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城の北塔に向かうと、城内と言えど異様な雰囲気が漂う。
初めて来た侍女や見習い騎士なんかは気味悪さに震え上がる人達もいるんだとか。
別名、暗闇の塔とも呼ばれ、常にここの空だけいつも真っ暗である。
理由はただ一つ。ここが、国内一の魔法使いルイーズ様の魔法でこのようになっているのだ。
この国には、魔法が使える者がごく少数いる。
とても希少で貴重な存在とされ、国が魔法を使える者を保護しているのがこの暗闇の塔だ。
なぜ、保護しているのかというと魔法を使える者はこの国ではとても少なく、魔法を使えるとなると一般的には怖がられたり、ひどい時は化け物と迫害を受けたりするのだ。
逆に魔力を持つ者もうまく魔法を使えず暴走したり、魔法を悪用したりする。
そんなことにならないために、魔法使いとして生きていく術を教える機関を設立したのが王宮魔法師のルイーズ=ベルナー様だ。
ルイーズ様はとても魔力が高いらしく他国でも恐れられているほどの魔法使い。別名、影の魔女。
彼女が本気を出せば小さな国は簡単に滅びると言われている。この国がここ長らく戦争もなく平和なのは全てルイーズ様のおかげなのだ。魔法使いとして恐れられているが、この国のために忠義を尽くして王宮魔法師として全力で働いている。
とはいえ、数々の称えられるべき功績があるもののそういうことは表立って伝わることでもなく、本人も前に出たがるタイプではないため、影の立役者というのもあって影の魔女と言われている。
まぁ、一番はルイーズ様のお姿を見ているのはごくごく一部で、本人が全然姿を現さないのもあるけれど。
「ミアっ!!愛しの妹よっ!!」
北塔の一番上の部屋を目指して黙々と階段を登っていた途中でこの塔の雰囲気に全くといって合わない人物に鉢合わせる。
「あぁ、可愛いミア。寂しくなってこんなとこまで兄さんに会いにきてくれたのかい。」
ぎゅっと抱きしめられて階段を踏み外しそうになるが、それを支える力はとても優しい。そして、いい匂い。
テオに関しては盛大なため息をついている。
「ノア殿下がどうしてここに。」
ぎろっと睨み付けるテオとは対称的にニコニコと笑顔を浮かべ
「それはそれは可愛い妹の気配がしたもので飛んできたのさ。あ、もしかして嫉妬しちゃってる?テオをやってほしいとか?姉上だけずるい的な?だったらハグするよ?」
意地悪に笑ったこの人物。私の二番目の兄。ナリターヌ王国第二子王子ノア=ナリターヌ=ロベールである。
黄金色の長髪を一つに束ね、ぱっちりしたルビーの瞳は優しく私を見つめる。身長はテオよりも少し高くかなりほっそりした体型。テオと顔がそっくりなんだけど、テオは可愛い系だったら、ノア兄は確実に王子様系。もうこれ以外に表現が出てこないくらい、ザ王子。ニコッと笑うと国中の女達がイチコロになるこの国の一番のモテ男と呼ばれるノア兄は妹の私を溺愛している。
黙ってればかっこよくてイケメンで王子様そのものだし気配りも出来るしコミュニケーション能力も兄弟の中で一番高くて城の中でも信頼が厚いのに、妹を溺愛するキャラだけはほんともったいない。残念。
「ノア兄さん、ごきげんよう。
す、少し、く、苦しいです。」
と思ってはいるけど、私もノア兄大好きだ。
「ごめん、ごめんっ、愛が伝わると思って強く抱きしめすぎたかな。」
優しく手をほどくと、ふわっと甘い匂いが鼻を燻る。
「キャラメルのいい匂いがします。」
私がすくっと笑うと
「あ?バレた?さっきまで魔法師仲間とお茶してたからさ。」
「ノア兄はキャラメル好きですもんね。またキャラメルクッキー作って持っていきますね。」
ノア兄はパッと表情が明るくなって
「それは嬉しいっ!!!でも、ミアの手作りなんてもったいないから食べれない。永遠に飾っておきたい。」
「それで腐らせたらしいですね、侍女から聞きましたよ」
テオはまた盛大にため息をついた。
よくそんな情報掴めるよなと感心してると、
「もうテオは俺のファンなんだからっ!やめて、ストーカーっ!」
また嬉しそうにテオに意地悪な笑顔をしていた。ノア兄はなんだかんだいってテオのこともまた溺愛してる、と私は思ってる。
「こんな変人の兄上をストーカーしたいと思う人なんているんですか!?」
ありゃ、また始まったよ。
「いるいる!めっちゃくちゃいる!特に世の中の女性は皆、ストーカーしかいないんじゃないかというくらいいる。俺がどんだけ苦しめられてると思ってるの。」
「知りませんよ。上っ面だけいいんだから本性出せばいいのに」
「出したら出したでみんな引いたら寂しいじゃん?」
「その考えが矛盾してるって言ってるんです。姉上、こんな人相手してたら日が沈みます。行きましょう。」
「うわ、テオ冷たい。兄上に!尊敬するべき兄上に冷たいっ!ひどいっ!」
「うるさいです。姉上、行きましょう。」
ノア兄をスルーして、階段をテオは登ろうとした。
「ルイード様ならまだ帰ってきてない。きっと何かあったんだと思う。たぶん予測だけどね。帰ってくるならきっと森に転移するだろうと思うよ。一緒に行こう。」
ノア兄はもう一度ニコッと笑った。