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ナズナ  作者: 雲空
7/9

5話:楓視点

「え、宮原先輩がレんううん〜〜!!」

「楓ちゃん!!」


由梨が素早く私の口を塞ぐ。二人の声は中庭中に響き、視線を集める。一瞬の静寂。由梨が手を離すと同時に元に戻る。


由梨は怒っていた。


「・・・・・・誰にも秘密って言ったのになんで大きい声出すの」

「ご、ごめんっ!だって、あまりにも予想外だったからさ」

「だっ、だからってやっていい事と悪い事があるでしょ!」

「分かってる、分かってるよ。ごめんって・・・・・・。由梨、どうしたの?そんな感情的になるなんてさ、珍しいじゃんか」


すると由梨は座り直し、顔をふせた。地面の草のそのまた下、土よりも深い、深い奥底を見ているようで、少し怖かった。


「楓ちゃんってさ、誰にも言えない秘密って、ある?」

「え、誰にも言えない?うーん・・・・・・、言いたくないはあるけど、言えないは無い、かな〜。由梨はあ――――」「私はある、の」


どこを見ているのだろう。由梨の顔を見ても、由梨の感情はわからない。


「あるの・・・・・・。ごめん、ね・・・・・・」

「う、ううんっ!謝ることじゃあないよ。誰にだって、隠し事のひとつやふたつ!あるものでしょう?」


笑って言ってみる。しかし、由梨はこっちを見ない。時々由梨はこういう瞳をする。ハイライトが無い悲しい瞳。


"どうしたの?"


"なんでそんな顔をしているの?"


そう聞く勇気が私には無かった。


「わからないの」

「・・・・・・・・・・・・え?」


顔を上げる。涙ぐんだ由梨の瞳に、私が映っていた。


「私、わからないの。全然、何もわからない」

「どうしたの、何がわからないの?」

「どうしてそんなに、どうして、なんでみんな・・・・・・!」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・なんで、そんなに・・・・・・」

「由梨・・・・・・」


開いた口はゆっくりと閉じた。意外にも私は、その口がもう一度開くことを望まなかった。


――――サァッ


草が揺れる。


「風、きもちいーね」

「・・・・・・うん」

「ティッシュは?」

「・・・・・・無い」

「ほら、これ使いぃ〜」

「・・・・・・ごめんなさ」

「ありがとう、でしょ」

「あ、ごめっ」

「ほらまた〜!こりゃ特訓が必要ですな」

「・・・・・・ありがとう」


ズビズビ、ブー!

この音を聞くのは何回目だろう。


泣き虫ゆーり


こっそり悪口を言ってみる。


「宮原先輩のこと、気持ち悪いって思う?」

「え」

「・・・・・・気持ち悪いよね」

「楓ちゃん・・・・・・?」

「だって、男性が恋愛対象じゃないってことでしょ?私たちが恋愛対象になるってことでしょ?変だよね、変だよ。意味わかんなくない?だって――――」

「楓ちゃん!!」






「・・・・・・・・・・・・やめて・・・・・・」



・・・・・・痛い。


「・・・・・・そんなこと、いわないで・・・・・・」


痛いよ、由梨。


掴まれた肩が熱い。


何よ、あんたそんな顔出来るの?


「嘘よ」


由梨の手を払う。


「ウソウソ。ぜーんぶ嘘!」

「え・・・・・・?」

「気持ち悪いなんて、思ってないわよ」

「よ、よかったぁ・・・・・・」


力が抜け、由梨は胸を撫で下ろした。


宮原、さくら先輩・・・・・・か。


「・・・・・・風紀委員、絶対入りなよ」

「楓ちゃん・・・・・・?」

「入らないと絶交だから」


立ち上がりスカートについた砂を払う。

紺色の生地がふわりと揺れた。


「楓ちゃん」


振り返らない。

スカートはまだ揺れている。


「ありがとう」


何よ、もう。


パンッ!!

わざと大きい音を出す。太ももに痛みがじんわりと広がる。



「特訓の必要、無かったか〜」



由梨は鼻を真っ赤にして笑っていた。


ティッシュ、また買っとかなきゃなあ。


そんなことを思った。

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