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それはとてもとても心地よかった

まるで天国にいるようだった

やわらかい風が、仰向(あおむ)けで寝ている僕の素肌をなでた

太陽の光があたたかい、じんわりとお肌に浸透してくるようだった

甘いお花の香りがした、とてもいい匂いだった

小鳥のさえずりと草や木々がかすれる音が心地よかった


かかとがあたたかい

まるで女の子の軟い手のひらで包まれてるようだ


ふと仰向けで寝ている自分の下半身に目を向けると

(かすみ)色の髪をした女の子が、(やわ)(てのひら)で僕のかかとを包み込みながら華奢(きゃしゃ)な腕で持ち上げられてる感じがした

女の子が何か僕に話しかけている

(うつ)ろな思考でやっと状況を把握した僕は、ぎょっとして飛び起きた



そこはいつもの僕の部屋だった

久しぶりに夢を見た

いつもは夢なんて覚えてないけどそれははっきり覚えていた

僕はしばらく目覚めたままの体制で回想していた

そしてノスタルジックに浸っていた

夢の中に出てきた女の子には会ったことがないはずなのに何故かとても懐かしい感じがした

名前も思い出せない女の子。その周りの空間。

遠い昔、そこに大事なものを置き忘れて来てしまったかのような喪失感があった

そんなこと考えつつしばらくして徐にベッドから起きた

体を起こしてカーテンを開けた頃には夢の記憶の大部分が薄れていた




今日は平日の月曜日、午前10時

ニートの僕は今日も自由だ

「自由」なんて素晴らしい響きだろうか

この世にそれ以上に(とおと)いものはあるだろうか


自分という存在をじっくり振り返る事もできない多くの魂は、

自らの本質を置き去りにしてどこまで遠くへ行ってしまうのだろう


子供の頃、こころの土に埋めた一粒の種

それがこころに降る雨を浴びて根を下ろし、やがて芽が出て、

空に向かって両手いっぱいに手を伸ばして背伸びが出来るようになるまでは、

どれだけ自己中心的と避難されようともそれを守らなくてはならない




そして今日という素晴らしい日に僕は運命の出会いを果たした

人生の分岐点というものがあるならばそれは今日だ



それは今朝見た夢が気になって、

「夢」という検索ワードでネットサーフィンをしていたときだった

「今日から始めよう幽体離脱」という見出しが目に飛び込んできた

この見出しが何故気になったかというと

自分の考えでは、幽体離脱とは事故か何かで生死をさまよい

奇跡的に生還出来た人たちの体験談とかだと思っていたからだ


某サイトをじっくり読み漁ると

幽体離脱は意図的に起こせるもので訓練次第で誰でも出来る

現実世界とは違うからあちらではやりたい放題出来るとか何とか


脳内の点と点が稲妻で結ばれたような衝撃だった

生きたままあの世を、または夢の世界を自由に行き来できたら何と素晴らしい事だろう

僕はあの世でやりたい事が山程ある

恥ずかしくて詳細は言えないがやりたい事が山程ある

平凡な日常を繰り返して次第に小さくなっていった心の中の灯火が

再び勢いよく燃え上がるのを感じた



僕は興奮冷めやらぬまま、某サイトで得た知識を早速実行に移した


まず誰にも見られないように部屋の鍵をかけた、今家には誰もいないのだが

そうそう、僕は収入が殆ど無いので当たり前だが親の実家で暮らしている

兄弟はいない、父と母の三人暮らしだ、父と母は共働きで

父は朝早く家を出て、帰宅時間は夜遅く

母の方は夕方6時には帰宅する

そして僕の食事も三食欠かさず用意してくれている

両親がせっせと日々のルーティンを(こな)してくれているお蔭で、僕は何不自由なく日々を過ごせている、合掌

そう、とっても出来の悪い息子である


本来なら感謝しなければいけない親に対して僕は嫌悪している

何故かと言うと

毎日あんなにあくせく働いているのに、はっきり言って幸せとは程遠いのである

この矛盾はなんだろう


一般的には僕が真面目に働いて親に楽をさせてあげればいいと言われるだろう

だがそれは違う、いずれ僕の子供に同じことをさせたら負の連鎖が続くだけだ

何の解決にもならない、根本的な解決方法が必要だ


映画風に言うなら、エイリアンに全面的に支配されてしまったこの地球、

翼を折られ搾取され続ける地球人のために、対抗策をもって育てられた救世主を必要としているのだ


そんな事とこれからやろうとしている事は何の関連性も無い様に思えるが、

不思議と充実感がこころを満たしていた



それはそうと百聞は一見に如かずだ

僕はまずベッドに仰向けになった

そして心を落ち着けるために深呼吸をした

目を閉じて全身の力を抜いた

そしてこの後が重要、呼吸すること以外1ミリたりとも動いてはならないのだ


平日の昼間、閑静な住宅街

部屋がとても静かなせいで、自分の心臓の音が聞こえてきた

そして心臓の音に注目してるとリズムがすこし早くなったり遅くなったり、

そんな事を意識しすぎて落ち着かなくなった


深呼吸をし直して心と体をリセットした


10分程したら眠気が襲ってきた

うっかり寝てしまわないようにぐっとこらえて頑張った


しばらく静寂に耳を傾けていると

眠気で意識が遠のいた瞬間、

急に自分の寝ていたベッドの床が抜けた

もしくはベッドが無くなって底なしの地面に落ちていった


暗闇のなかを落ちてく、

感覚はジェットコースターのあれだ

真っ暗闇だが筋のような模様が見えた

そしてそろそろ地面に叩きつけられると思って歯を食いしばった瞬間

(仰向けに落ちていて、下は見えないはずだが何故だかぶつかると感じた)


全身がビクンっとしてベッドから起きた

正直怖かった、地面に叩きつけられるとわかってから歯を食いしばっている間がとても怖かった

だが恐怖よりも今起きた体験の楽しさの方が勝った

僕は興奮してまたすぐ横になり、目を閉じて全身の力を抜いた



しばらくしてまた眠くなってきた

寝落ちしそうになった瞬間に音が聞こえた


「キュイーン」


「キュイン」


イルカの鳴き声のような音が聞こえた

幻聴とはこんな感じかと感心した

たまに聞こえてくるその奇妙な音に僕は聞き入っていた




気がついたら一眠りしていた、寝落ちしてしまったらしい

窓から外を見たらもう夕方のようだった

今日体験したことを忘れないように夢ノートに書き残しておこう

実際まだまだ幽体離脱とは程遠いが、意識を保ったまま見る幻覚はとても新鮮だった

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