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一章 勇士転生 

 彼はその日、轢かれた。


 朝、学校へと向かう通学路。車の通りが多い横断歩道の前だった。


 歩行者信号は横断禁止を表す赤いランプが点灯している。


 だが、その警告が見えていないのかふらふらと道路へと歩いていく少年がいた。


 走ってくるトラックからクラクション音が鳴り、止めようとするブレーキ音も掛け合わせるように響く。


 少年は迫りくるトラックを虚ろな表情で見ていた。そして――突き飛ばされた。


 彼はその日、死んだのだ。


                  ○            


 周囲は暗闇に包まれていた。

 唯一差し込む光は目のようにぽっかりと開いた天窓からだ。


 青白い薄明りに照らされる中心、ぽつんと置かれた椅子に一人の女性が座している。


 彼女の足元には青い星とその周囲を螺旋のように流れる淡く光る川があった。

 流れる光の粒子は一つ一つが星から生まれ、そして死にまた星へと還る魂である。


 彼女は川に両手を差し込み、すくい上げると、手のひらの中には一粒の光がある。


 「尊い魂よ、星へ還る前にもう一度意識を宿しなさい」


 息を吹きかける。


 すると粒だった光が燃え上がり手のひらサイズの火の玉になった。


 ゆらゆらと揺れる火の玉を宙に浮かせ、彼女は椅子の背に寄りかかり、足を組みなおす。


 「さて、目覚めていますか? お名前を教えてください勇士よ」


 「……オ、おれは、いけ、だ、て、てるま、さ?」


 意識を取り戻した火の玉は青白く燃え上がり、魂へと舞い戻った。

 

                  ○


 目覚めた照正は思わず声を上げた。


 「俺死んだあああああ!?」


 死んだ。自分で言うのもどうかと思うが確かに死んだはずだ。


 (……あれ、でもどうやって死んだっけ?)


 朝、学校へ向かうまでのことはなんとなく覚えていたがその後のことがどうも思い出せない。


 これはどういうことなのかと、照正は考えていると頭上から声が聞こえた。


 「もし、聞こえていますか勇士イケダテルマサ」


 声の主に自分の意識が強制的に向く。

 見上げさせられた視線の先には椅子に座りこちらを見下ろしてくる巨大な美女がいた。


 その声の主の姿に照正はつい叫んだ。


 「で、でけぇええ!?」


 ありえない物を見た。

 でかい。胸もでかい。が、そうじゃない全部大きいのだ。彼女は自分の視点からは見上げるほどの大美女だった。


 大美女がこちらに顔を近づけ、吐息を一つもらす。


 「魂の声も出ていますし、どうやら大丈夫のようですね。管理外世界から魂を掬うのは初めての行いでしたが無事成功してよかったです」


 緊張していたのか彼女は手を胸に当てて安心したような素振りをみせる。


 (……管理外世界?)


 日常ではまず聞かない単語だが、照正には妄想できるワードであった。


 管理外世界からと言うことはつまりこの大美女は別の世界の管理者ってことだろうか。 

 つまりこれはアレか! 異世界的な! なっちゃいなYO的な!


 照正は興奮して魂をめらめら燃え上げるなか、大美女が言葉を続ける。


 「気づいているかと思いますが、貴方は一度に死に魂だけの存在になりました。そして星へ還る光の粒子となったところでもう一度魂として私が呼び起こしたのです」

 

 そしてと頭につけ、

 

 「なぜ貴方をお呼びしたのかというと、生前とは異なる世界に降り立ち、管理者である私の代わりにある役目を果たしてもらいたいのです」


 彼女の説明に照正の魂はさらに燃え上がった。

 

 (キタコレ! 異世界転生!!)


 異世界転生だ。別の世界に転生して世界を救ったりする、漫画やアニメや小説でよくある設定。転生物という奴だ。

 その言葉に照正は興奮していると、彼女は説明を続けた。


 「もちろん無理にとは言いません。急にこんなことを言われて混乱しているでしょう。しばらく時間を儲けますので」


 「やります!」


 即決した。照正は幻想に生きる男だった。


                  ○


 管理者を名乗る美女は戸惑っていた。


 「え、そんなすぐ決めていいのですか? 特に報酬とかもでませんよ?」


 「構いません! 無給結構! ボランティア精神っす!」


 「はぁ、でも、あの、その危険なこともありますし、もう少しきちんと考えてはいかがでしょう」


 「大丈夫! ちゃんと考えました!」


 その台詞は考えてないものが言うことではないだろうか、と管理者は疑問に思う。

 予定では困惑する彼を、優しく導く予定だった。まさかこんなに食いつきがいいとは、

 

