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五十五章 斬れない理由


 イケテルは棍棒ゴブオを構えて走る。

 目標は聖剣の柄。

 あの柄を掴めばこちらの勝ちだ。


 ……アイツは言ったからな。


 柄を持つことが許すのは持ち主だけだと。

 逆に言えば柄を持ってしまえば、その身を預けたようなものだ。

 それで聖剣が持ち主と認めるかどうかはわからないが。

 話合うためにもまずは掴む。力があることを認めさせてやる。


 人を散々ブサイクだのバカにしたのだ、絶対に掴んでやる……!

 

 意気込んでからあらためてイケテルは前を見る。

 聖剣が剣先を持ち上げて刃を光らせる。

 

 ――来るっ!?


 頭より早く体が反応して急ブレーキをかける。

 聖剣が身にまとう光を解き放ち、刃を振るう。

 狙いはこちらの正面、足元に境界線を作るよう光が走る。

 弧を描いた斬撃は容赦なく地面を切り裂いた。

 

 「ひええっ!?」


 イケテルは思わずそこから後ろに飛び跳ねて、逃げた。

 斬られたら間違いなく真っ二つだ。

 手に持つ棍棒ゴブオで防ぐなど出来たとしても、やる勇気はない。

 睨むように聖剣を見れば、そこから動く気が無いのか浮いたままこちらに剣先を向けていた。近寄れば斬るという強い意思を感じる。


 ……対応策がねぇな。


 この待ち戦法への対処はどうしたらいいものかイケテルは頭を悩ましていた。


                  ○


 ルゥは妙を感じていた。

 今は巻き込まれないよう、聖剣側の後方で様子を見ているが、


 何かおかしいですね。


 おかしいのはイケテルではない、聖剣、彼女の方だ。

 先程からイケテルが近づこうとすると、彼女は彼の進行方向、足元に迎撃して近づけさせないようにしている。

 

 ……ま、暑苦し顔ですしね。


 近づけたくない気持ちも分からなくもないが、今はそう言う問題ではない。

 彼女は牽制はしても、攻撃はしないのだ。

 あの光の斬撃は間合いも広いのに遠くから斬撃も撃ち込まない。

 あくまで近寄らせないようにするだけだ。


 殺したくないのか、今考えれば、最初の警告を意味した初撃もあえて外していた。二撃目も、そして今もだ。彼女は一度も当てようとして剣を振っていない。

 つまり、何か斬れない理由があるのか。

 彼女の言動、性格から考えられるとしたら、

 

 ……まさか。

 

 さっきから頑張っている彼にルゥは少し哀れな目を向けた。


                  ○


 「いい加減諦めなさいよ!」


 何度目かの斬撃を放って、聖剣は突撃するイケテルを退けていた。


 ……本当諦めの悪い男!


 さっきから斬撃を放つたびに悲鳴上げて逃げている。怖い思いしているのだからとっとと逃げればいいのだ。なのに、あれは諦めずに何度も立ち上がって向かってくる。


 そんなに聖剣わたしが欲しいって言うのか。


 でもダメだ。このからだ許す気にはなれない。

 あれは見た目も性格も趣味じゃない完全に大外れだ。


 せめて見た目だけでも、もう少しまともなら……。


 「ってダメダメ、だめよわたし、次はこの聖剣わたしに合う最高の人って決めたんだから」


 そうだ、妥協なんて許されない。

 心に決めたのだ、もう今度こそ間違えないと。


 「あのとき誓ったんだから……!」


 また向かってくるバカに術式を走らせた刃を振るう、一瞬、感情の乱れから、力を入れすぎてからだが滑った。狙う軌道がずれる。

 

 「しまっ――避けなさい、イケテル!」


 聖剣は叫んだ。

 伸びた光が向かう先は彼の足元ではなく、少し浮きあがり腰の下辺りを薙ぎ払う軌道になってしまっている。

 もう止められない。

 当ると思った瞬間、イケテルがそれを垂直に跳び上がって回避した。


 「ちょっ、おあうぁあ!?」


 珍妙な悲鳴を上げて、着地と同時に地面を転がって逃げていく。


 「……あ、危なかったわ」


 あと少しでアレを斬るところだった。


 あんなものを斬るなんてそれこそ、聖剣として――。


 聖剣は思考していると、背後からの声に遮られた。


 「イケテルさーん! 味方する気はなかったんですが一応言いますねー!」


 振り返ればルゥが口元に紙を当てていた。

 拡大され、少しひび割れる声が続いて響く。


 「おそらくですが、聖剣さんはイケテルさんが斬れませーん!」


                  ○


 イケテルは転がった状態でルゥの声を聴いていた。

 

