープ航法が必須。するとこれまた当然、ワープ酔い防止のための睡眠装置を用いなければならないことから、宙港から基地へ、つまり建物から建物へと単に往復するだけの所謂(いわゆる)『がっかりツアー』になることは必至だった。

 それでも『がっかりツアー』がどうがっかりなのか周知されるまでは、『例のアレ』計画に思いを馳せる多くの旅行者で基地(兼ホテル)は賑わうことだろう。



 思えば、音声からして冗談らしさがあるではないか。幼子のような音声が船内機器に採用されるはずもないのだ。もしこのことがよそに漏れれば、彼女がどんな刑に処されることになるのか想像もできない。 

 当然だ。犯罪は全てセンター外で起きた。センター内に犯罪者はいないのだ。何故なら、


 「私たちは『ガラスケースの中の人形』なんだもの」


 装置の語彙を増やすだけではあるが、重要で重大な超長期計画のごく初期に、計画実行中の船へのふざけた細工など、どんなに甘く見積もっても大罪である。冗談で大罪を犯すとも考え難く、冗談機能の追加こそが冗談である、というのが真相と、可能性を探った。

 しかし、確かに聞いてしまったのだ。装置から、「冗談ですよ」と。


 皆を起こす前に装置を元の状態まで戻しておかなければならない。残念ながらうまく処理する自信はないが、自分の手に負えなければ、口の硬そうなエンジニアを一人だけ先に起こせばいい。


 女が証拠隠滅を考えていると、

 「部長さん、部長さん、お話ってなんですか?」

 と、不思議な問いかけがなされた。

 女は役職に就くことを全力で避けていたため、最近まで業種名の「職人」や「建築屋」「作業員」「ミケイリ」などで呼ばれることが多かった。少し前から公には大臣なのだが、内輪では「部長」と呼ばれるため、正式な役職名称の建設大臣(ミケイリノミコト)よりは「部長さん」はまだ親しみやすさがある。しかし、あの幼馴染なら「ミケ」と呼ぶので、小さな違和感があった。


 「お話?」

 「部長さんがお眠りになる前に、自分だけ早く起こしてって言いました」

 『話があるから、私だけ先に起こして』

 続いて流れる証拠音声が自分の声なので、(ミケ)は驚いた。


 話があるのだったろうか。そうだったかもしれない。そのように頼んだのかもしれない。睡眠装置に話すことがあるとも思えないし、まったく何を話そうとしていたのか思い出せないけれど。

 自分だけ早く起床させてまで伝えたい話とは、何か。


 長い眠りから覚めたばかり。長期睡眠により記憶が曖昧になる事例は知っていた。そこへ間髪入れずのショッキングすぎるジョーク。驚愕、恐怖、挫折感、無力感、孤独感、あらゆる負の感情からの混乱と安堵までを数秒で体験したのだ。まだ鼓動が速めなことからも、混乱はゆるく続いていて、余計に思い出せずにいるのだろう。


 思い出せない話ならしなければいいだけなのだが、任務中ということもあり、部長として皆の前では通常時の自分でありたいものである。会話はそのための気分転換の機会でもあった。ミケは自分を落ち着かせたかった。


 「お茶を用意するから、もう少し待って」

 ミケは装置から立ち上がる動作と共に、全身の軋む筋肉を感じ、先ほどからの緊張の度合いを思い知らされたような気分になった。


 徐々に照明が明るくなる中、ミケは壁の一部に内蔵されたサーバーを操作して茶の用意をした。

 乾燥花がブレンドされたお茶の香りが広がる。気分を落ち着かせる効果があるという伝統的なお茶で、センターでは頻繁に目にする一般的なものだ。味はともかく、ミケはこのお茶の香りは好んでいた。

 話をするには明るすぎると思い、壁のスイッチで床の照明は切って、天井の照明は半分に抑えた。照明が柔らかく反射する床に内臓された皆の睡眠装置をぼんやりと眺めながら、ミケは話さなければならないのであろう何かを思い出そうとするのを辞めた。

 そして小さく笑った。これも幼馴染が用意した冗談の一環だと思いついたのだ。

 睡眠装置(ベッド)に話し掛けるなんてシュールすぎる。独り言との違いがわからない。このシュールさが彼女らしい。そう思った。

 

