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白鳥の書いていた小説

 『愛ゆえに』

           白鳥


 俺は椿のすべてを肯定する。

 たとえ世界のすべての人間達が彼女を否定したとしても、俺だけは絶対に椿を肯定する。

 愛しているからだ。


 俺の名は白鳥。

 この世を魔物から守る戦士だ。

 この世は美しい。

 だから守る。

 この世を破壊しようとする奴は、カンパニーだ。

 奴らは金のためにこの美しい世界を破壊しようとする。

 そのことが魔物を産んでいることに気付きもしないバカ者どもだ。


 この世は美しい。

 なぜならそれは椿がいるからだ。

 椿はまだ中学2年生なのに死んだ。

 美しいまま死んだ。

 俺は許さない。

 そんなことは絶対に許さない。

 俺は椿を守る。

 椿がこの世にいないなんてふざけた事実から守る。

 絶対にだ!


 俺は椿の胸のふくらみの柔らかさを知っている。

 俺は椿を後ろから抱きしめる。

 俺は着物の上から椿の○○を撫で、俺は


────────────────


 そこまで読み、アキトは慌てて目を塞いだ。

 そこから先しばらくは健全な中学生が読んではいけないことが書いてあった。

『なんだ……これは』

 エロ描写はとりあえずすっ飛ばし、先を読んでみた。

『本当にはっくんがこれを書いていたのか?』


────────────────


 ギイン!

 空中で火花が散った。


 白鳥は凛々しい目で結末を見る。

 カンパニーの刺客の黒いツナギの胸から血が


 ブシュウウッ!


 迸る。


「うああああッ!」


 刺客は情けない声を上げながら崖下に落ちて行った。

 見かけ倒しだったな。


「この高さから落ちては生きてはいまい」


 白鳥は無敗を保つ。

 これで19戦19勝だ。


 椿が山菜採りから帰って来た。

 椿の作る山菜料理はうまい。

 いつも最高だ。


 椿は誰かが倒れているのを見つける。

 か弱い力を振り絞り、椿は大きな男を担いで帰る。


 白鳥は刀の手入れをしていた。

(椿が帰って来たな)

 玄関でガタガタと音がしたからだ。


「兄さま!」

 椿が担いで帰って来た男を見てびっくりする。それは今しがた崖から突き落としたあの男だったのだ!


「その男……」

「息はあるっ!」


 ハアハアと口で息をする椿の可愛い顔を汗を垂らしながら見ながら、白鳥は固まる。


「よし、手当てをしよう」

「当たり前でしょ!」

 優しい椿は兄さまを叱る。

「えっ?」

「ええ~~~っ?!そいつカンパニーの殺し屋なの~~~??!」

「うるさいな。黙ってろ」

「なんでそんな奴助けてんの…むぐっ!」

「お前が助けろって言ったんだろ」


「不思議だ」

 暗天魔は治療を受け、すっかり元気になり、白鳥と椿と食卓を囲んで山菜料理を食べていた。

「なぜ俺はここで飯を食っているのだろう」


────────────────


 アキトは愕然とした。

『へ……下手だ……! 読者のことを何も考えてない小説だ……! しかも一体、いつの間に白鳥と椿は兄妹になった!? エロい関係じゃなかったのか!?』


 アキトはパラパラと読み飛ばしながら、先へ進んだ。


────────────────


 俺は椿を愛してるとまた思い知った。

 早く椿と結ばれたい。

 椿!椿!椿!椿!

 もうすぐ春が終わる季節がやって来る。

 一緒に精霊のダンスを見に行こう。

 花火なんかよりよっぽど綺麗だから。

 そしてそれが綺麗なのは椿が側にいるからさ。


────────────────


 それが最新部分だった。

 アキトはこれの続きがあったとしてももう読み進める気はなかった。どっと疲れた。大半はすっ飛ばしたというのに。


 ただひとつ、気になることがあって、そこだけは気をつけて読んでいた。

 もしかして、小説の中に、アキトくんという名前の人物が登場して来るのではないかと期待していたのだ。

 しかしそんな名前の人物は遂に登場せず、物語は延々と白鳥と椿、それを引き立てるように暗天魔、この3人だけで回されていた。

 ストーリーはないようなもので、ずっと白鳥が椿を崇め奉り、椿の気持ちは何も書かれていなかった。

 そして原稿の約半分をエロ描写が占めていた。


 原稿を文机の上でトントンとまとめ、アキトは考えた。

 どういうことだ、これは。

 これは白鳥が書いたものというよりはむしろ──


 ふと縁側のほうに目をやると、そこに暗天魔の後ろ姿はなかった。

 散歩にでも出たのかと思い、外を見たが、どこにもいない。

 玄関から出てみると、そこに停めてあったハーレーダビッドソンも消えていた。


 辺りには鳥の声もなく、空気が透き通ったように静かだった。




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