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二十六章 災厄の悪魔

 

 イケテルは目の前で起きた衝撃的光景に腰を抜かせていた。


 「や、やりすぎだろ――――っ!?」


 轟音と共に特大の雷が落ちてきた。

 あの威力。髪の毛がアフロになるようなギャグでは済まない、黒焦げのはずだ。


 (もしかしてやっちまったか?)

 

 とんでもないことに加担してしまったという気持ちがイケテルの中で巡った。

 ルゥに渡されたのは短刀と紙で、紙には矢印で↑→と書かれて、走って、投げろと走り書きされていた。

 最初はなんのコマンドかと思ったが、状況から見て広場の北から出て東に回れってことと判断し、走って回り込んで、後ろからだと気付かれるため途中、建物の間の細い路地から奴の横に出て、紋章が刻まれてた短刀を投げたのだが。

 

 「やっぱ、これって共犯かな」

 

 イケテルは呟いた。

 さすがにあの威力の雷が落ちてくるとは思わなかった、アレをさすがに受けたらステMAXでも死ぬ。


 殺してしまった、とイケテルは思った、だが、目の前の光景は違った。

 男は立っている。しかし、そこにいるのは背の低い男じゃない、身長が倍近く伸びたでかい男が。


 「イケテルさん!!」


 ルゥの声が響く。

 

 「――――ッ!?」


 眼前に巨大な拳が見えた。


 イケテルは咄嗟に腕で前をガードした。

 間に合ったが、吹き飛ばされ、宙を浮く。

 

 「――――あ、がっ!」

 

 背中に何か当たり、痛みと衝撃で息が止まる。そのままイケテルは地面に転がり落ちた。

 

                  ○


 ルゥはイケテルが広場に殴り飛ばされるのを見た。

 内にえぐり込む一撃はイケテルの体を広場の柵へと吹き飛ばし、背中から柵を破壊して、彼が広場に転げ落ちた。

 殴り飛ばしたのはあの背の低い男だったもの、今やその身長を二メートルを優に超えている大男へと変わっている。


 「イケテルさん!」


 呼びかけた彼は横に倒れて、呻いている。

 大丈夫、生きている。気を失ってるだけだ、だが、その前に大男が柵を飛び越えて来た。

 

 「走りなさい――」


 ルゥは命じた。

 右手を横に払い、紋章を走らせる。

 広場、周辺建物に昨日のうちに仕掛けた紋章を発動させる。


 「迅雷ジンライ!」


 雷が一直線に、紋章を刻んだ建物から、広場の紋章へと駆け巡る。

 そのライン上にいた大男に雷をぶつけた。


 (当てた、だけど)


 嫌な予感は当たった。

 大男は健在だ、効いていない。足止めにもならない。

 

 「ヒャハハハッ、無駄ぁダアアぁ!!」


 大男が叫んだ。先ほどとはまるで姿が違う。

 身体が成長し、服が破け肥大化した筋肉が露わになっている。

 突然巨大化した理由はわかる、全身に走る赤い紋章の線、アレは、


 「自分の身に、紋章を使いましたか!!」


 「その通りィいい、あっしの力、この力は生長を促す力ぁ! 大地から力を吸い上げる生長の紋章!」


 大男は叫び、声を荒げる、


 「だが、だが、まだだ! もっともっと力が欲しいィいいい! 力を寄こせ、紋章ォおオっ!!」

 

 さらに体が膨れていく、大男の体に新たな赤いラインが走っていく。

 

 (フェーズが早いですね、暴走してますか!)


 穢れた紋章の暴走、人の体まで変化させる女神が禁じさせた力を与えるもの。

 これまで女神の勇士が呼ばれる事例のほとんどは大きな戦乱の阻止や、災害による被害の抑止といった大勢の生死に関わることだった。

 その中には紋章の悪用事件はもちろんあり、今回のような穢れた紋章による被害を食い止める事件もあったというが。


 「実際に目の前にすると凄まじいですねぇ!」


 聞いた話と実際に対峙するのではわけが違う。

 穢れた紋章をコピーできる、増殖まで進んでいるならかなり危険な段階だと踏んで、今持っている最大火力の攻性術式を仕掛けたが、通じなかった。

 大地の紋章に対しては雷の紋章は効果が薄いのもあるが、恐らく相当な力を地脈ラインから吸い取っている。


 最初は森で樹を肥大化させたことが地脈ラインの過剰値の原因と考えたが、あの広場には数本しかそれがなく、伐採所にも切り落とした丸太は無かったのだ。

 別の場所でも何か行っていたのではと思ったが、穢れた紋章を用いて本人が力を吸い上げてたなら辻褄が合う。


 恐らく、このまま放っておいても大男の体はいずれ自滅するだろう、だが、穢れた紋章は死んだ肉体すら自らの活動のために動かしかねない。そして自分のコピーを作り周囲にばら撒きだす。そうなれば周辺の環境を汚染して被害が一気に広がってしまう。

 災厄と呼ばれるだけはある

 

 「ここで何とかしないといけませんね」


 だが、どんな方法があるかルゥは思案する。

 正直、自分にはどうにもできない。手持ちの紋章では通じないのだ、だから。

 懐から取り出した、紋章紙を一枚口につけ、ルゥは叫ぶ。

 


 「イケテルさーん! 起きてくださーい! 大変なんです! ……私、今、服が破けて、胸が見えそうなんですよ――っ!」

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