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九章 夜光の下で


 陽が落ち、暗闇が広がるはずの世界は、空に強く輝く大きな紋章が照らしている。

 その空の下。森を抜けて道に出たイケテルはそれを眺めていた。


 「……なんだあれ、月じゃないのか」


 空に浮かんでるのは丸い月ではなく、複雑な模様が重なる、光を放つ紋章だった。

 近くにいるルゥも同じように空の紋章を見上げて言う。


 「今日は特に強く、夜光の紋章が輝いてますね、これなら夜光の明かりだけで村まで行けそうです」

 

 (夜光の紋章?)

  

 気になるワードではあるが、それより今、自分が確認したいのは、


 「え、村行くのか!?」


 「ええ、もう暗いですし、心配しなくてもすぐ着きますよ」

 

 それは知っている。昼間にあの村に行ったのだ。

 その結果偉い目に合った。正直もう二度と近づきたくない。


 「どうしました、イケテルさん? 村に行きたくない理由でもあるんですか」

 

 「いや、その、今日は月じゃなくて、光る紋章が綺麗だからちょっとこれ見てたいとか、ね」


 歯切れの悪い言葉を続けてしまう。苦しい言い訳だが、村に行くのは避けたい、正直知られたくもないのだ。

 小鬼と間違えられて追いかけまわされたとかカッコ悪すぎる。

 何か上手い言い訳はないだろうかとイケテルは考える、すると、ルゥが口を開いた。


 「ああ、イケテルさん村で追いかけまわされてましたものね」


 「……なんでしってるの」


 「見てましたから、写し絵もありますよ」


 ちょっと待ってください、とルゥが言い、ローブの下から一枚の板を取り出した。

 その板を指で操作している。まるでスマホかタブレットのようだ。


 さらに彼女が手帳も取り出し紙を一枚切りとると、その板の上に乗せた。

 板の上に紋章が浮かび一瞬光るとそれはすぐ消えた。


 「はい、イケテルさんどうぞ」


 その紙を手渡された、何が書いてあるのか夜光に照らしてよく見る。

 文字ではなく鮮明なカラーの絵、写真だこれ。

 映るのは泥だらけのブサイクな男が涙流して全力で走っている、風圧凄いのか顔が偉い酷いことになってる。つまりこれ自分だ。


 「何で撮ってんだああああっ!」


 イケテルは紙をぐしゃぐしゃに丸めて地面に叩きつけた。さらに踏みつけて証拠を消す。

 

 「イケテルさんいい顔してましたね」


 「どうやって撮りやがった! その手に持ったスマホかそれで撮りやがったのか!!」


 「スマホが何かわかりませんが、イケテルさん、正解です。この紋章器で撮りました」


 ルゥが板を手に持ち軽く振って見せる。


 「これは女神さまが作った紋章板です。勇士に仕えないとこれ貸し出して貰えないんですよね。簡単な連絡取れたり風景を映したり、色々できるんですよ」


 便利ですね、と彼女が楽し気な素振りを見せるがその表情は変化が乏しい。

 聞く機能的にスマホと変わらないようだ。紋章という魔法の技術は結構ハイテクらしい。

 だが、今、問い詰めるとこはそこじゃない。


 「おい、それで撮ったってことはお前、あの時、村にいたんだよな」


 「ええ、イケテルさんの後を追って見てました、村の娘さんに小鬼と間違われて追いかけられるところから」

 

 「最初から見てたんじゃねーか!」


 なんで助けないんだ、と言おうとしてイケテルは気づいた、この女は後を追ったと言った。


 「……いつから俺を追ってた?」


 「写した絵は他にもあるんですよね、どうぞ」


 ルゥがこちらの問いに答えずもう一枚、紙を渡してくる。

 イケテルは無言で受取り、写真を見る。

 森の広場で珍獣が地面にめり込んで倒れている姿が写っている。

 つまり自分だ。


 「おい、お前これ」


 「はい、女神さまの神託では数日後にあの広場で異世界の勇士、つまりイケテルさんがこの世界に降り立つと聞いてましたので」

 

 でも、と彼女は付け、

 

 「いつ来るかわからない相手を広場でずっと待つというのは面倒じゃないですか。だから広場に看板でも立てて村まで来てくれるの待っていようと思ったんです。それで材料持って向かったら、変な珍獣が広場にいたので、もしかしてこれが、とも思ったのですが」


 「それだよ! 起こせよ! 助けてやれよおお!」


 文句をつけると、まぁまぁとルゥが両の手のひらをこちらに向ける。

 

 「女神さまの話と違ったのであのときは本物かわからなかったわけです、だから隠れてしばらく様子を見ていたんですよ」


 つまり、広場にいるときのことは全部隠れて見ていたわけか。


 「俺の名前知ってるのも」


 「イケテルさんが自分で俺はイケテルだーって叫んでましたから」


 「なんでそのとき話しかけてくれなかったの」


 「いえ、まだ確証が取れてなかったので、あの珍獣、失礼。あんなものが本当に勇士だったのか疑問でしたから」


 「あんなのってなんだあんなのって!」


 というかあの看板もどきもこいつが書いたのか。


 「あのやる気のない看板もお前の仕業か!」


 「はい、一応本物なら目覚めたとき村に辿り着けるよう、建てようと思ったんですが、建てるの面倒になりまして、川の先は村に繋がってるのでそれだけ書いて置いときました。辿り着けましたよね」


 「偉い遠回りだったけどなぁ!」


 深いため息が出る。イケテルの脳裏に今日の苦労が早回しで流れていく。


 (こいつが最初に話しかけてくれれば、それも全部なかったわけだ)

 

 なんか一気に疲れがきた。イケテルは深いため息をつく。するとルゥが、


 「申し訳ありませんイケテルさん、私の職務には勇士として相応しいかどうかの判断も含まれてますので、イケテルさんが一人でどう行動するかも見て起きたかったんです」


 ルゥが謝罪として深々と頭を下げた。

 真面目に謝れると、こちらも文句が言いづらい。

 

 「……わかった、今回はもういい、終わったことだしな。あとついでに聞くけど、こうして迎えに来てくれたってことは俺を勇士として認めたってことでいいんだよな」


 「そうですね、イケテルさんは勇士として十分面白い、いえ十分な能力があると判断させていただきました」


 「いま、面白いって言ったよな!?」


 「はい、言いました」


 「認めるのかよ!」


 嘘は嫌いなので、とルゥがいつもの口調で答えた。




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