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「あっ、つっ!!」
熱い。とにかく熱い。
傷だらけの人の腕を支えていたがそれどころじゃなくなる。胸が焼けるように熱い。その場所に手を伸ばしてみるとルイーズ様に昔もらった懐中時計があった。
ルイーズ様の部屋を訪れた時にすっかり気に入ってしまい、ミアのためにあるようなものだからと言ってルイーズ様も快くくれたアンティークの懐中時計。肌身離さず持っていてほしいと言われたのでずっと首から掛けて持っていた。
それが火傷を負うレベルで熱すぎて首紐を思いっきり引っ張りちぎると懐中時計は地面に転がり落ちた。
「え?」
すると、手から?いや、顔から?いや、全身から沸き上がる高揚感に鳥肌が立つ。
全身が温かい。ぽかぽかする。
なんだろう。この力。
「き、、み、魔、、う、を、、!?!」
掠れた声で瀕死の人から言われて納得がいく。
あぁ、この温かい不思議な感覚は魔力なのかと。
ルイーズ様の懐中時計があんなにも熱くなったのだ、きっと何かの魔法なのかもしれない。
今ならなんだって出来る気がする。
だって、ルイーズ様も魔力があるんだもの。
それに、私は魔力が足りなくてずっと魔法を使うこと諦めていた。
でも、ずっとずっと憧れていた。使いたかったんだ。
「お願い、治って」
傷のひどい右足にそっと手を当てて強く念じた。
ノア兄みたいな杖もない。魔法使う人は杖を使ってするイメージだ。でもそんなものは今ない。
魔法の使い方はわからないが、でも力はある気がする。手から全身から溢れてる気がする。
きっと、できる。
何かわからないが、さっぱりわからないが、妙な自信はあった。
「この人を助けたい。お願い、治って」
手が先ほどの懐中時計のように燃えるように熱い。
それでも集中した。
この人を助けるんだ、と。
それから深い海の底を泳いでいる感覚だった。
身体は重く前に進みたくても足が出ず進めない。
あぁ、このまま息も出来なくて死ぬのかなと思った。
まぁ、一人の命を助けられたし、、、救えてないかもしれないけどやるだけやったし、隣国行かなくてもいいし、憧れていた魔法も使えたっぽいし、やり残すことないかもしれない。
うん、いいかもしれない。
そっと瞳を閉じた。
あれ?甘い匂いがする
この匂い知ってる。
ノア兄の大好きなキャラメルの匂いだ。
あれ?それに、いつもの言い争いが聞こえる?様な。
「だから、こんな時にお菓子をボリボリボリボリ食べないでくださいよ」
「こんな時だからこそ糖分取らないとやってられないの」
そう、ノア兄はストレスが溜まりに溜まりまくるほど甘いものに走る。恐ろしいほど食べる。でも骨と皮膚しかないほど細いのに。全然太らないタイプだ。羨ましい。
「それにノア殿下、国王陛下に報告は?」
「え?ミアを隣国にやろうとするあんなクソ親父に報告しろって!?」
「ルイーズ様はまだ処置されてますし、いろいろ事後処理もあります。どう考えてもあなたが報告行くべきじゃありませんか。」
「いやだー、テオ行ってきてよー」
「ダメです、俺じゃ魔法のことよくわかんないですし、駄々こねないでとっと行ってください。じゃあないとクソ国王が血相変えてここに乗り込んできますよ。」
二人ともお父様にクソはだめだよ。クソは。
クソでもいちお国王なんだからさ。
「ここに来られるのは本当困るね。ミアだって絶対嫌がるだろうし」
「可愛い妹のためです。一肌脱いでくださいよ、ノア殿下」
「もぉぉ!!わかったよ!!行けばいいんでしょっ!その代わりテオも一緒に行こう」
「えっなんで一緒に?!俺はミアの傍に、、」
「いいから行くよ、もうじきイーサン兄も来るから。気配がする。勘だけど、ただの勘だけど。」
「げっ!イーサン兄さん?!」
「来ないわけないでしょ、実はミアを一番甘やかしてるのは兄さんだからね!ミアが嫁ぐのが嫌で隣国に戦争吹っ掛けようとしてんだから。」
「え?戦争?!?え?!え??」
「もういいから行くよ、もし兄さんに見つかったらミアを危険な目に合わせたとかいって俺もテオも半殺しだからね。」
「は、半殺、、、」
そこで会話が聞こえなくなった。恐らく二人とも部屋を出ていったのだろう。
随分リアルは夢だ。いや夢ではなく、死ぬに死にきれなくて幽霊にでもなってぼんやりみんなの様子をみているのだろうか。
すると、手に温かい感覚が。
あれ?誰かが手を握ってくれている?
先ほどまで誰の気配もなかったのに、一体誰だろう。
不思議と落ち着く。心から、身体芯からぽかぽかして優しい気持ちになる。安心する。
そう言えば剣術下手すぎて悔しくて泣いてたらテオが手を握ってくれたっけ。ノア兄さんも毎日手を握ってハグしてくれてる。幼い頃熱で二晩寝込んだ時はイーサン兄が手を握ってくれたっけ。あぁ、手を握ってくれると安心する。
この温かくて大きくて少しゴツゴツざらざらしていて、そしてとっても優しいこの手は誰だろう。
私は趣に重い重い瞼をあげた。