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三十七章 その後


 緑の丘を見ながらイケテルはルゥが出てくるのを待っていた。

 ここは村の離れ、北側にある農地だ。いままで自分が寝ていた家は、収穫時のとき隣町の労働者が泊まり込むために使っている、宿用の家らしい。

 何故、村から離れてこんなところで寝ていたかは知らないが、ここから見える風景は嫌いじゃない。

 初日、森から抜けて、丘の上から見たときの風景とは逆に眺めている。

 

 (昨日、じゃなくて四日前か)


 ルゥが言うには自分は丸二日間寝ていたらしい。おかげで体が妙に固い。

 イケテルは軽くストレッチしていると、後ろから扉を開いてルゥが出てきた。


 「イケテルさん、お待たせしました」


 出てきたルゥは手には杖と四角い黄色のカバンを持っている。

 イケテルは黙って手を伸ばす、


 「? 叩いて欲しいんですか?」


 「ちげーよ、カバン持ってやるから寄こせって意味だよ! 察しろ!」 

 

 「そうでしたか、ではお言葉に甘えましょう」


 イケテルはカバンを受取る。それほど重くはないが何が入っているのか。


 「それ、私の肌着とか入ってますので覗かないでくださいね」


 ルゥの言葉一つで、このカバンがとんでもないお宝に見えてきた。

 カバンに視線を落としていると、ルゥが


 「興味津々ですか?」


 「そ、そんなことはっ」


 ルゥの目が一瞬鋭くなった気がする、いかん、嘘はバレるのだった。

 

 「ありまーす! 興味ありまくだけど我慢します! 決して覗きません!」


 ルゥが目を伏せ、少し考えてから頷く。


 「……まぁいいでしょう」


 (セーフ!)


 イケテルは心の中で交差した手を横に伸ばした。


 「服と言えば、イケテルさんその服、似合ってますね」


 言われてイケテルは自分の服を見る、今着ているのはルゥが用意してくれた新しい服だ。

 前の服に比べてかなり軽い、材質が違うのか、デザインも大分違う。ベストにパンツ、ベルトにはポーチも付いていて、耳当て付の帽子も被っている。

 イケテルはその帽子の耳当て部分を指で弄りながら、

 

 「この帽子、なんか耳当て? タレ耳みたいだけど似合ってるか?」

 

 「より珍獣っぽくなって、可愛いと思いますよ」


 「そ、そうか。可愛いって言われると悪い気が……あれ、お前、今珍獣って言った?」


 ルゥはこちらの問いを無視して、村の方に顔を向けて、言う。


 「村長さんがお詫びにって服用意してくれたので感謝しましょう、前の服、センスも正直古いというか、化石だったので」


 「見立てたの村長かよ! あのおっさん変な趣味持ってんだな!」


 「……持ってきてくれた服から、選んだの私ですが」

   

 「おっと、いいセンスしてると思ったぜ、このタレ耳とか、な!」


 ルゥに親指を向けると。彼女は静かに指を一本上げた。あれは罰ゲーム一回って意味だろうか。

 あと、恐らく、前の服は女神が用意したものだ。


 (センス化石か……夢の中で2000年前とか口走ってたしな)

 

 情けとしてそのことはルゥには言わないことにしておく。

 イケテルは村の方をちらりと見て、


 「一応、村長にも礼を言わないとな……というか、村長達どうなったんだ?」


 「そうですね、少し長くなるので歩きながら話しましょうか」


 ルゥが歩き出したので、イケテルも追いかけ横に並ぶ、ルゥがこちらを一度見てから話始めた。


 「村長さんに関しては、村の復旧や業務の引継ぎなどもあるので、それが済むまでは村にいて貰ってます。もちろん監視付きが条件ですが。部下の皆さんも同じように。まぁ余罪も含めて色々やってましたから、村が落ち着きしだい、罰を受けることになるでしょう。今は村の復旧に勤しんでるはずです、あの村は今後は協会の監査官が村に常駐することになりましたから、何をやるにも色々調べられて、大変でしょうね、自業自得と言えばそうですが」

 

 次にと、ルゥが続けた。


 「村長の息子さん、秋男さんと呼んでおきましょう。彼は協会支部に連行されました。罪状はまず無登録の紋章の私的利用、それと傷害が主な罪ですね。本来は裁定受けて、しばらく独房行きなのですが、支部まで連れていかれたのは穢れた紋章が刻まれたままだからでしょう。封印施さないといけませんので……ああ、もう発動はしないので安心してください。イケテルさんがコピー元の親の紋章を破壊したことで不活性状態ですから」


 「ふぅん、秋男も大変だなぁ」


 正直な感想を呟くと、ルゥが半目を向けてきた。


 「イケテルさん、他人ごとじゃないですよ。気づいてないかもしれませんが、肩にあの穢れた紋章が何故か刻まれてましたから」


 「はぁ!?」


 (自分の肩にアレが刻まれてる?)