 「昔々、あるところに、私がいました」

 ミケは思い出せない話の代わりに思い出話を始めた。


 「あ、後で忘れずにメモしておこう。思い出せない話の代わりの思い出話、だなんてちょっと冗談っぽいわ。駄洒落というジャンルよね。」


 両手で包むように持ったお茶の入った小さなコップが、緊張で冷えた手を温めていった。ぬくもりを感じながら、ミケはメカニックの幼馴染に話を続けた。

 「引越しマニア、というか、そうね、見取り図マニアの方が合っていると思うけれど、自分で書いてみたりもしていたけれど、いつしか気に入った見取り図を見つけると、内見に出掛けるようになったの。そのうちに住んでみたくなってね、ほら、戦前は色んな住居があったでしょ? それで、引越しマニアみたいになってしまっていたの。」

 「それでも気が済まなくなって、見取り図を書く趣味になって、すぐに建設部に入ることにした」


 「木造建築にはまって、自力でどうにかツリーハウスを建てたくて、」

 「当然、生まれるたびに建設熱が跳ね上がっちゃうわけだけど、こうなると趣味と実益を兼ねすぎてしまう弊害もあってね、」

 「色んなものを建てるから、色んな人に会えるのよ。有名人もいて、」 


 「神殿建設は感動の連続だったわ。レプリカを建てただけなのだけど、釘を使わない建て方とか、鳥肌が立つほどよ。内装が豪華なの。レリーフが柱にまで施されていたり。天井なんて龍のデザインが見事で、」

 ミケはなにかひっかかりを感じて、

 「・・・そうね、この話はあなたにしたんだった。」

 話を畳んだ。そして少し冷めたお茶を一口だけ飲んだ。


 「それで、今、ここに、私がいます。」

 「はい」

 

 前々生から現在までの建設愛を話し終えたが、ミケはまだ満足していなかった。

 話し足りないのではなく、もちろん本来の「お話」とやらも思い出せてはいないが、新たに話さなければならない話ができたからだった。何かの覚悟を決めたように小さな呼吸を意図的にした後、少し丁寧な口調になって、続けた。


 「今、ここに、私がいる。独りだけ、先に目覚めて。その意味がわからなかったけれど、てっきり私、幼馴染の仕業と思っていて、彼女は冗談が好きだから。でも、彼女であるはずがないんです。睡眠装置は生命維持装置でもあるので、それの細工というのは、冗談というより、いたずらに近いし、なにより犯罪・・・なので。」


 「センター生まれの私の幼馴染は、当然ですが、同じくセンター生まれなんです。センター星だけ、他とは違って、都市の全部がドーム型で、ドームの外は立ち入り禁止区域になってます。」

 「人工授精、人工子宮で誕生するのに、子供は毎年生まれたり、数年に一度生まれたりするのですけど、全て女児で、出生は1日1名、外見は100パターン、100日掛けて100名生まれたら、次に子供の産まれる年がいつくるのかは誰にもわかりません。こんなセンター特有の出生システムが人形の生産工場みたいだから『ガラスケースの中の人形』という小説の題材になるくらい、それくらい、私たちは他の星の人には奇妙なんでしょうね。」

 「出生から管理されているけれど、好きなことはできます。でも、好きなことをやらされているような、そんな気がしています。名前だってなんとなくあだなが付いたり、自分で付けたりできるくらいで。あ、でも、私達、IDナンバーは最初からあるのですけどね。ドーム外は立ち入り禁止なのに、好きなことのためなら、他の星へは行けるって、なんだかへんじゃないですか?」


 「センターに犯罪者はいないんです。『例のアレ』計画の初期に、その基地建設のための船に細工をするなんて、たとえ睡眠装置のちょっとしたいたずらだとしても、犯罪になってしまう。そんなこと、いくら冗談の好きな彼女でも、するはずがないんです。」

 「そういうふうに育てられているんです。犯罪以外、なんでもしていい。センターはそう教えるから。」


 ミケは端末から船の状況を調べながら話を続けた。 

 「他の部屋の装置も蓋が開いていないことになっているのですけど、私はメカニックには疎いから、どうやったのかわからないけれど、私の睡眠装置に細工できるなら、どこかの部屋でもう1台、動いているんじゃないですか?」

 「いいえ」


 「だって、あなた、どこかで聞いているんでしょう?」

 「はい」


 やはりそうか。

 何度か睡眠装置(ベッド)を使ったことがあるけど、「おはようございます」「おやすみなさいませ」くらいしか今まで聞いたことがない。「はい」「いいえ」が多いけれど、これも冗談とは考えにくい。通常会話に肯定否定を返すレベルの会話がプログラムされたのだろうか。そもそも冗談を発したのは最初だけ。

