表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/9

トンビと鷹の八

けものノおんがえし トンビと鷹の八



 私の住んでいる里は、深い谷と大きな森に囲まれた山奥にある。

 そんな里にある学校に、私は凛兄と通っているのである。


 今日は、学校から帰ってすぐに、凛兄といつもの木から、こうして里と人間の森との境を見張っている。それが里守のお仕事の一つであり、凛兄が父上から任されている、唯一のお仕事である。

 私には、まだ未熟と、父上からお仕事を与えてもらっていないが、凛兄の少しでもお役に立ちたいと、勝手について来ている。初めこそ「帰れ」と怒られたが、今では何も言われない。

 空には丸いお月さんが上がりかけた頃、頬に当たる夜風に紛れて、微かに人間の臭いがしてきた。夜目の利かない私では、近づく人影が、ぼんやりとしか見えなかったが、この匂いで誰かすぐにわかった。

 私の座っている木の枝に、幹に背を預け立つ凛兄は、既にだいぶ前から、近づく人影の正体が、わかっていたらしく、いつものピリピリした警戒を解いていた。

 凛兄を見上げると、厳しい表情はしていたが、さっきまでの本当に刺すよう、何とも言えない威圧感は、いまは少し和らいで見えた。


 これはいつものことなのだが、今日はことのほか酷かった。

 理由は、昼間にこの里へ余所者……しかも、人間の余所者の侵入を許してしまったからだ。

 普段の凛兄では、けしてありえない失態だが、私にはそれは仕方ないことに思えた。なぜなら、常に里のけものの臭気が、人間と一緒にあったからだ。

 どうして余所者が、里のけものと一緒にいたのかは、今もわからないが、そのせいで発見が遅れてしまい、気づいた時には、既に余所者は、里守の警戒区域外に出てしまっていた。

 里守は、警戒区域外での、力の履行と行使は認められていないため、私達はそれを、見ていることしかできなかった。


 後で父上に報告して、わかったことなのだが、その人間の余所者の侵入は、予め決められ、予定されていたモノであった。

 しかし、なんにせよ凛兄のプライドは、その失態を許さないのであろう。それは、いつも一緒いる私には、よくわかっていた。

(明日、学校で荒れるだろうな……)

 凛兄と学校のみんなと、仲良く遊べたら、きっと楽しいはずなのだ。だが、なかなか素直になれない凛兄は、いまだに学校の輪に入れずにいる。

 凛兄は私以外に、友達と呼べる子はいないが、私には里の学校にいっぱい友達がいた。でも私は、凛兄から、できるだけ離れないようにしている。

 理由は――それは凛兄が私は好きだからだ。

 でも、凛兄に隠れずに、学校の子達とも遊びたい。

 できることならば、凛兄も混じって、みんなで遊べたらいい。

 できたらいいが、できないでいる――

 それが私の密か目標となっていた。


「雅……雅――」

「え? あ、はい……」

 ボーっとしていて、立っていた凛兄の呼びかけに、すぐに反応できなかった。

「大丈夫か?」

「はい、問題ありません。なんでしょうか凛兄様?」

「下に来たぞ」

 凛兄が下の方を指差した。その指の先には、初老の人間がゆっくりと歩いていた。

「ええ、確認しました、凛兄様」

 私は凛兄にうなづき答えた。

「こんな夜分に……本当に不粋だな、人間は」

「そんなこと言うものではないですよ〜私達の担任様ですよ?」

「……フッ」

 その言葉が気に入らなかったのか、少しスネたような顔を凛兄はした。そんな凛兄が少し可愛く見えた。

「私、挨拶してきます」

「……待て」

 飛び降りようとした私を、凛兄が言葉で制した。

「ですが、凛兄様……」

 抗議するように、私は凛兄を見つめた。

「俺も……俺も一緒にいく」

 凛兄はそういうと、鼻をかきながら視線を逸らし、手を私に差し伸べた。

「はい! 凛兄様……」

 私は微笑んで、その手を取った。


 凛兄と私は、木の上から下へと飛び降りた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