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ナズナ  作者: 雲空
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1話

桜の花びらが散る季節、私はこの星蘭中学校に入学した。星蘭中学校は県でトップを走る学校であり、行事や部活動等、どれもレベルが高い。制服が可愛いということもあり、私は家から遠いこの学校をわざわざ選んだ。


「由梨!体育館で委員会の説明があるんだって。その後に部活動の説明があるらしいし、行こうよ」

「あっ、うん!分かった…!」


体育館は北アリーナと南アリーナに分かれており、主に集会や行事は北アリーナを、授業は南アリーナを使うらしい。二つに分かれていると言っても面積は広く、全校生徒が集まってもまだ広さに余裕があった。皆はクラスごとに並ぶことも無く、雑踏としている。前へ前へと行く人々に押され、視界が狭くなる。私は楓と離れないように手を繋いだ。

なんとか見える位置に着き、息を落ち着かせる。楓と顔を見合い、凄い人の量だねと笑いあった。そう言えば、と思い出したように楓は話す。


「委員会もね、部活に負けないくらい充実してるんだって。権力もそれなりにあって、文化祭とかでは面白いイベントとかしてるらしいよ」


何処から仕入れたのだろうか、楓は多くの情報を持っている。


「だからか、委員会に入ると部活に入らない人が多いらしくて」

「えっ、なんで…?」

「忙しいからじゃない?この発表でどれだけ多くの人の注目を集めるかが鍵らしいよ」

「ふーん…」

「由梨はどうするの。委員会に入るの、それとも部活にする?」

「ま、まだ決めてない、かな。楓ちゃんは、どうするの」

「んー、私は出来るならどっちも入りたいかな!だから、委員会はあんまり活発じゃないのがいいな。ほら、どっちも入った方が評価も高くなるかもじゃない?」

「楓ちゃん、凄いね。もうそういうこと考えてるんだ」

「あっ、でも、素直に楽しみたいっていうのも勿論あるよ!青春第一!なーんてね。…あっ、始まるみたい」


照明が消えていくと同時に皆の声も小さくなっていく。私は低い背を伸ばし、ステージを見つめた。



発表会は意外と自由な形で進んだ。ダンスやマジック、漫才をするところもあった。次は何をするんだと盛り上がる中、次の発表は風紀委員会ですとアナウンスが流れると、辺りは静まった。


「えっ、急に静かになった」

「何が始まるんだろうね」

「風紀委員会ってあの人がいる所じゃない?」

「あの有名な人?」


密かに話される声が私の耳に入ってくる。一年生だろうか、この状況に困惑している。


「見て、由梨。誰か出てきた」


楓の指差す方向を見ると、カツン、と甲高い音が聴こえた。流れる空気に身を任せ揺れるサラサラの黒髪、遠くから見ても分かる長い睫毛、微かに微笑んでいる厚く柔らかそうな唇、そして、糸に吊られているかのように歩くお手本のような姿勢、まさに完璧な人間が居た。その人は、長い指を駆使してマイクスタンドからマイクを外し、小さく息を吸った。


「皆さん、こんにちは。風紀委員長の宮原さくらです」


澄んだ声が会場中に響き渡る。太くも細くもない声は反響しないでゆっくりと消えていく。


「風紀委員は三年生が居らず、現在二年生十名で活動しています。他の委員会と比べたら地味な活動が多いのですが、仲間同士は仲が良く充実しております。あまりかしこまらずに、気軽に見学等来てくださると嬉しいです。皆さんのことをお待ちしております」


彼女はそれだけ言うと、一歩下がり礼をする。何もパフォーマンスをしていないのに今までで一番の拍手を浴びて退場した。彼女のひとつひとつの行動から目が離せなかった。彼女は、たった一人で発表をやり遂げた。私と一年しか違わないのに、300人を軽く超える人数の前で。


「わぁー、綺麗な人だったね、由梨!」

「…凄い」


凄い。


「ん、由梨?どうしたの」


凄い。凄かった。


「…宮原さくら、先輩……」


私も、あんな風になりたい。


何に心を奪われたかはよく分からない。彼女はただステージに上がり、委員会の説明をしただけ。けれど、あの姿が、声が、頭から全然離れなかった。魂を吸われたかのよう。


「楓ちゃん」

「ん?何、どうしたの」

「私、風紀委員会に入る。入りたい」


それが運命だと思った。



「さくら、さくら!」

「あら、どうしたの」

「どうしたの、じゃないよ!まだ発表会終わってないよ、何処に行くの」

「風紀委員会は終わったもの。教室に戻るのよ」

「そんな勝手なことしちゃ駄目だよ、先生から怒られちゃうよ」

「戻っていけないなんて言われてないわ。怖いなら、私を置いていけばいい」

「……もう、知らないからね!」


そう言い、彼女は廊下を駆けて行く。


「本当に、置いていくのね」


まあ、いいけれど。


一年生は何人入ってくれるのかしら。でも、入ってくれても、別に、すぐ…。


さくらは長い髪の毛を耳にかける。廊下に響く足音は悲しい雰囲気を纏っていた。

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