 でもね、ミカ、ダメだよ。例のアレ計画に関わる船への細工だなんて。


 ミケは幼馴染の名前で呼びかけてみることにした。

 「あなた、乗っていたの? ミカ?」

 「いいえ」


 白を切っているのか、そういうプログラムで装置が会話してるのか、判断が付かない。

 遠隔の可能性はなかった。ラグのない会話が遠隔でできるわけもない。


 「じゃあ、どなたですか」

 「流部長です」


 「嘘! 怒るわよ、ミカ!」

 「流部長です」


 よりによって流部ですって?

 ミカは発せられた単語に驚きを隠せず、瞬きが多くなった。


 「私は搭乗者リストに目を通しているのよ 流部長さんは、乗っていません!」

 「船外にいます」


 「船外に船はないわ! 1艘も同行させていないんだから!」

 「流は船ではないです」


 「知ってるわ、そんなこと! 大臣になったら知らされたわよ! 流部がなんなのか!」

 「では、この基地建設地が流部の調査を元に決定されたことも」

 「もちろん、知って・・・」


 苛立ちがスリープルームに反響し大声になっていたが、ミケは再び混乱に支配され、言葉を失った。

 確かに流部の調査によって、今、ミケはここにいるのだった。しかし、そのことを知りえるのは最上級役職(大臣)のみだ。

 そして、間を置いて、問いただした。

 

 「冗談でしょう?」

 「冗談ではありません」


 流ですって? その存在は公にされていない。私も大臣になったから、知ることができた最高機密。

 流の中でも最高流の天流は宇宙空間を泳ぐ。船の外にいるということは、天流に違いない。天流と共にいるというなら、声の主は、天、地、水、気、いずれかの流部長ということになる。

 でも、どうやって? どうしたら船外から装置の音声を扱えるの?

 流は原動力すら知らされていない未知の何か。伝説のご宝物(ほうもつ)であり、ロストテクノロジーともオーバーテクノロジーともいわれている。だからこそ流部は部の中でも最高部。


 幼子の声は相変わらず明るく告げた。

 「ちょっとうっかり遭難しまして、救助要請したいのですけれど、よろしいでしょうか」


 ミケの体は勝手に動いているかのように、救助のために作業をしだした。

 「ええ、はい、もちろんです。」


 流部長がうっかり遭難。

 基地建設会議の時、お目に掛かった流部の方々は、引き摺るほどの長髪と巫女部のような伝統的衣装が特徴的だった。流部長(アマテラス)はとても寡黙な方で、ただ、微笑を称えていて、お話は全て副流部長がなさっていた。

 うっかりで遭難なんて、似合わない感じの雰囲気だったけれど。ミステリアスという感じで。 


 確認。貨物部位船底切り離し完了。安全。


 「できれば急いでくださると有難いです 半分死んじゃってるので」


 そう、『他の皆は死んでいますので』これは冗談(うそ)なのだった。恐らく半死状態も救助を急がせるための偽り、つまりは冗談に違いない。遭難も冗談? いえ、冗談でないことを想定するべき。念のため、半死の状況も冗談ではないことを想定するべき。即刻、助けなくては。


 確認。船を上空へ移動。ゆっくり確実に。安全。

 確認。船底からキットの移動、15%完了。安全。


 流は大きいと聞いている。キットがあった空間に収まるのかしら。


 「あの、大変申し上げにくいのですが、早く中に入れてください 体験()が消えちゃう」


 消えるって何?!


 急いでいたのなら何故、2転生分の極めて個人的な長話を黙って聞いていたのか、ミケは甚だ疑問に思った。かなり端折ったといえど、目覚めてから40-50分ほどの時間が経過していた。が、既にこの瞬間には基地建設キット格納部を船底から切り離す手段に出ていて、キットの移動も開始されていた。全てのキットが船底から移動すれば、また底蓋にできる。しかし、急いで蓋をするにはキットを早急にどかさなければならない。基地建設キットだけなら簡単に済んだものが、宿泊施設や遊興施設のキットまであったため、なかなか移動が完了しないことにミケは焦りを感じた。


 「冗談ですか?」

 念のためにミケが問うと、

 「冗談ではないです」

 相変わらず明るい幼子の音声で返答がきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