 イケテルは慌てて、服を脱いで肩を見ようとすると、ルゥが手の平を向けて、


 「落ち着いてください、見たところ紋章としての効力は残ってなかったですし、発動することはありません。紋章の機能がそのものが消失してたので、刻まれてたのはなんという紋章が地脈から吸い上げた残滓というか、正直よくわからないんです。ただ、人体に何か影響を及ぼすことないと思います。詳しいことはどこかで検査を受けて貰わないとわからないのが現状ですが」


 「……まぁ、ルゥが言うなら信じるけど、本当に大丈夫なんだろうな? 俺、嫌だぞ、あんな醜い化物になるの」


 「そこは安心してください、紋章に組み込まれた、術式そのものが無いのでどうあっても起動しませんから、とりあえずそれを回収するかどうかは上層部の判断次第なので、支部か、それとも本部か出頭要請があるかもしれないでのそれは頭に入れておいてください」


 イケテルは一度ため息をついた。

 肩によくわからんものが付いてると思うと、ちょっと不安になる。だが、待て、これもしかすると、


 「敵の紋章を手に入れたことで新たな力に目覚めるとそういうパターンじゃないか!?」

 

 「いえ、無理です、さっきも言いましたがその紋章破壊されて、術式も機能もないので、どうあっても使い道がありません。一応、安心させるつもりで言いますが、協会がイケテルさんをどうこうするって事は無いと思います、イケテルさんは仮にも女神の勇士、最終フェーズ間近の穢れた紋章の汚染を阻止した英雄ですから、評価はされてると思いますよ」


 「英雄! くぅ、いい響きだ! あ、そういや、その、紋章堕ちの、あいつは」


 「あの男は合流予定だった紋章騎士の半数が連行していきました。協会本部か騎士団本部か、どこかで尋問を受けるでしょう」


 「……そうか」


 事件の背後関係を調べるのはあの事件に関わっていない第三者がやる。

 それについて少し思うところはあるが、


 (まぁそういうものか)

 

 何でもかんでも自分たちでやろうとすればそれはきっと重みを背負うことになる。そういう意味では当事者以外に任せてしまったほうがいいのかもしれない。

 イケテルは大きく頷いて、終わったことを考えるのは止めた。前向きに生きていく、第二の人生、自分の理想を目指すと決めたんだ。そう、今朝の夢のような世界が――、


 「そうだ、すっかり忘れてた! 後で村に行って、村中から賞賛受けるんだった! アイツら小鬼とかブサイクとか散々馬鹿にしやがって村を救った女神の勇士様のご尊顔を拝ませてやるぜ!」


 ガハハッと笑っていると、ルゥがこちらの肩に手を置いて、無理と、言いたげにゆっくり首を振った。

 

 (え、なんでだ、なんでそんな反応を寄こすんだ?)


 ルゥが元気出してくださいね、と不安になることを先につけてから言う。

  

 「今、村ではイケテルさんは戦犯扱いなので行ってはダメです」


 「は? なんで、なんで俺がそんな扱い受けてんの!?」


 「イケテルさん、村の人たちは全員村はずれの集会所に避難してて、紋章堕ちの姿を見てないのは知ってますね。それで悪戯に不安を煽りたくないということで、紋章堕ちについては伏せて、村長さんたちが説明したのですが、村を破壊した犯人は醜い大男って辺りで村人たちが、まぁ、何と言いましょうか、さすがに可哀想というか理不尽というかやっぱりって感じなんですが、皆さんイケテルさんを連想したらしく、今、村中殺気立ってるんですよ。特に家を壊された人たちが小鬼はどこだって、一応それは違うと説明したんですけどね、いまいち納得してもらえず。特に巨大なハサミを持ったおばあさんが殺意凄くて、あれ説得無理ですね、はい。だから、村から離れたそこの宿場にイケテルさんが匿う形で寝かしていたんです」


 イケテルは地面に膝を付けた。力が抜ける。

 空を見る、青い空だ。前にもこんな状態で見た気がする。


 「お、俺の村の美少女を囲むハーレム計画がああああ――っ!?」

 

 「……まぁそもそも、その下心で出来た計画は最初から無理だと思いますよ」


 ルゥが残酷に告げた。


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