 (彼女の言った通りでしたね)


 今回魂の提供を有料で引き受けてくれた別の管理者が、

 あの世界、とくに日本とか言う島国には異世界転生? なんか死後違う世界に行きたがるバカばっかだからちょうどいいのよ! ちなみに死んだばかりの粋がいいのがオススメなのよ! と豪語していたことは本当だったようだ。


 (まぁやる気があることはいいことです。それに清らかな魂であることは確認済みですしね)


 生前、善行を重ねた者、またはそれに類する優れた行いをしたものは管理者達の間で清き魂と認識されている。


 (魂に善悪を付けるようなことはしたくはありませんが……)


 自分の意思で世界を救ってくれるような、善良な勇士。そのような人物が理想なのだ。彼がそんな人物だと良いと思う。


 管理者はその魂を見ると、不規則に縦横に伸びて跳ねている。テンションが上がっているのだろうか。

 魂だけになってもこの感情表現できている辺り只者ではない。管理者は決めた、少し不安だがこの魂を選んだ自分の選別眼を信じることにした。


 「わかりました。勇士イケダテルマサ、貴方に世界の命運を任せることにします」


 「お任せを!」


 彼が即答し。余程嬉しいのか魂がぴょんぴょん跳ねだしている。


 ……本当に大丈夫でしょうか?


                  ○


 (転生かー! いやー死んで見るもんだなぁ! 死んだときのこと覚えてないけど!)


 照正は生きてた頃を思い出した。

 生前は毎晩寝て目が覚めたら転生してないかなーと現実逃避に走っていたがそれも今や現実だ。

 これからどんな心躍る冒険が待っているのだろうか、期待を抱かずにはいられない。


 (そうだ! 転生といえば何かチートスキルは貰えるんだろうか?)


 転生物お約束のパターンの一つ。特殊スキルだ。大体転生する際に特殊な力を貰うのは定番中の定番だ。

 強力な戦闘系スキルなら戦いで活躍できるし、逆に変わったスキルならそれを工夫して使う面白さがある。

 ならば、どんな能力なら異世界ライフを堪能できるか、照正は考える。


 創作スキルとかで思い描いた物を作る能力とか、どうだ、便利さに置いて最強の能力だろう。または、超強力な魔法を平然と放てる魔法キャラもいい。こんなの普通でしょ? って言ってみたい! 待て、やっぱり剣士としての能力も捨てがたいな、二刀流で漆黒の剣士とか呼ばれちゃうのも憧れる! 待て待て、現実世界の情報端末無双も捨てがたい! スマホの持ち込みはどうだ! もちろんデータ通信量無制限プランで! グーグル先生に聞けば大体活躍できるはずだ。いや、でも転生する世界がそういう情報使って何かできる環境じゃないと、


 「もし、あの、聞いてますかー? こちらの準備が整ったので始めたいのですが―!」


 聞いてますかーと、続ける大美女の声に照正は妄想から現実に引き戻された。

 なにやら準備が整ったらしい、だがその前に一つ聞くことが出来た。


 (先にどんなスキルが貰えるか確認しておこう、もしかしたら選べるかもしれない!)


 照正はない腕を上げたつもりで彼女に問う。


 「ハイ! 転生する際に餞別としてのチートスキルは何が貰えますか!!」


 彼女に食らいつくように言い放った。


                  ○


 管理者は突然の要求に困惑した。

 無給でいいと言っていたのにまさか餞別を寄こせなんて図々しいことを言われるとは予想だにしなかった。

 どうしたものか、とりあえず一度確認してみようと、管理者は目の前の魂に聞いてみた。


 「あの、なにか与えないといけないんですか?」


 「ええぇっ、何ももらえないんですか! そんなバカな! 転生する際のお約束なのに……!?」


 彼がわざとらしく驚いている。


 管理者はその態度に少し苛立ちを覚えた。

 どこでそんな約束してきたのだ。そもそもチートスキルとは何なのか。単語で考えるならスキルは技能のことだろう。しかしチートとはなんだったろうか。


 少しお待ちを、と手の平を向け。顔の横に白い枠を出す。枠の中のアイコンを指で操作して、管理者が共有で使う検索ベースを引き出し、言語・地球・チートで検索をかける。

 一瞬で上から下に情報が流れ落ちると、検索した結果を表す文字だけが残る。チートその意味とは、


 騙す。欺く。いかさま。不正するもの。


 管理者は静かに枠を閉じた。


 (いけませんね、このような技能を渡しては、ええ)


