中二病だし魔女来るし・2
地面に影を落としたモノが、落下して地面を突く。ソイツの着地の衝撃は中々のもので、地面は揺れ、土煙が舞った。
「ひゅー、あぶねえ」
僕は、何かが俺たちの上に落ちてきたと分かった瞬間、走り出して魔女を抱えて落下物の軌道を避けた。咄嗟のことで状況はよく分からないが、僕も魔女も下敷きになるという最悪の事態は避けられたわけだ。
「ちょっと……」
小脇に抱えた魔女が、不機嫌そうな声をかけてくる。
「いつまで抱えてるつもり?」
「ああ、ごめん」
落ちてきたソイツを避けるのに夢中で、小脇に抱えている魔女にまで気が回っていなかった。
魔女を下ろしてやり、もうもうと舞う土煙を見やる。
すると突然、ぶわっと勢いよく土煙は晴れ、そこには大きなドラゴンのようなモノがいた。
「アハハハハ!!こんな所で魔女を見つけるなんて思いもしなかったワ」
そのドラゴンには誰か、女の人が乗っていて、高く笑って魔女を睨んでいる。
睨んでいるのは魔女も同じだ。
現代日本では滅多に見れない程に鋭い目。
それは楠木仁が、この場にいるのが場違いだと感じるには十分だった。
「……魔女狩り」
ポツリと呟かれた魔女の一言に、仁は昔の記憶を取り出す。
魔女狩り。中世に行われた虐殺法。魔女と呼ばれる人を火刑に処し、災いを追い払う処刑法。
人身供養のもっと質の悪いモノ。
そんなものが本当に存在するのか。いや、この魔女は本物の魔女だから、相手も本物の魔女狩りなんだろうか。
どう考えても楠木仁には答えの出せない問題だった。
「っ!!」
考えている間にドラゴンの腕が伸び、仁ごと魔女を襲う。
魔女は咄嗟に魔法障壁を展開し、身を守る。
「一般人も巻き込むなんて、正義の名の元にあってもこうはなりたくないですね」
「アハハハハ!!ソイツが一般人なんて。まさかそんなふざけた事本気で言ってんノォ?どう考えたってコッチ側じゃない、ソ・イ・ツ」
ギリギリと軋む障壁越しに言葉を交わす敵同士。
仁は未だ、目の前の出来事が他人事のような気がしてならなかった。
「アハッ♪いいわぁ。魔女なんて久しぶりの獲物によく分からない化け物。ゾクゾクするワァ」
「悪趣味っ……」
「やっておしまい、ファフグレン!!」
魔女狩りのかけ声で、ドラゴンの攻撃は勢いを増す。
ドラゴンの爪が当たる度、障壁は火花を散らしてその衝撃の威力を物語る。
「フフフ。一方的に攻め立てるって、やっぱいいわネェ」
「ぐっ……」
魔女が辛そうな声をもらす。
「貴方」
「僕?」
魔女が声をかけてくる。
それでも意識は障壁に集中しているようで、こっちを見向きもしない。
「今のうちに逃げなさい。いつもたなくなるか分からない」
「でも……」
「“でも”も“だって”もない!!殺されるわよ!!」
「いやさっきは君が僕を殺そうと……」
「いいから!!」
大きな声で魔女が怒鳴り付けてきたその時だった。
お皿が割れるような音がして、魔女の張っていた魔法障壁がバラバラに割れる。
その壁の粉々を掻き分けて、ドラゴンの爪が魔女の心臓を勢いよく狙う。
「フフッ」
小さな笑い声が聞こえた。
ドォオオオン
それは人一人殺すにはやり過ぎな攻撃で、受け止めるだけでも余波が凄い。
「あ、貴方……」
「なに?化け物クンもやっと戦う気になった?」
僕は右手一本で、ドラゴンの爪を掴んで止める。
なるほど。確かにこれは凄い力だ。
「ほら、ファフグレン。さっさと振りほどいてアイツを切り裂きなさい!!」
ドラゴンは魔女狩りに言われて、腕を動かそうとする。が、そうは僕が許さない。
「なにしてるの!!さっさとやんなさい!!」
魔女狩りは遅々として動かないドラゴンに腹を立てるが、それでもドラゴンの腕は動かない。
「僕は……」
「ああん?」
ポツリと呟いた言葉に、苛立った魔女狩りは過敏に反応する。
「アンタ何よ!?ファフグレンを止めるなんて何者よ!!」
イライラがピークに達したのか、魔女狩りは一際大きな声で喚く。
「僕は……。我が名は【ノアルコア】!!証明せよ、漆黒の心臓」
ああ。二度と唱えまいとしていた文言を唱えてしまった。
薄ら寒い言葉を唱えると、僕の心臓に黒い空気が集まってくる。
「なっ……!?」
魔女も、魔女狩りも驚愕の目で僕を見る。
そりゃそうだろう。いきなりこんな“バカみたいな設定の化け物”が現れたのだから。
「ああ、恥ずかしい……」
黒くなった自分の両腕を見て、僕はそう呟いた。