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短編集 

ダンジョン魔境 

作者: 不知火Mrk-2

今日から定期的にショート作品を投稿していきたいと思います。

 カガトの幼なじみであるアスカは、重い病気に犯され、現在病院で入院していた。彼女の病状を改善させるための治療法が見つからず、カガトは悩んでしまう。

そんな時、町外れにある洞窟に、特殊な薬草が生えているという情報を耳にした。これは有力な手掛かりだと思い、行動に移してみる事にしたのだ。何もしないで後悔するよりか、まだマシと思った。カガトがアスカに向ける愛情は確かなものだった。


「この地図を見る限りだと、この辺で間違えないと思うんだけどな」

 カガトは、片手に持っている紙製の地図を見ながら、頭を悩ませていた。町中で購入した地図は偽者だったのかもしれないと、次第にカガトを不安にさせる。

「あがっ! 何なんだよ、全然目的地に辿り着けないじゃんかっ!」

 訳が分からなくなったカガトは、洞窟の岩の壁に背中を預け、やる気のない態度を見せる。

「ああ――ッ、何で上手くいかないんだよっ!」

刹那、カガトが佇んでいた場所の地面が崩れる。落下せざるを得ない状況に追い込まれた。

「う、ぅあああああ――っ!」

 辺りには取っ手というものもなく、何の助力も得られない。地面は岩で出来ており、このまま落ちたら完全に死んでしまう。どうする事もできない状況に、カガトは落下する重力に身をゆだね、人生を諦めることにした。


「……んっ、んん……? あ、あれ? 俺って生きているのか?」

 重たい瞼をゆっくりと開くと、カガトは仰向けで倒れていた事に気づく。視界には、穴が空いた場所がハッキリと見えていた。

(ロープもないし、元いた場所にはもう戻れないな・・・…) 

かなり高いところから落ちてきたのだと実感する。

 でも、何故生きているのだろうか? 直に地面に落ちたはずなのに……。

「やあ、ようやく目を覚ましたか少年!」

 野太い声――如何にも男の中の男と思わせる口調。周辺を見渡すと、上半身裸、下はパン一の姿で、その場に佇む筋肉質の男性を目撃する。カガトは一瞬、何か変なものを見たような気がして再び気絶しそうになった。

「おいおい、いつまでもここに居たらモンスターに殺されてしまうぜ」

 筋肉質の男性は、凛々しい表情を見せつつ、初対面のカガトを心配してくれた。

「……」

 仰向けになっていたカガトは無言の起き上がり、その場に立ち上がった。筋肉質の男性にマジマジと見られていると変な気分になってくる。

「……もしかしてですけど、貴方が助けてくれたんですか?」

「そうだが?」

「ありがとうございます……」

 変なものを見るように、堅苦しく喋った。

「……貴方は、何でパン一なんですか?」

 カガトは、始め見たときから気になっていた事を告げた。

「俺の身体そのものが武器になるからだよ。それに防具や衣服を着ていると動きづらいからね」

 洞窟の中は多少冷えているが、筋肉質の男性は明るく物事を話す人だった。

「はぁ、そうですか……」

 カガトは筋肉質の男性をジト目で見やる。幾ら考えてもキリがないと思い、あまり深く考えない事にした。何の武器もないのに、この洞窟で生きているのだから、それなりの実力があるのだろう。

「少年はどうしてここに?」

「俺は、病気の幼なじみがいて、その子を助けるための薬草を取りに来たんです。ん? あれ? そういえば地図は?」

 カガトの手元には地図がない。焦って探すが全く見当たらなかった。もしかすると、落下した直後にどこかに吹き飛ばされてしまったのだろう。

「ああ、どうすんだよ。これじゃあ、先に進めないよ~」

「大丈夫だ! 筋肉があれば何でも出来るっ! 直ぐに諦めるな少年!」

 男性は右腕に力を入れ、力強い上腕二頭筋を見せ付けてくる。

「……何処からそういう風な自信が湧いてくるんですか?」

「この上腕二頭筋がっ! いや、この筋肉レーダーが搭載された上腕二頭筋が、この俺に告げるんだ! 大丈夫だと」

「……」

 さっきから筋肉の事ばかり喋っている。熱血漢溢れる性格をしており、関わっていると此方まで疲れてきてしまう。

 筋肉レーダーとか言ってるけど、この人は本当に大丈夫なのだろうか?