 勇士が技能を欲しがるならもっと善い技能を与えるべきだろう。管理者は枠を開き直し操作を始めた。


                  ○


 さっきから黙って何かを始めた大美女を見上げながら照正は思う。


 (チートスキルもらえないのかなー)


 まぁ貰えないならせめて伝説の勇者的な家系とか大金持ちの貴族の家とかそういう勝ち組に転生させてもらう方面で頼めないだろうか、二回目の人生はイージーモードで生きたいと照正が考えていると大美女がこちらに視線を戻した。


 「では勇士、あなたにはこの技能を与えましょう」


 彼女が手のひらに乗せた、複雑な模様で出来た紋章のようなものをこちらに差し出す。


 「この紋章はあなたが赴く世界、オルトガルズにもある力です。この紋章を刻むことで組み込まれた術式を発動して紋章の力を得ることができます」


 照正は魂が震え燃え上がるのを感じた。


 (紋章! つまり、それは魔法的なものだろ!) 


 期待にその魂を膨らませて、照正は大美女に質問する。


 「そ、その紋章にはどんな力が……!」


 「ハイ、あちらの世界で問題なく会話が出来るようになる翻訳の紋章です。オルトガルズ中の人語理解できる上にこちらの言葉も通じる優れものです」


 自信ありげににっこりと笑う大美女に照正は思わず口に出した。


 「……は? そういうのって標準装備じゃん」


                  ○


 管理者は照正の態度にむっとしていた。

 この複雑な紋章はオルトガルズの技術では数千年立っても作れないであろう紋章の創造主たる自分の作品だ。


 (しかもこれ古代語から現代語まで読めるように作ったんですよ!)


 紋章を刻むだけで世界中の人語や文字理解できるなんて規格外の技能であろうに。

 普通に世界に行ったらその世界の言葉喋れると思っていたのでしょうか。あの様子だと思っているようですね!


 (……まぁ喋れないと困るでしょうし、勇士の役目に支障が出ると思い、前もって作っていたものですから。標準装備と言われればそうかもしれませんね)


 そう考えると彼の言葉もあながち間違いではない。少し熱が冷めてきた管理者は平静を保つ努力をした。


 (そう、彼だって悪気があって言ったわけじゃないのです、ええ)


 ちらっと勇士を見ると、ため息なのか魂から火花をこぼしている。凄く不満そうな態度だ。


 (……アレを見てイラっとするのは私の心が狭いからなのでしょうか。……落ち着きましょう。あのバカ、いえアレでも私が選んだ清い魂なのです。怒ってはいけませんね)


 管理者は心を落ち着け、怒りが表情に出ないよう無理やり笑顔を作り、


 「あ、あまりご期待に沿えないものでしたか?」


 聞くと、彼が、


 「あー、他に無いんでしょ? じゃあ、うーん……ま、これで我慢しますよ」


 不服気にしかも上から目線の物言いである。


 (この馬鹿。馬鹿はいけませ、いやもう馬鹿でいいですね)


 馬鹿を見据えて管理者は考える。

 自分は清き魂を選んだつもりが間違えたのだろうか。だがこの魂は間違いなく生前に何か善き働きを行っている。世界を救うべき勇士にふさわしい魂のはずだ。

 現在、オルトガルズには不吉な流れがみえる。それは大地に根付いた紋章を通して伝わっているもので、そこから予測した結果、世界の大本を揺るがす何かが起きる可能性が出てきた。

 もしかしたら何も起きないかもしれない、だが、もし起きてしまったら。少しでも可能性がある以上管理者として対策しなければいけない。

 

 これまで世界の、大勢の人々の危機に繋がる問題が浮かぶたびに管理者として介入した。

 例えば、自分を信仰してくれる人々に神託という形で危機を伝え自分たちの力で乗り越えるよう導いたり。

 またはそれを解決できるであろう人物に背中を押し、助言を与え、必要ならば自ら作り上げた紋章も渡し己の意思で世界を救わせた。

 もちろん関与するのは最低限だ。人が生きる世界なのだ、人の手で解決させるのがもっとも世界を歪めない方法だと管理者は考える。


 (こうして、人々から信頼を得て、オルトガルズでの信仰対象としての地位を築くことができましたからね)


