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二十四章 広場の決闘


 ルゥは少し浮いた状態で二人の対峙を見ていた。

 距離は五メートル程、互いに武器を構えている。

 イケテルは剣を縦に構えているがへっぴり腰だ。

 息子――秋男さんでいいですね。秋男は短刀を低く突き出すように構えてるが足が振るえている。

 

 (ヘタレ対決ですかねー)

 

 互いに見合って動かない。いや、動けないでいる。

 恐らく戦いはどちらも素人だ。


 イケテルの持つ剣は正しくは蛮刀と呼ばれる、先端が尖り、やや湾曲した刃先の入った片刃の得物だ。伐採やサバイバルで使える大ぶりのナイフのなのだが。

 あの蛮刀は森の獣を狩るときに使うためか、厚みや幅もあり、刀身もやや長めに作られている。その分重さがあるが、断つような一撃を放てるだろう。

 対して、秋男が持つのは短刀だ。そのまま短い刃物だが、斬るのではなく刺突する方が有効な武器だ。速度と体重を乗せれば体当たりで相手に突き刺せ、深手を負わせるだろう。

 互いの武器の間合いの違いもあるが、秋男がやや有利とルゥは見た。

 

 (イケテルさんは優しすぎますからね)


 武器の差でも対格差でもなく、心の差だ。秋男は先ほど父親を斬りつけている。急所を外した浅い傷とは言え、彼は人を斬ったのだ。

 イケテルのほうは恐らくそんな経験はない、今初めてまともに剣を持ったような状態だろう。

 素人同士なら相手を傷つけることに躊躇いが無いほうが有利だ。

 だから、


 (イケテルさんには頑張ってほしいですね)


 今後のことも踏まえて彼には成長して欲しい、とルゥは願う。

 もしこれからも女神の勇士としての役目を行うなら、ここで一つ経験を積み、強くなってもらわなければ、


 「相棒としては困りますからね」

 

 言い終えると、動いた。先に動いたのは秋男だった。


                  ○


 イケテルは秋男が叫びながら突貫してくるのを見た。

 自分はそれに対処しなければならない。しなければ刺されて死ぬ。


 (それはごめんだ……!)

 

 今、取るべき手段をイケテルは決める。

 構えた武器をカウンターで叩きつける。それで秋男が止まらなければ刺されるだろう。

 短刀だけを弾く。素人にそんな達人技は無理だ。それに秋男は低く構えている、上段打ちは当てづらく、下段から短刀だけを打とうとしてもそのまま秋男の頭も打ち抜きかねない。

 殺さずに止めたい。これは秋男のためじゃない、自分のためにだ。

 故に選ぶのは、これだ。


                  ○


 ルゥは見た。

 秋男がイケテルまであと二歩と言ったところまで距離を詰めてきた。

 

 「うわあああああっ!?」

 

 必死の形相をした秋男が叫びと共に短刀を両手で持ち、前に突き出した。

 対して、イケテルが不可思議な構えをしていた。

 腰を少し落として、左足を前に出し、やや横向きに相手を見据えている。

 手に持つ、蛮刀は左手で握り、右手で支える様に刀身の面を押さえ、刃先をやや上に向けて微かに揺らしながら構えていた。

 相手に刃先を向けるのではなく、面を向けている。

 斬るための構えではない、これは、

 

 「盾としての構え?」


 ルゥはイケテルの選択の結果を見た。


 鉄を打つ高い音が響く。

 互いに持つ刃がぶつかったのだ、結果は突撃した秋男と短刀が弾かれ、地面にひっくり返った。


 何が起きたかは簡単だ。

 イケテルが蛮刀の面で短刀に当ててそのまま押して弾いたのだ。勢いよく突っ込んできた秋男ごと。

 

 「……すごい馬鹿力ですね」


 だが、結果は出た。イケテルの勝ちだ。

 

 「勝利を讃えてあげましょうか」


 勝者を見ると、ガクガクと振るえていた。

 恐怖と緊張で意識がどこかに飛んでしまったのか、白目を向いたまま前を見つめている。

 

 「…………」


 ルゥは懐から紋章板を取り出し、勝者の姿を写す、保存した。


                  ○ 

 

 イケテルは気が付いた。

 何をしていたか、一呼吸の間に思い出し、身体がビクンと一度跳ね上がった。


 「おわあああ!? あ、あれ、刺さってない、痛くない?」


 身体を確認しても刺された様子はない、そうだ。

 

 (バントが成功したんだった)


 自分が行ったのはバントだ。

 秋男の短刀の刃先を剣の面を使って弾いた。

 この鉈のような剣は横幅がバットよりあるが、長さも厚さにも不安はあったがなんとかできた。

 

 「バント練させられててよかったぁ」


 イケテルはその場にしゃがみ込み、あの物好きな監督に感謝した。

 小学校の頃は少年野球チームに所属していた。

 自分は運動音痴だし才能もなかったから、試合に出ることもなかったが、監督がお前は打てないからバントを覚えろと強制的にバント練習させられてきた、三年ぐらい。

 それゆえバントだけは人並みに出来る。しかし、あの時の経験が今になって生きるとは。

 短刀をボールだと思い込もうとしたのは自分でも無茶だと思ったが、ステMAXの動体視力があれば捉えることはできた。

 あとはそのままプッシュバントのつもりで面を叩きつけたら、加減なくやってしまい秋男ごと吹き飛ばしてしまった。


 「そうだ、秋男!」


 イケテルは立ち上がり、秋男の姿を探す。

 見ると、向こうで秋男が腹を押さえながら立っていた。


 (逃がさんぞ!)


 イケテルは飛び出し、三歩で秋男に辿り着き。


 「おい、秋男。歯を食いしばれええっ!」


 「あぁ? ――ごふぅ!?」


 秋男の顔面を殴り飛ばした。

 人を真面目に殴ると拳が痛いということを初めて知ったが、今の一発で秋男は倒れて動かない。

 

 「しゃああああああ!!」


 イケテルは勝利のポーズとして右腕を振り上げる。

 すると、秋男の影になって見えなかった位置にルゥがいた。

 

 「あれ?」


 何故そんなところに? と首を傾げると、ルゥが口を開いた。

 

 「イケテルさん、今、秋男さんが全部喋るって言うんで話聞こうとしたところです」

 

 「え?」


 秋男を見る、顔から地面に埋まり、尻を上げた状態で倒れている。

 少しの間、考えてから、


 「スマンかった、秋男」


 とりあえず、謝っておくことにした。


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