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人の壱

この『けものノおんがえし』にはイラストがあります。

以下のサイトへアクセスしてみてください。


携帯対応版までの避難所

※はてなダイヤリーを携帯用サイトに流用

http://d.hatena.ne.jp/Aquila-AK/


自創作物サイト【Kapiteldonner】

http://kapiteldonner.yokochou.com/


オムニバス形式で、ゆったりとまったりと

物語が進んでいきます。

けものノおんがえし 人の壱



 いま住んでいるこの里は、深い森に囲まれた山奥にある。

 俺はこの里で小学校の教師をしている。


 これだけ言っても、何のことかと首を傾げてしまうとはおもうが、まあ聞いてほしい。

 これは俺が、この里へ初めて来た時の話だ。少なくともそれくらいは、さかのぼって話を始めなければならないだろう。



 里に俺が来たのは、遅めの桜が咲いた、ある日ことだった――

 里の入り口だと降ろされた、バス停のすぐ側から山道へと入り、もうこうして、一時間以上はこの道を歩いている。

「ふう……」

 バスの運転手の話だと、そろそろ里に着いてもいい頃合いなのだが……

(スーツは……まずかったな)

 こんなに歩くと知っていれば、スーツじゃなくジャージを着てきたのだが―― 後悔が先に立たずことを、改めて認識せざるえない状況だ。

 ネクタイを緩め、手に持ったカバンと上着を持ち直し、森に囲まれた山道を行く。


 春にしては、もう遅めの時期になっていたが、

この陽射したるや、初夏への前準備を終えてたような、暑さをみせている。しかし、両側の高い木々が作り出す日よけのおかげで、必要以上の暑さを感じぬまま、俺は山道を進むことができた。


 だが、この深い森は恩恵ばかりを、よそ者の俺にくれるわけではない。先ほどから、草むらや、森の奥の方から、得たいの知れない物音が絶えない。


 近くでまた物音がし、そこから刺すような視線を感じた。

「誰か、そこにいるのですか?」

 返事は無かった。

(おかしいな……たしかに何かが)

 そう、何かが動いたような気がした。


 しばらくは、物音がした場所を凝視してはみたが、そこから何も見つけることはできなかった。

(俺はこの里に歓迎されてないってことか?)

 ここで一人、目の前の現象考察するのも馬鹿らしいので、先を急ぐことにした。



 山道は、いつの間にかあぜ道へと変わっていた。辺りを景色も開け、道の両側には青々とした稲穂が、風に揺られていた。


 田んぼがあるのならば人家の近い。人家も近ければ、もう既に里には入ったということだ


 道を歩いていると、目の前に大きな桜が見えてきた。その桜の木の下に、誰か人がいた。

 ――それは、とても小さな人影だった。


 人影がはっきりとするまで近づくと、そこには金色の髪の少年が立っていた。

(里の子供か?)

 何にせよ、人に会えたことで、長い長い里へのハイキングは、もう終わりそうだ。「やっと人に会えた…… そこの君! すまないが、この村の学校はどこにあるか、教えてくれないか?」


 俺が話しかけると、少年は桜の木陰に慌てて隠れてしまった。

「ああ、済まない…… 突然、話しかけてしまったから、驚かしてしまったね。」

「俺は、『紅月 セナ』この里の小学校に赴任…… いや、先生をやりにきたんだよ」

 隠れてしまった少年に警戒を解いてもらうよう、前かがみになって背を低くした。


 少年はチラチラと木陰からコチラを見ている。

 そして何回か顔を覗かしたあと、木陰から出てきた。

「コン」

 少年が突然、それだけを言って俺に近づいてきた。

「コン?」

「コン!」

 少年はさらに俺へと近づいてきた。

「〜♪」

 少年は何やら嬉しそうに、俺の回りを飛び跳ねはじめた。


「おいおい…… 人なのだから、コンだけじゃ会話にな……」

(ん? 人?)

 人を形容するには、この俺の目の前にいる子供は、

十分にその要素を持ち合わせていた。

 だが、それには…… 不要なモノもまた、十二分に持ち合わせていた。


 サラサラとした綺麗な金色の髪からは、同じく金色の毛に覆われた、先っぽが少し茶色耳が空へと真っ直ぐに伸びていた。その耳は時折、ピクピクとせわしく動いている。

 そしてお尻の辺りからは、大きな筆のような尻尾をのぞかせている。その尻尾が一定のリズムで左右へと動いている。


 俺は、いままで人生で得た、およそ全ての知識と経験で、現状の説明付けを、頭で考え出さねばならなかった。

 そうしなければ、俺の『いままで』の全てが否定されそうだったから……

「さ、最近のコスチュームは、よくできていますね……  特に毛艶が良いその尻尾は、とても良いモノですね」


 少年は飛び跳ねるのを止めて、俺の顔を見て微笑んだ。

「へへ♪ 褒められた ……でもね、ボクのこれ、生まれつきなんだよ?」

 自分の尻尾らしきモノを、気持ちよさそうに頬ずりしている。


 その少年の微笑みは、残酷に俺の『いままで』の全てが否定し壊していった。


「そ、そうなんだ…… すまないが、学校を知っていたら、いますぐ! に、連れて行ってはくれないだろうか……」

 (疲れている…… そう俺は、ほんの少し疲れているだけだ)


「うん! いいよ〜! ……でもね」

 少年はうつむき、そして顔を上げて俺を見てきた。

「ボクと遊んでくれた後で ……いい?」


「遊ぶ? 君と遊ぶ約束は、そもそも、まだしていないしだね、俺は疲れてい……」

 俺の言葉を聞いた少年が、今にも泣き出しそうな顔をしている。

「わかった、わかった! 学校まで案内してくれれば、少し休んだ後に一緒に遊んであげるから…… ね?」


「ほ、本当?! 山神様に誓って?!」

 少年は、さっきまでの顔が嘘かのように満面の笑みを浮かべ、尻尾と耳を忙しく動かしている。


「ああ…… 誓う! 誓う……」

 子供のあの顔は反則だ。NOと言える大人などいない。


「やった〜! じゃあ、こっち! こっちだよ! 早く〜〜!」

 少年がすごい勢いで俺の前を走っていき、振り返り手招きしている。


「すまないが、もう少しゆっくりと……」

 その呼びかけもむなしく、少年は前へドンドンと走っていった。

(やれやれ……)

 ここまで歩いてきて、足は既に棒を通り越し、地に根を張ったような状態だった。


 できる限り、少年の後を早足で俺はついて行った。


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