八章 スキキライ
陽が落ち掛けた薄暗い森を二人は歩いていた。
「これからどうすんだ?」
イケテルは前を歩いている、ルゥに話しかける。
「とりあえず森を抜けて道に出ます、このまま真っ直ぐ東に歩けば抜けられますから」
彼女が手に持った、自身と同じぐらいの長さの杖で方向を指示した。
杖の先には木々を照らす明かりが灯っている。
(アレ、やっぱり魔法だよな)
自分も使えるようになるだろうか。
ルゥに質問しようと思った矢先、そういえばと彼女が先に口を開いた。
「イケテルさんって、別の世界の人間なんですよね」
「そうだけど……なんで知ってんの?」
「別の世界の勇士が現れると女神さまから神託がありましたから」
なるほど、とイケテルは納得した。
(あの管理者、もとい女神はアレでもちゃんと仕事してたのか)
転生したあと、自分が困らないように手配はしていたのだ。
腐っても世界の管理者たる女神、最低限のアフターケアをする気はあったらしい。だが、ブサイクになったことは許さん。
「女神に選ばれる勇士はこれまでもいましたが、女神が連れてきた、しかも異世界の勇士なんて協会でも聞いたことない話でしたから、イケテルさんを見つけたときは驚きましたね」
ルゥが足を止めて言葉と共に自分をジッと見てくる。
その表情に驚きは見えないが、彼女が言いたいことはわかってしまう。
「ふんっ、さぞや驚いたろうな、ブサイクな勇士でさ。言っとくがこの体は好きでなったわけじゃないぞ! 生前、前の世界ではイケメ、もうちょっとマシだったんだからな!」
言ってから、イケテルはちょっと後悔した。無意味に自分を卑下するのは悪い癖だ。
(でもこんな巨漢のブサイクを好きな女いるわけないしな)
そう考えると余計気持ちが沈んでいく。
「別に私はイケテルさんの顔、嫌いではありませんよ」
「え、もしかして好き!?」
落ち込んでた頭を上げてルゥを見ると彼女は無表情で答えた。
「いえ、少なくともイケテルさんが思ってる好きではないです」
「なんだよチクショウ! 期待させやがって! 本当はイケメンがよかったんだろ!」
「イケメンかどうかはどうでもいいです。嘘じゃないですよ、嘘は嫌いなので」
そう言い終えると彼女がまた前を歩き出した。
その後ろ姿にイケテルは希望を見た。
先ほどの彼女の言葉から考えると可能性があるかもしれない。
(つまり顔で選ばないなら俺もまだいけるのでは?)
例えば性格がいい奴とか、それなら自分にもチャンスがあるのでは。
「じゃあ、あの、参考までにどんなタイプが好みで?」
ルゥが前を向いたまま。そうですね、と付けて答えた。
「いい声で鳴く人ですかね」
「なるほど、それなら俺も――え?」
「リアクションって大事ですよね」
イケテルはすぐ後ろにいる自分と彼女との距離が遠のいた気がした。