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七章 嘘は嫌いな案内人

 

 「さて、どうしたものか」


 イケテルは一人呟いた。

 ゴブオはどこかに行ってしまった。戻ってくる気配はない。

 天井を見上げる、空の明かりは弱まり、陽が暮れ始めている。


 (森の中で野宿するならここで朝まで過ごしたほうがいいかな)


 周りは岩に囲まれてて安全だし、下手に外で野宿するよりは良いだろう。


 「草のベットもあるしな」


 わりと快適だなとイケテルは一人笑っている、と。


 「そんなベットでいいのなら迎えに来る必要もなかったですね」


 声がした。透き通るような女性の声だ。

 聞こえたのは出入り口の方。

 

 そちらに向くと、誰かが屈んで入ってきた。

 その姿は黒いローブを纏い、フードを深く被っている。その姿にイケテルはある職業を連想させた。


 (なんか魔術師っぽい人がきたああああ!?)


 ゴブオに続いて異世界要素が立て続けに来た。しかも声からして女性だ。

 中まで入ってきた彼女は立ち上がると、辺りを見回しながら口を開く。


 「それなりに広いんですね、これなら杖を持って入って来てもよかったですね」


 杖? 確定だ。こいつは魔術師だ。間違いない。

 一人結論づけていると、彼女はこちらに視線を向け話しかけてきた。


 「こんにちわイケテルさん、私の名前はルゥ、勇士を導く使命を受けて紋章協会から参りました」


 (勇士を導く? 紋章教会? というか何で俺の魂の名前を知っている)


 とにかく何か言うべきだろう、とイケテルは口を開こうとしたら、彼女――ルゥが先に次の言葉を投げてきた。


 「ところで一つ相談なんですが、勇士やめません?」


 いきなり辞退を薦められた。


                  ○


 イケテルは突然のことに戸惑っていた。

 

 (……いきなりすぎてわけがわからん)


 突然入って来たルゥと名乗る魔術師、顔はフード深く被っていて見えないが美人な気がする。

 判断の理由は自分の直感とローブの上からでもわかる豊満な二つの丘からだ。

 でかい。それだけでなんか美人に思えてくる不思議だ。


 イケテルは女体の魅力について深く考えていると、


 「返事がないということは肯定と判断してもいいですかね」


 ルゥが決定の言葉を投げてきた。

 まずい、このままだと勝手に決められてしまう。

 胸の魅力については頭の隅に置いてなにか言わなくては。

 

 「ま、待ってくれ、こっちは全然話が見えないんだ。勇士とか紋章協会とか言われても何がなんだかわからねぇ――です」


 イケテルは話してる途中、彼女の顔から目をそらした。

 こんな狭い空間で女性と二人っきりだと思うと緊張してしまう。女子とのコミュ不足のせいだ。

 そんな様子を見てか、彼女は変わらぬ声色で、


 「別に私に敬語はいりませんよ、私が敬語なのは癖なので気にしないでください。誰に対しても同じなので、イケテルさんは楽に話してください」


 では、と頭につけルゥが言葉を紡ぐ。 


 「話を戻しますが、イケテルさんは女神様から何も聞かされてないと言うことですか?」


 「女神?」


 女神。つまり女性の姿をした神様だろう。

 異世界物でなら主人公を転生させたり使命を与えたりするのは女神と相場が決まっている。

 

 (アレ、それってつまりあの三流管理者のことか?)


 イケテルは思い至ったので、そのまま言葉に乗せる。


 「俺を転生させた管理者名乗るアイツのことか? それなら世界を救うとかそんなの以外何も聞いてねぇぞ」


 もうアレには怨みしかないのでアイツ呼ばわりだ。

 

 「そうですか、なら説明しないといけませんね」

 

 面倒ですね、と隠さず口にしてルゥが説明しだした。

 

 「勇士とは、まぁイケテルさんのことですね。協会は私が所属する組織です」


 はい、終わりですとルゥが説明を終えた。

 短い。簡潔すぎて説明になっていない。クレームを入れるべきだ。


 「おい、詳しいことがまったく分からねぇんだが、端折りすぎだろ」


 「わかりました、それでは今の状況だけ説明しましょう。イケテルさんは女神に選ばれた世界を救う人材で、私はその人材を案内、監視するために協会から派遣されて来た案内人とでも言えばいいですかね、勇士であるイケテルさんは私の指示に従い世界を救うお仕事をするわけです」


 以上です、と最後に付けてルゥが説明を終えた。

 今度は少し情報が増えた。世界を救う仕事ってのがよくわからないが。

 

 (魔王とか倒せばいいのか?)