 モンスターに遭遇するよりも、この人の頭の方が大丈夫なのかと、少々不安になってきた。この状況を切り抜けるためには、無心になる事が重要なのかもしれない。

「困っているなら、薬草がある場所へ案内してあげるよ」

 地図を失い絶望するカガトは、筋肉質の男性の後に付いていくことにした。


「君が探している薬草は、崖上に咲いているはずだ」

 カガトは岩壁を見上げた。

「こ、この上ですか……」

おおよそ、十メートルくらいはある。彼は登りきれるか不安になった。

 幼なじみの病気を治すためだ。これくらいできないと、彼女に合わせる顔がなくなる。カガトは思いきって、岩壁に手をつけてみたが、落ちたときの事を考えてしまうと、怖くて登れなくなってしまう。

「少年よ、幼なじみを助けたいんじゃないのか! 自分自身の上腕二頭筋を信じるんだっ! 筋肉があれば何でもできるっ! むしろ、岩壁を登っている内に筋肉は身につく」

 筋肉質の男性はカガトに訴えかけてくる。目的を達成するための意志が弱いのは、上腕二頭筋がないからだと。

「モタモタしているから、モンスターが来てしまったではないか。このモンスターは俺が片付けるから。君は登れ! ひたすら登りきるんだっ!」

 男性は上腕二頭筋を煌かせ、白い歯を見せながら笑う。

さっき出会ったばかりの人に対し、何故ここまで熱く物事を伝えられるのだろうか?

「やる前から諦めていたら何も変えられないぞ」

 男性はカガトに背後を向け、モンスターがいる方角へ立ち向かっていく。

 ……何で……何で、赤の他人にここまで親切にしてくれるんだよ。

 カガトには分からなかった。けれど、今はそんな事を考えている暇はない。

 男性はカガトの代わりにモンスターと戦っており、幾ら身体能力が高くても、いつまで体力が持つか分らない。

「……クッ、こ、こんなんじゃ……幼なじみも、代わりに戦ってくれてる人も救えないじゃないか……」

 カガトは拳を握り締め、己自身の心の弱さを恥じた。自分だけがその場に取り残されたような疎外感を覚えてしまう。

いつまでも、立ち止まっては居られない、今こそ心を切り替える時だ!

彼は無謀とも思える崖壁を、両手両足を使って登っていく。岩壁を登る事自体始めての経験ではある。が、不思議と止まることなく登れていた。

できない事が出来るようになると楽しさが心の底から込みあがる。ここまで出来たのなら、もっと自分を変えたいと願うようになった。

(後もう少し……後少しで壁を登りきれるっ! 俺の筋肉よ、答えてくれ!)

 熱意の篭った感情が奇跡を起こし、薬草が生えている場所へと辿り着く事に成功した。

「やったっ! やっと、やっと薬草を手に入れられたぞ~」

 カガトはその場にしゃがみ込み、そこに生えていた薬草を引っこ抜いた。

 嬉しさのあまり、身体全体でそれを表現していたら、地面が崩れ始める。カガトは焦った。今度こそ、終わりなのかと思ったのだ。

 ドサッ――

 カガトは筋肉質の男性の腕に抱えられ、何とか地面にぶつからずに済んだ。

 辺りにはモンスターが追わず、男性が全て倒したようだ。彼のジ実力は確かなものだった。

「ありがとう」

 カガトは気さくな感じに告げる。男性は単なる脳筋ではない。彼は、人情味溢れる感性を持ち合わせている人だと、カガトは思った。この人が居なかったら、いつまで経っても、何もできない人間でいたかもしれない。

「君は良く頑張ったよ」

 男性は一言だけそう言ってくれた。


 薬草を手に入れたカガトは洞窟を後にし、アスカが入院している病院へと向かう。カガトは薬草を医者に渡し、治療薬を作ってもらった。

アスカの容体は、薬草のお陰で改善され、彼女はベッドから立ち上がり、一人で歩けるようになっていた。

 医者は一週間くらい安静にしていれば、退院が出来ると言っていた。

「カガト……何か雰囲気変わった?」

 整った顔立ちに、綺麗に染まっているショートへア。その美貌を持つ、アスカが話しかけてくる。彼女の仕草に少しドキッとしてしまう。

「えっ……そ、そんなことは、無いと思うけど……」

「ふ~ん、まぁそういう風なことにしておきますか」

 上半身だけベッドの上で起き上がらせている幼なじみは、ニヤニヤと笑っていた。

読んで頂きありがとうございました。


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