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三十九章 明日も前向きに 第一話-完-


 「イケテルさん、今回の件で一応、勇士としての役目は終えたとも言えますが、これからどうしますか?」


 ルゥが唐突に今後のことを聞いてきたのでイケテルは答えることにした。


 「つってもなー、まだ穢れた紋章、あの赤いのがあるんだろ? 役目はまだ続くんじゃねぇか」


 「あの男は誰かから貰ったと言ってましたからね、それと仕事とも、他にもある可能性としては高いですが、まぁ、その辺りは協会の調査班が頑張るでしょう。……それにしても、イケテルさんにしては察しがいいですね」


 「しては、余計だよ! まぁ寝てるとき、夢の中で女神が出てきやがって、他にもあるとか言ってたんだよ。それに役目果たさないと、女神の勇士をクビにするって脅しかけてきやがった。まったく、女神がやることじゃねーだろ」


 言うと、そうですかと、ルゥが相槌を打ってきた。その表情はいつもより戸惑いの色が見える。

 ルゥのその様子は気にはなったが、イケテルはついでに女神とのやり取りの中で気になったことを聞いてみた。


 「そういや、女神がルゥのこと、あの子って心配してたぞ。なんか言い方に妙に親しげっていうか過保護っていうか」


 「あー、やっぱり、女神様心配してましたかー、そうですか……あの、なんというか、他になにか言ってましたか?」


 ルゥの言葉は歯切れが悪い。普段切れ味がよすぎるのに、それにバツが悪そうだ。

 こんな彼女を見るのは初めてかもしれない、イケテルはちょっとレアだなーと思いながら答えた。


 「別に何も言ってねーけど、もしかして女神と知り合いだったりするの? はっ! まさか、お前、女神の娘とか姉妹とかそういう設定!?」


 「なんですかその恐れ多すぎる設定、……はぁ、仕方ないですね、イケテルさんには教えてもいいでしょう。でも、これは他言無用でお願いします。知ってる人間は知っていますが、大抵の人は知らないので。まぁ何というか、私の一族、部族と言いましょうか、歴史的に女神様とのつながりが深いんです。そのため部族内から巫女長を選出して、神託をいただく役目を賜ってるんですが……」


 ルゥが何かを思い出したように、深いため息をついて、続けた。


 「そのですね、巫女候補、つまり私達の部族の血が流れる子供たちの元に女神様が現れることがあるんですよ。イケテルさんのように夢の中に。女神様は何というか毎年誕生日に必ず現れて祝ってくれるんですよ、ええ、全員に。幼い頃から毎年毎年、成人になるまですかね、まぁそれはありがたいことですし、嬉しいのですが」


 ルゥが少し、顔を背けて言う。


 「年を重ねると、五歳のときはーと昔の誕生日の想い出を歳の数だけお話してくださって、それが毎年毎年増えて続くんですよね。女神様ご本人は祝福してくれるのはわかるんですがね、本当、なんというか、その、わかりますよね」


 ルゥが言い終えると、それ以上は口を閉ざした。どこか遠い目をしている。

 彼女が言いたいことはなんとなくわかった。

 

 (年に一回会える孫に何度も同じ話するばーちゃんみたいだな)


 あの女神、わざわざ労いに来たとか言っていたが、寂しかったわけじゃないだろうか。


                  ○


 復活したルゥが咳払い一つ付けて、口を開くのをイケテルは見ていた。

 

 「話がそれましたけどイケテルさんはこれからも女神の勇士として頑張っていくってことでいいですか?」


 「おう、他にやることもねーしな。今回みたいな危ない目にも会うのも嫌だが、まぁ何とかなるだろ」


 それに、


 「言ったろ? 俺はこの世界のこと何にも知らないんだ、お前に置いて行かれたら俺は困るんだ。……だからルゥ、お前と行くぜ!」


 笑って、ガッツポーズをルゥに向ける。

 ルゥは、いつもの表情のまま、淡々とした口調でこちらの言葉を承諾した。


 「わかりました、それじゃあ行きましょうか」


 「おう、あ、ちょっと待ってくれ」


 これを忘れるところだった。イケテルは腰に吊るしていた棍棒を取り出して、ゴブオの墓標の前に立て掛けた。

 墓標の前で、友へと話しかける。

 