 

 とりあえず詳しい話は後で聞くことにして、イケテルは最初の問いを聞き返すことにした。

 

 「なんでそんな世界を救うなんて大事な使命持った勇士である俺を辞めさせようとしたんだ?」

 

 どんな理由があるのかイケテルは少し興味が沸いた。

 

 (もしかしたら勇士の使命はとても危険で自分の身を案じてくれたのかもしれない)

 

 「イケテルさんが勇士の使命を放棄してくれると、私が仕事しなくて済むので楽だなと思っただけです」

 

 どうしようもない回答だった。


 「おいィ! 世界滅びる危機なんだろ!? なんでお前の私情挟んじゃったの! やる気出せよ!!」

 

 「そう言われましても、世界滅びるとか女神さまが言ってるだけで実際起きるかどうかも分かりませんし。私としては女神の勇士の案内人に選ばれたという実績だけ手に入れば、適当に女神様に祈ればいい楽な役職に就けるんです。将来安泰なんです、だから」


 辞めません? と首を傾げて聞いてくるダメ案内人。


 (……協会とやらは派遣する人材間違えたろ)

 

 不安だ。

 彼女もだが、その組織のほうもだ、色々と心配になる。


 「一応聞いておくけど、俺が辞めるって言った場合どうなんの」


 「イケテルさんとはここで現地解散ですね、私は帰りますので、イケテルさんはここで暮らすなりお好きにどうぞ」


 「ふざけんな! 絶対辞めねぇ! 勇士やるに決まってんだろ!」 


 右も左も分からないこの世界で一人放置されたら堪ったもんじゃない。

 それに勇士として世界を救うなんて美味しい役目を手放す気は無い。

 

 イケテルは決意を示すと、そうですか、とルゥはあっさり頷いた。


 「では、イケテルさんの意思は確認できました。申し訳ありません、最初に勇士としての意思があるか確かめるのも私の仕事なので」


 彼女が頭を下げた。

 つまり自分は試されたということか。


 「そうだよな、出世云々も俺を試すための嘘だったわけだ。いや、本気ならどうしようかと」


 冗談がすぎると、イケテルは笑うと、ルゥがぴしゃりと言った。


 「いえ、私は嘘が嫌いなのでさっきのは本心です。それとイケテルさんも私には嘘を付かずに正直に本心を言ってください。私もあなたに嘘は言いませんので、わかりましたか」


 彼女の言葉には妙な圧があり、イケテルはハイと答えるのが精一杯だった。

 

                  ○

 

 「それではここを出ましょうか」

 

 「あ、ちょっと待ってほしい」


 ルゥが外に出ようとすると、彼、イケテルに止められた。

 何かあるのだろうか、もしや。


 「なんですか、イケテルさんここで暮らしたいんですか?」


 「暮らさねぇよ! こほん、まぁ、なんだ一応確認というか、その」


 彼がもじもじしながら要件を言い淀んでいる。

 この状況で彼が自分に確認したいこととは何か。

 彼は先ほどからチラチラこちらを見ている。なるほど。

 

 (ずっと視線は感じていましたしね)

 

 つまり、

 

 「――変態ですか」


 「えぇ!? 突然なんだ!?」

 

 「私の胸のサイズを聞きたいのではないのですか? 随分と熱心に見てましたし」


 この変態と蔑む言葉を付けると。彼がぶんぶん頭を振りながら慌てて弁明しだす。


 「ち、ちげぇよ! あと、見てねーし! 顔だよ顔! ずっとフード被ってるから気になったんだよ!」


 「ああ、そちらのことですか、見せるのは別に構いませんよ。あとイケテルさん嘘はやめてください、見てたのわかるので」


 え、マジと彼がたじろいでいる。あれだけガン見してて気づいてないと思ったのか。

 彼に関する報告書には変態の懸念有≪おっぱいが好き≫要注意と記載しておくことにしよう。

 

 「次、嘘ついたら張り倒しますので、では――」


 フードに手を掛けて、躊躇わずに外す。

 

 「…………ふぅ」


 ルゥは一度、手で短い髪の毛を払い、彼を見る。

 凄い顔、いえ、最初から凄い顔だったが、今もなかなかに面白いリアクションをしていた。


                  ○


 イケテルは見た。美女だ。目の前に美女がいる。

 短めの髪のせいか美少年と言えばそうも見えるが、豊満な胸が女性であることを露わにしている。


 (勝った。異世界ヒロインガチャに勝ち申した!)


 イケテルは拳を握りしめ、天高く掲げる。勝利を表すポーズだ。

 

 「……どうやら満足いただけたようですね」


 ルゥがこちらを半目で見ていた。

 いかん、はしゃぎ過ぎた。好感度が下がった気がする。

 とりあえず言動には気を付けよう。

 

 反省していると、では改めて自己紹介しておきましょうとルゥが口を開いた。


 「私はルゥ、勇士イケテルさんの案内、監視、報告、世話はしません、を務めるあなたの、まぁ相棒とでも言いましょうか」


 「おう、宜しく頼む――って世話もしろよぉ!」


 ツッコミを入れるがルゥは気にせず出口に向かう。

 先に出ますよと言い、一人とっとと出て行ってしまった。


 「攻略難易度高そうだなぁ」


 イケテルは一人ため息をついた。立ち上がる。

 痺れて満足に動かなかった身体が、今は問題なく動いた。

 

 (そういえば、ルゥが来た時には痺れがだいぶなくなってたな)


 一時的なものだったのか。

 ふと、足元に転がる木の実に目が付き、手に取る。

 

 「これ飲んでから痺れが無くなった気が」


 「イケテルさん、そこで暮らすなら置いていきます」


 ルゥの声が外から聞こえ、足音が遠ざかっていく。

 まずい、あの女なら本気で置いていく可能性がある。この短期間でそのぐらいは彼女のキャラを理解できた。

 出口に急ぎ向かう、出るときイケテルは一度だけ後ろを振りむいて、


 「ありがとな、ゴブオ」


 今ここにいない、住処の主に感謝の言葉を残し、彼女の後を追った。 

 


               

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