それでも俺は君を助けたい
アキトが部屋で着替えていると、畳の上をとた、とた、とた、と歩いて入って来る足音があった。
「なっくんか」
そう聞きながら振り向くと、思った通り、象牙色の毛並みをしたイタチがそこにいて、自分を見上げていた。
アキトはなっくんに言った。
「俺は外の世界をめざして冒険に出る。俺のいない間、椿を頼む」
なっくんは言った。
「やっぱりお前のこと、食べときゃよかった。そうすればもっと早く椿と二人っきりになれてたのに」
「こんな骨と皮ばっかりの老人、食べてもうまくないぞ」
「早く出てけよ」
「まあ、待て」
アキトのゆっくりした着替えを眺めながら、イタチは苛々したように言った。
「のろいな!」
「老人とはそういうものだよ」
「これだからジジイは嫌い」
「老人嫌うな、往く道だぞ」
「ぼくはイタチだから、お前とおんなじところには往かないよバーカ」
「そうか。ところでなっくん、椿のことが好きなのか?」
「大好きだし、お前と違って椿も僕のことが大好き。相思相愛だよ」
なっくんは意地悪そうな笑いを浮かべると、言った。
「椿はお前のことなんか好きじゃない。世界に男がお前しかいなくなっちゃったから仕方なくお前を選んだんだ。無理やりお前のこと好きだと勘違いしてるだけなんだ。椿がジジイなんか好きになるもんか。勘違いすんなよ?」
「そうか」と、アキトは言った。
わかっていた。もし今、白鳥が帰って来たなら、二人の間には割り込む隙間なんてなくなるだろう。
しかし傷ついた顔の一つもせずに、言った。
「それでも俺は……」
「お前なんか、こうだ!」
そう言うと、なっくんはアキトに尻を向けて逆立ちし、放屁した。
爆発のごときガスが巻き起こり、タマネギの腐ったような臭いが襲いかかる。
「ぐは!」
アキトはまともにイタチの屁を食らい、目に染みた。
「早く行って死んで来い! 帰って来んな!」
捨て台詞を残してなっくんは部屋から出て行った。
ちょうどそこへ、入れ替わりに椿が入って来た。
鼻をつまみながら、顔をしかめる。
「何? 臭い。アキト、おならした?」
なるべく空気を吸い込まないように、手を団扇のようにパタパタさせながらそう言った。
「俺じゃない。俺じゃ……」
アキトはひっくり返った姿勢で弁明する。
「他に誰がいるのよ?」
椿は鬼のような顔で言う。
「アキトってそんな嘘つく人だったんだね」
襖を勢いよく閉め、怒った足音が遠くなって行った。
「り……理不尽だ」
アキトは苦しみもがく声で、言った。
「それでも俺は……君を助けたい」




