第一章
「綺麗、、、、」
風がふわっと頬をきる。
白銀の柔らかな髪が揺れ、纏っている薄ピンクのドレスの裾も優しく風に揺れた。
世界は先ほどまで、まだ正午なのにいきなり夜?と勘違いするような真っ暗な空に覆われていた。
それから、生ぬるい湿った雨の匂いがすると思うと突然の豪雨。
雷の鳴り響く音と激しい光、当たったら痛みさえ感じるくらいの強い雨は一瞬にして去っていった。
また、太陽が姿を現し、水を帯びた世界を照らす。
目の前には七色の虹がかかっていた。
部屋を抜け出し、城壁の上ではぁ、、、と大きなため息をつく。
ここの景色は大好き。城下町はもちろん、東には連なる山々の緑、西には海も見えて、絶景だ。
自分の世界で一番落ち着ける場所でしかも綺麗な虹も見れて最高なシチュエーションだが、どうしてもため息がとまらない。
「、、、行きたくないなぁ」
ボソリと呟く。
「やはりここでしたか」
ゲッ、、、
いつも聞き慣れている声にギクリとする。
「ミア、いい加減城壁を登るのやめてください」
すごい目力で睨まれているのはわかってるがスルーしておく。
「あら、テオ、ごきげんよう」
ニコリと笑う、とりあえず笑う。
「ミア、また現実逃避に走ってるんですか。もうあと一月経ったら隣国サバナル国のお妃として嫁ぐんですよ。大丈夫ですか。心構えありますか。わかってますか。」
あー、あー、あー、もうっ!!!
わかってます!!わかってますっっ!!
そのセリフ何回目よっっっ!!!
グチグチ言われなくてもわかってるわっっっっ!!!
叫びたい気持ちを抑えニコリと笑う。
「虹をみたのでお願いしていただけですよ。どうかナリターヌ王国のさらなる繁栄をと。」
「虹に祈るものなの?」
ふっとバカにする笑いにイラっとする。
「虹に祈ってはだめって決まりある?!」
笑顔は心掛けているがたぶん顔崩壊してるな。
「だめではないだろうけど、、まぁ叶えてくれるかどうかは、、、ふっ、」
まだバカにしてるよ、この弟は!
金色の揺るふわの髪をなびかせて、身長は185センチ、体型はやせ型なのに鍛え上げてる体つき。アイスブルーの瞳に長すぎるまつげ。すっと通った鼻筋に誰もが落ち着く優しい声色。
ナリターヌ王国、第三王子、テオ=ナリターヌ=ロベールは姉である私をことごとくライバル視して馬鹿にしている。
歳も一つ違いで小さい頃から何をするにもテオとセットだった。勉学もお稽古事もマナーも剣術も。
幼い頃はテオとほとんど一緒に過ごしていたし仲も良かったからお城の中では、双子のようだと言われてきた。
しかしながら、年下なんだから双子と言われている時点で姉と同等のような立場なのにテオはそれがすごく嫌らしい。
常に姉よりも優位でありたい、姉に見下されるなら死んだほうがマシというほど。
ほんと姉には負けず嫌いの弟だけど、世間では爽やか系王子らしい。
姉からしたらいやいや、ただの筋肉馬鹿じゃんと思うんだけど騎士団では次世代の実力株として第二騎士団の副団長を務め着々と地位を確立しつつあるし、なにせ人望も厚い。
姉だけには当たり強いのにね。他人には優しい。ほんと優しい。なんなのコイツ。
「姉上、顔が怖いですよ」
はい、殺す。
「姉上ですって!??二人きりの時にはめったに呼ばないくせにっ!!一体何しに来たのよ!?冷やかしなら帰って」
テオを睨み付ける。
「まぁまぁ、怒らないでくださいよ、姉上。」
意地悪な笑みを浮かべ、
「ルイーズ様に呼ばれているのでご一緒にどうかと思いまして。」
はて、どういう風のふき回しだろうか。
疑心暗鬼でテオを見つめる。
「ここで不貞腐れてると思ったので少しは元気になるかと。」
テオはこういう男です。
ムチ、ムチ、ムチ、のあと少しアメ。
なんだかんだいって姉を甘やかしてくれる優しい弟なんですよ。ツンデレなんですよ。
もう、可愛いんだから!って最後にはなっちゃうんですよ。
先ほどの殺す。は撤回します。さすがに王女としてはあり得ないワードです。すいませんでした。ほんとにすいませんでした。
「行きます!行きますっ!!」
「そう言うと思ってルイーズ様にも連絡入れてあります。もう時間なので向かいましょうか。」
なんとできた弟なのだろう。
今度大好物のサーモンチーズを挟んだベーグル持っていこ。
と心に決めたミアであった。