Web拍手小噺「春です/紅丸と白旺」
連載中にweb拍手に置いていた小噺です。
~春です~
それを見つけた時、
あるいは、それが見つかった時。
部屋にはなんともいえぬ空気が漂った。
「お絲、それは別に――」
「別にいいのよ!」
「――俺が、え?」
「旦那だって男の方だし、長屋の男連中がみんなしてこそこそやっているのは、私だって知っているものっ」
「お、お絲?」
「だからいいのよ、別に。旦那がどんなものを所持していようと、だって私には関係がないのだもの」
「いや待て、お絲。それは俺のものというわけではなく、皆に頼まれて置いておいただけであってだな」
「みんなですって?」
「女房殿の見えぬところにと考えた結果が、俺の部屋というわけで」
「だったら、もっと隠すべきだわ! こんな、紅丸の目につくようなところに置いておかないでよ!」
「それは、たしかに、悪かったとは、思うが」
「思っているのなら、きちんとするべきなのよ! 旦那のばか!」
手にしていたそれを、えいと投げつけるように放ると、絲が部屋を出て行った。
ひらりひらりと、舞い落ちる花びらのように、一枚の春画が空を漂い、地へ落ちた。
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ブツを佐田彦に提供したのは、直太郎です。
長屋の男たちからじゃないんかーい。
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~紅丸と白旺~
「にゃーにゃー」
「にゃーではない、白旺さまである」
「あくおーさま」
「誰が悪か、小僧め」
「こぞーじゃなくて、べにまるなの」
「紅丸だと? はっ、小豆洗いの分際で偉そうに。貴様なぞ、小豆丸で十分だ」
「あずき、おいしいよ」
「こやつ、やはりただの阿呆ではないか」
尾を垂らして呆れる白旺に、絲は声をかける。
「ごめんね、白旺。紅丸ったら嬉しいみたいで」
「俺様という尊敬にたる存在が出来たことが、そんなに嬉しいか」
「私も嬉しいよ」
「はーっはっはっは。隠しきれぬこの気高さが恨めしいのう」
「猫、飼ってみたかったんだよねぇ」
高笑いを続ける雷獣の耳に、絲の呟きは聞こえていなかった。
参加した企画が、冬から春へと移りゆく季節を描くものだったのに、ちっとも「春」っぽくない。
ということで、作中には入れる場所のなかった小ネタをweb拍手に上げておりました。
紅丸と白旺もまた、作中に入れられなかったエピソードです。
このコンビが互いをどう呼ぶのか。
本筋では、いきなり小豆丸と呼んでいるのですが、前段にこんなやり取りがあったのですよ、と。
そんなおはなしでした。
かわいいは正義。