 だが、今回はこれまでの解決方法では通じないのかもしれない。

 予測では最悪の結果を迎えれば世界の法則が崩れてしまう可能性が出てしまっている。

 最悪の事態が起きたら自分が作り上げた世界の法則に乗っ取っているオルトガルズの人々ではどうにもならない。

 その解決策として他の管理者も行っている魂の派遣、オルトガルズという世界のルールに縛られていない別の世界の魂を送り込む方法を選んだ。

 そして、その選んだ者が、


 (目の前の馬鹿なんですよね……)


 不安だが仕方ない。人格に問題ある可能性はとりあえず置いて話を続けることにしよう。


 「それでは魂だけのあなたがオルトガルズへ降りるためには肉体が必要なので、その肉体をこれから構築します。それでですね――」


 言うかどうか悩んだが。話を続ける、


 「一応、一応聞いておきますけど身体のほうに要望とかないですよね? 少し鼻を高くしたいとかそういうささやかな願いなら叶えられますが」


 「はいはい! イケメンマシマシセタカメイケボチョイシブステMAXでお願いします!!」


 (なにか呪文のような注文が来ましたよ!?)


                  ○


 照正は赤ん坊転生系かと思ったら肉体を作れるアバター系だったことに一つの希望を見出した。

 チートスキルが貰えないときはショックでつい態度を悪くしてしまったが。


 (肉体作れるなら最強にしてもらえばいいじゃないか!)


 肉体そのものを作れるならイケメンにできるだろうし身長も伸ばせて渋いイケメンボイスで細マッチョのステータスMAXの二週目キャラだってできるはずだ。

 生前は視力が悪く、運動できず、筋肉も付きづらい、眼鏡のヒョロガリでさえない男だった。池田照正なのにイケテない(笑)ってクラスのイケてるグループの奴らに馬鹿にされたこともあった。

 だがそんな人生ともおさらばした。来たのだ、我が世の春、二週目スタイル異世界だ!


 照正は魂を熱くしていると大美女が問うてきた。


 「今の要望、よくわからなかったので生前に似た姿でいいってことですね、わかりました」


 「ちょ、ちょっと待てぇ! 何勝手に決めてんだぁ! ちゃんと一つずつ説明するって! あ、待ってごめんない! お願いだから待ってくださいいいい!!」


 照正は焦って声を荒げ、懇願した。

 彼女がもう面倒はごめんだと言わんばかりに押し進めようとしている。急ぎ説明せねば!


                  ○


 「……それで要望は?」


 管理者は馬鹿の必死さに免じて一応話だけでも聞くことにした。


 (次、意味不明なこと言ったらもう無視して肉体に魂宿して世界に落としてしまいましょうか)


 そう管理者は思うと、即座にそれはきた。


 「イケメンマシマシセタカメイケボチョイシブステMAXで」


 「はい、では叩き落とします」


 「待って! 一つずつ説明しますから! というか叩き落とすってどこに!?」


 (いけません。つい口に出ました)


 手を前に出し、ではどうぞと彼に促す。


 彼が魂を不規則に揺らめかせながら答える。


 「イケメンマシマシとはイケメン、増し増しという意味です」


 「ハンサムになりたいと? セタカメはそのまま背が高いですか?」


 「あ、はい、そうですそうです!」


 馬鹿に確認をとりながら呪文の解読をしていく。


 「イケボチョイシブはちょっと渋めのかっこいい声って意味で、あ、昔からそういうキャラボイスが好きで憧れなんです、はい」


 「そうなんですかー、背が高い渋い声のハンサムになりたいんですね、それでステMAXとは」


 「ステータスMAXの略です! 肉体を超強くしてほしいです! 二週目プレイ! こいつ駆け出しなのに何だこのレベルは!? 的な感じで」


 管理者は思う、前者は一応理解できたが後者は意味不明だ、主に最後の方が。


 (それにしても彼の願いはあまりに欲望が強すぎますね)


 要望通りの背の高い渋い声のハンサムで高い身体能力を持つごった盛りの体は作れる。

 だが、今の彼の魂が入れば、歪んで形を変えてしまう可能性がある。そして問題は体だけでは済まないことだ。


 「あの、いいですか勇士。今のあなたの心は欲望に満ちています、たとえ要望通りの肉体の形を作ったとしても、そんな状態の魂が宿れば何らかの影響を与えて形を変えてしまいます」


