サムライクイーン
ここはさまざまな血族が群雄割拠するメーコドククラの地、コクザン一族の一兵として私は生誕した。
姫が新当主になってから多くの古参兵が1人、また1人と減っていったが私はこの生涯を姫に捧げると誓っている、人には言えないが私は姫が最初に産んだ兵、即ち長女なのだ、子は母に無償の愛を与える、それは当然の事だ。
夜の哨戒中、真っ暗な砦の中に、私は風の揺らぎを感じて鼻を鳴らし、僅かな血と柔らかな匂いを感じ取りその相手が母である事を悟る。
「おや姫さま、このような夜更けに一体どちらへ?」
「あら、貴女は……元気そうで何よりだわ、何歳になったかしら?」
姫が鼻を鳴らした少し後、姫の返答を受けて私は無性に嬉しさが込み上げる。
「は! 今年で3歳であります!」
「そう、もうそんなに経つのね、心配いらないわ、すぐに寝室に戻るもの……」
「お送りいたしましょうか?」
「いえ、いいえ、それには及びませんわ、でもなんだか嫌な予感がするの、気をつけてねワカちゃん」
「はい、ありがたき幸せ」
私はあたたかな気持ちと共に母が去っていくのを感じ取り、哨戒に戻った、私はただの兵士であり、感情など不要である。
翌晩、私が業務ローテーションにより門番の任についていた所、気配が1つ。
「止まれ! 何者か改めさせていただくぞ!」
「はいどうぞ」
私は鼻を利かせて相手を探る……しかし今日は鼻の調子が悪いのか、身内の誰かではあろうが、個人を判別できぬ。
「むむ、貴殿と私は会ったことが無いように思えるが……どうだろうか」
「こんなに広い砦だ、会ったことがなくても仕方あるまい」
「それもそうだな、全員覚えていると思っていたが、自惚が過ぎていたようだ、私はワカだ、貴殿は?」
「私は、ムラクーイだ、よろしくな」
「よし、ムラクーイ、通るが良い」
「はいどうも」
その後私が門番を交代し、日記を記して眠りにつこうという所、事件は起こった。
「襲撃! 襲撃! 女王が襲撃されたぞ! 襲撃者は死亡! 残党がいないか、くまなく探せ!」
砦の中はハビーチ族の集落を突いたような上へ下への大騒ぎだ。
私は居ても立っても居られなくなり、姫の寝室へ向かう、寝室にはむせかえるような血の臭いが立ち込めており、激しい闘いがあったのだと理解できる。
「姫! ご無事ですか⁉︎」
「ん? ああ、大丈夫、それよりワカも残党を探しに行くが良い」
「かしこまりました!」
その後24時間砦内の捜索が行われたが、残党は現れず、私の後に門番を務めた新人のビーニュが吊し上げられていた。
日記①
最近私を見下ろす程に大きな妹達が増えたような気がする、姫と子供達の栄養状況が良くなっている証拠なのでとても嬉しい、しかし何やら違和感を感じるような?
日記②
姫様が大きな妹をリーダーにして、部隊を編成すると発表なされた、私にも成せる、そう思いたいが……体が小さい事が理由なのだろうか、妹達が妬ましい。
日記③
今日は妹達と共に別の砦を攻めて、労働力を攫って来た、姫さまはそんなお人では無かった筈なのに……姫さまは変わってしまわれた。
日記④
私も……老いました、日々の攻城や雨の中1人での狩り、人攫いをする事が心身共に苦しい、生まれた子達の名前も覚えられなくなり、匂いで感じる世界が色褪せてゆく、嗚呼、姫さま……もう一度だけでも名前を
「ああ、ワカよ、良くここまでこの私に仕えてくれたな、心より感謝を表しようぞ」
女王は日記をパタリと閉じ、この部屋への立ち入りを禁じたのだった。