 「は? 俺を斬れない? なんで」


 さっき思いっきり斬られそうになったが、


 ……そういや避けろって聖剣が叫んでたな。


 聞こえるより早く体が反応して逃げたが、危なかった。

 だが、さっきの事故で斬る気は無いとすると何故だ。

 思い返すと、一度も聖剣は自分に当るよう斬撃を放ってはいない気がする。

 つまり、これは。


 「はっ!? まさか俺のこと惚れて――」


 「あるわけないでしょうが! KILLわよ!」


 「うわあぁ――!?」


 言った瞬間、返事と共にKILLされかけたので、大きく左へ飛ぶ。

 斬撃がさっき居た場所より、横にずれて放たれていた。

 

 あれ……? 狙いがずれてる?


 ツッコミにしても的確ではない、いや、当ったら死ぬツッコミとか物騒なのでそれでいいのだが。つまりこれはどういうことだ。

 立ち上がって首を傾げてると、ルゥの拡大された声が届く。


 「イケテルさーん、逆ですぎゃくー!」


 逆?


 ルゥの言葉に首を逆方向に傾げる。

 逆とはつまり、惚れてるの反対、嫌われてるということだ。

 嫌われてるなら斬られるはず、なのに斬られない?

 ということは、


 「嫌らいだから斬りたくない?」


 「そうですそうです! 斬りたくないんです、イケテルさんのこと! だって嫌なんです、斬るの! ――ブサイクだから」


 あー、なるほど。


 「ってなんだとごるぁああああっ!?」


 ルゥに文句つけようと見据えようとしたら、聖剣が視界に入った。

 すると柄頭を軽く下に傾けて、呟いた。


 「ちっ、バレたか」


 「くぅおらあああぁ! 剣、てめぇええええ!?」

 

 イケテルは怒りの叫びをあげた。


                  ○


 聖剣は内心で溜息を吐いていた。

 バレてしまった、アイツを斬れないことが。

 仕方ない、あんなブサイクな奴を斬るなんて聖剣として無理なのだ。

 プライドが、心が、魂が許さない、だから、


 ビビらせて逃げさせようとしたのに……。


 聖剣は振り返って、ばらした張本人へと剣先を向ける。


 「やってくれるわね、あんた」


 すると、ルゥがどこからか取り出した本を片手に両手を上げて謝罪する。

 

 「すいません、聖剣さんの気持ちもわかるんですが、ほら、イケテルさん諦めが悪いのでこのままだとずっと挑戦し続けますから」


 彼女が持っていた本を広げて見せる。


 「このままだとランチどころか、夕時までやりそうなので、私、夜はここでディナー食べたいんですよね」


 見ればそのページには見開きで大きく、


 『素敵な広場で踊りを見ながら肉を食べよう、肉を食べまくろう。

  肉で腹を満たせ、肉食べ放題、マウンテン盛りの肉を食い尽くせ!』


 と書かれていた、彼女は無表情でページに写された山盛り肉を指さしている。


 こいつも相当マイペースな奴ね!

 

 勇士が勇士なら、その相棒も相棒か。

 本当に大丈夫なのだろうかこの女神の勇士一行は。

 だが、今、問題なのは前にいる奴だ。

 振り返ってみれば、にんまりとした気色悪い笑顔を浮かべている。


 ……嫌な予感がする。


 そう思った瞬間、バカが叫び声を上げて突撃してきた。


 「そうと分れば突撃だああああっ!」


 「来るんじゃないわよっ!」


 斬る。そのつもりでからだを振ろうとするが、途中で止まる。

 速い、足元を斬ろうにもあのバカが巨漢とは思えない速度で突っ込んでくる。

 斬れば当たる。当てなければ捕まる。


 「くっ、こんな奴、一刀両断してやれるのに……!」


 聖剣は少し迷ってから真下に刃を叩き込んだ。


                  ○


 イケテルは光が爆発したのを見た。

 

 「なっ!?」


 聖剣が至近距離、真下に斬撃を放ったのだ。

 その衝撃が聖剣自身をふっ飛ばして、後方へと大きく弧を描いて飛んでいく。

 

 「しまった、逃げやがった!?」


 聖剣が落ちて、地面すれすれに浮くと、そのまま森へと浮き跳ねて飛び込んだ。


 「逃がすかぁ!!」


 イケテルは全力疾走で聖剣の後を追う。

 広場の横断途中でルゥの方を向いて、


 「ランチはアイツは捕まえたらなぁ!!」


 言うと、ルゥが人差し指を上げて、


 「間に合わなかったら、嘘ついたと見なして怒りますからー!」


 その声が耳に届くと同時にイケテルは森へと突撃した。


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