 「ありがとなゴブオ、天から俺の活躍を見ててくれよ」

 

 「……ゴブオさんは心がイケメンでしたね」


 ルゥの言葉に、イケテルは笑って、同意した。

 

 「そうだな、俺も見習わなきゃいけねぇ。顔がちょっと悪くても心がイケメンなら、きっとこの世界で女の子にモテまくれるはずだ。目指すは、人生二週目理想の異世界ライフだ!」


 友に誓う。向かうは新たな旅立ちだ。


 「よし、行こうぜ! ルゥ! 次はどこ行くんだ?」


 「そうですね、でもその前に。イケテルさん、その棍棒置いて行ってはダメです」


 ルゥが棍棒を指さして言った。


 「その棍棒は女神の加護が刻まれてるので、それ持って行かないとダメですよ、放置しないでちゃんと責任もって管理してください」


 「……えっ? 女神の加護? 右手の? あれ、加護受けた、俺の武器って、これ?」


 「はい、よかったですね。イケテルさんの、選ばれし者の伝説の武器ですよ」


 イケテルは一度墓標の前に立て掛けた、先端がぶっとい木の棒を見て思わず叫んだ。


 「そんな伝説の武器はいやだああああ――っ!?」


 理想の異世界ライフからまた一歩遠ざかった気がした。


                  ○


 「イケテルさんいい加減、元気出しましょうよ」


 緑の丘を歩きながらルゥの励ましをイケテルは聞いた。

 イケテルは腰に吊るした自分専用の伝説の武器に目を落とす。棍棒だ、どこから見ても棍棒だ。

 

 「はぁ、まぁいいか。棍棒ゴブオには世話になったしな、相棒として最後まで一緒にいてもらうか」


 「ええ、きっとゴブオさんも喜びますよ。とりあえず隣町まで歩いていきましょう、半日も歩けばつきますから」


 「遠いなー、というか、このまま行っていいのか? 村にお付きの紋章騎士団残してるんだろ?」


 ルゥが前に合流として騎士団付いてくると言ってた気がする。


 「確か、まだ半分は残ってるんだろ?」


 「ええ、いますけど面倒なので置いていきましょう。私、嘘つかれるとイラっとするので、正直に言うと人嫌いなんです、集団で旅するとかストレス溜まるのでお断りです」


 「……俺はいいのかよ」


 「イケテルさんは人……? あ、ギリ人ですので、大丈夫、気にしません」


 「ギリじゃねーよ! よく見ろ! 薄目でもいいから! ほら、ちゃんと人だろ、コラ!」


 ツッコミを入れて、ルゥを見る。

 いつも通りの顔だ。彼女にとってこれがストレス解消なのかわからないが、こっちはこれで心労がたまりそうだ。だが、前向きに考えれば、それは、


 (俺は良いってことだな!)


 つまり自分が好きって事でもいいのでないか、もちろん好感度的な意味での話だが。しかし、二人旅だ。男女でだ。これは何が起きてもおかしくないのではないか。


 (巨乳ボーイッシュ美少女と一緒に……ぐふふ)


 今後の楽しみを想像していると、唐突にルゥが爆弾を投げてきた。


 「あ、イケテルさん、私は別に女性じゃないので」


 「は?」


 ルゥの突然のカミングアウトに、イケテルはあらゆる動きを止めた。

 イマナンテイッタ? まさかアレはやっぱりそういう意味でのアレだったのか。

 最悪の想像をして、変な汗がダラダラ流れてくる。すると、ルゥがさらに言葉を投げてきた。


 「ええ、男性でもないですが」


 「…………?」


 自分の頭の中は?マークで一杯だ。

 前を歩く、ルゥが振り返って言う。


 「さぁ、行きましょうか。私の勇士」


 深いため息を一度ついてイケテルは歩き出した。

 最後の最後に爆弾発言が投げられたが、


 「……どうあれ、相棒を信頼して一緒に行くだけだよな」


 

 俺はイケテル。勇士イケテル。世界を救うらしい女神の勇士として、嘘が嫌いな案内人に導かれ、この世界で適当にやっていくのだ。

 


一話 「勇士イケテル」―完―

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