Rain
7月中頃
梅雨はとうに明けてると言うのに
ジメジメと憂鬱な天気が続いていた。
僕はもうすぐこの天気も晴れると思うと少し仕事が捗るような気がして
カフェで電子機器を触りながら仕事をこなしていた。
一区切りがそろそろ着くところで退店しようと用意していると
好きな香水の匂いがした。
匂いの先に顔を向けると20歳後半ほどであろう色が白く黒髪の女性がいた。
ほんの少し目にしただけで
可憐な女性であることが本能的わかった。
僕の判断はこのカフェでしばらく休憩しようと思考した。
さっきの美しい女性を脳内でもう一度再生する。
やはりめちゃくちゃ可愛い、はっきり言ってタイプだ。
とは言え声をかけるような自信がある容姿もしていないので
この場でステイでいい、そう言うキャラではない。
ただほんの少し休憩しようと思った。
仕事の疲れでうとうとしてるとすでに休憩も30分を過ぎており
そろそろ仕事に戻らなければならないかった。
退店しようと準備していたら色白黒髪美女が席を立った。
先に会計をして出て行ったのだ。
僕の一目惚れはこうして幕を閉じようとしたのだった…
ふと色白黒髪美女の席を見ると傘を忘れていた。
これは傘を届けるしかない、そう判断したのはあまりにも光速で間違えていなかった。
会計をすぐに済ませて美女の元へ向かう。
必ず美女に傘を届ける。
熱き使命感が身体中を駆け巡った。
熱き使命感虚しく全然見つからなかった。
改札出口近くにあるカフェだった為すでに電車に乗っていた可能性もあったのだ。
カフェに届けに戻ろう、熱き使命感にさよならを告げようとした。
買い物袋を下げた美女を見つけた。
可愛い、色白、黒髪、なんて思いはすでになく熱き使命感で彼女の元へ駆け寄った。
『すいません。傘を忘れてませんか?』
『すいません、ありがとうございます。 ちょうどカフェに戻ろうとしていて助かりました。大事なものだったので。』
熱き使命感があった僕もさすがにいざ喋るとなるとなかなか言葉が出なくて彼女を凝視した。
控えめな金色のブレスレット
きらびやかなネックレス
耳にはパールの装飾
身長は高め
服は細めのシンプルなベージュのワンピース
薄いピンク色のネイル
銀色の薬指につけた指輪
少し落ち着いた僕は切り出す
『いえいえ、たまたま偶然見つけたもんですから気になさらずに。
爪可愛いですね。ステキなネイルですね。』
『お優しい方なんですね。ネイルは自分でしたんですよ。可愛い感じにしました。』
そう言って笑う彼女は素敵で
完全に心臓がバクバクと音が聞こえた。
惚れてしまった。
24歳独身男性一目惚れをここに誓った。
『もしよろしければなにかお礼できませんか?』
『じゃあ今度お茶でもしませんか?』(いえいえ、そんな大そうなことしてませんよ)
24歳独身男性痛恨のミスだ。
気持ちが高まってもうめちゃくちゃだ。
『ほんとですか!じゃあ今度またあのカフェでお茶しましょう』
そう言ってとあるアプリのQRコードを差し出してきた。
可愛い。
『高瀬 綾と言います。よろしくお願いします』
名前も知ることになった。
あやさんと言うのか。
ステキな名前だった。
友達になって連絡先を交換して次の約束をして終わった。
時間を見たら休憩から1時間経っていて全力で会社に急いだ。
打ち合わせの時間に少し遅れてしまった。
もちろん上司には軽く怒られたが
僕には可愛い美女との約束があったのでノーダメージだった。
少し頭を整理しようとデスクで考え直していたら
銀色に光る薬指の指輪
改めて思ったけど既婚者なのでは?
有頂天になっていたが僕の恋愛は一旦区切りがついた。
冷静になって考えるとありえないと思ってお茶したら一区切りしようと僕は失恋した。
さよなら美女