 なので、


 「見た目を気にすることや特に力を求めることは歪みを生み、悪い影響を与えるのです、それも肉体だけでなく人格にもですよ」


 特に問題は人格への影響だと管理者は懸念する。

 清らかな魂ならば転生した肉体の人格にもいい影響を与える、逆に力を望むような欲望に満ちた魂は肉体にも人格に悪い影響を与える。

 そうじゃなくてもこの魂の人格はすでに怪しいのだ。下手に力を与えて欲望に支配されたあげく使命を忘れて世界を混乱に陥れるような者になっては困る。


 何とか説き伏せて、人格だけでもきちんと修正しておきたい。

 管理者は彼に優しく説く。


 「欲望を捨て清らかな心を持って肉体に宿れば、あなたは善き魂が持つべき姿になれるのです。それこそが真のあなたであり真の勇士たる者なんです」


 分かってくれますね、と言葉を付け勇士を見る。


 すると、


 「……ちっ、そんなこともできないのか」


 馬鹿がぼそっと呟くのが聞こえた。


                  ○


 照正はがっかりしていた。


 (はぁ、世界の管理者みたいなこと言ってるから女神的な万能な存在なのかと思ったになー、もしかして三流の管理者なのかな、はずれ引いたかなー、チートスキルもくれないし、肉体の要望も通らないし本当に世界の管理者とか出来てるのだろうか。そもそも自分が管理してる世界を守るために別世界の俺を送り込むって時点でアレだもんな、出来る管理者なら自分で何とか出来るだろうし、あー、でもそう考えると色々要求して悪いことしちゃったかなー、そんな力無いなら無理だったんだろし可哀想なことしたわー)


 管理者として才能が無かったのかもしれない、出来ない子にあれこれ頼むのは酷なことだ。

 まぁ仕方ない、異世界に行けるだけでも儲けものなのだ、照正は前向きに考えることにした。


 (そうだ、向こうに行ってからなにか凄い力を手に入れたり、隠された才能に目覚めたりするかもしれん)


 希望を捨てるにはまだ早いなと思い、前を見ると、うつむく大美女の顔が目の前にあった。


 (……? あれしゃがんだ? いやこれ逆だ、持ち上げられてる!?)


 大美女が自分を指でつまみあげ、立ち上がったことに照正は遅れて気づいた。

 照正はこの状況に慌てふためくと、肩を震わせ、不気味に笑いをこぼしながら美女が口を開いた。


 「……ふ、ふふッ、こ、この私が、さ、三流……! 他の管理者みたいに複数の世界抱えて派手に信仰を稼ごうとせず、一つの世界を管理して住んでる人達のことも考えて頑張って世界の管理をコツコツやってる私が、やり方が今時地味だとか古臭いとか他の管理者に馬鹿にされても、これが正しいと信じて頑張って来たのに! 上位存在の私がこんな、こんな馬鹿に馬鹿にされて。そのうえ同情とか……! ふふふふ、ははははっ……!」


 顔を赤くし目に涙を浮かべて今にも泣きだしそうにしてる上位存在がこちらをにらみつけてくる。

 彼女の台詞に自分とは関係ないことが入っていたが以前から相当ため込んでいたのだろうか?

 照正は恐る恐る聞いてみる。


 「あ、あの、口には出てないと思うんだけど……も、もしかして心とか読めます?」


 「ぐすっ、はい、プライバシーもあるので聞かないようにしていました、だけどその物言いがあまりに不遜なのでこの馬鹿は何を考えてるのかと覗いてみたら……」


 そう告げると彼女が大きく一呼吸し、一気に感情というダムを決壊させた。


 「うわあああん、もう許しません! こんな馬鹿魂! もうどうなろうと知ったことじゃないですうう!」


 子供のように泣き叫ぶ大美女様。

 その叫びに空間が揺れ、照正と彼女の周囲に雷雲のような渦が巻きだしている。


 (ちょっと待ってちょっと! ヤバいヤバいなんかヤバい!!)


 照正は焦り、どうにかしようと思うが魂だけの今の自分には文字通り手も足もでない。

 とりあえず謝ってこの場をやり過ごす、そう決めて言葉を紡ごうとしたとき、突如、浮遊間を得た。


 (は!?)


 指から放り出されたのだ。解放されたのかと思った、だが違った。上空から振り落とされる彼女の手が視界に入った。その手には粘土のようなものが握りしめられ。


 「そんなにステMAX二週目プレイとやらがしたいって言うならやらせてやりますよ! そして後悔すればいいんです! このバカーーーー!」


 言葉と共にそれを叩きつけられ、叩き落ちるように照正は転生した。





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