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中二病だし魔女来るし・1

楠木仁(くすのきじん)がそれを見つけたのは、通っている高校の下駄箱だった。


「なんだ、これ?」


それは所謂、(ふみ)というヤツで、差出人は不明。中にはただ「ここで待ってる」という文言と、やたら遠い空き地を指定している地図が書かれた紙が入っていた。

これで学校の屋上となれば、それとなく期待もしただろう。これで体育館裏なら、迷いなく逃げただろう。

しかし指定された場所はやたら遠いのである。二駅程の距離である。なにもない空き地である。目的も不明瞭である。

僕にとって、その場所へ行くことは容易い。しかし、それまでのことだ。


「いいや」


そう言って、文を鞄に、嫌いな教科の教科書よりも雑に放り込む。どうせ家に帰ったら捨ててしまうのだから、雑でもなんでも構うことはない。

そうだ、帰ったら録画した海外ドラマを見よう。姉が見ているのを見て面白かったのだ。


上靴を履き替える。


校舎を出る。


校門を出る。


帰路につく。


いつも通りの放課後に、さて、ここで一つ問題がある。

それは今、僕の後をつけている女の子についてだ。

さっき文を見つけた時から。いや、もしかしたらその前からつけていたかもしれない少女は、本人にとっては上手く隠れているつもりなのだろう、電柱の陰から僕を見ている。

その女の子とは、直接の面識はないが何度となく学校ですれ違っている。その時からオカシナ感じはしたが、まさかここまでとは。

そして恐らく、文を出したのも彼女だろう。何故だかは分からないが、多分、きっと、そうだ。文から彼女の痕跡を感じたのだ。


「ふう……」


ため息を吐く。

()くことは簡単だ。逃げることは簡単だ。

しかし、彼女は同じ学校の生徒だ。逃げることは、かえって目をつけられることになることは間違いない。

もう、直接話しかけた方がいいのだろうか。しかし、中学時代ボッチだった僕にとって、知り合いでもない女子に、怪しげな文をくれた女の子に、自分を尾行してくる彼女に自ら話しかけるというのは、些かハードルが高い。

どうしたものか。


悩む僕を救ってくれたのはは、青天の霹靂のような出来事だった。


「ヘックシ」


くしゃみ。僕のではない。

それは僕の後ろから、電柱の影から聞こえたものだ。

音がした。だから振り返った。自然なことだ。なんの問題もない。

しかし、僕はうっかり失念してしまっていた。


少女は、バレたくないから尾行をしているのだということを。


それに気づいた時、僕の体に稲妻が落ちて、視界が真っ白に光る。


「この程度じゃ死なないのは分かってます。さあ、アナタの正体を明かしなさい」


この雷は彼女が起こしたモノで、明確に僕を狙った攻撃。

とんだファンタジーな案件だが、それ以外に説明のしようがないので、仕方がない。


「出会い頭に電気ショックとは、またキツイなぁ」

「そんな……、なにも……、無傷!?」


雷が落ちた衝撃で舞った煙が晴れて見えた僕に、少女は驚いた顔をする。

その顔をしたいのは僕の方だよ。

しかし、少女はすぐにキリッと顔を切り替えて、片手を上げて僕に向ける。そして、その手の先には光る円に幾何学的な模様の魔方陣が浮いている。

そんな彼女の姿を見て僕は「ああ、ネクタイが緑色だから彼女は一年生なんだな」とかその程度の感想しか出てこなかった。


「君は魔女……、なのかな?」

「答える義理はありません」


それでも、頑張って捻り出した質問はキッパリ、ハッキリ断られる。なんとも手痛い反応だ。

楠木仁の心は傷ついた。


「学校で見かけた時から只者ではないと分かっていましたが、まさかこれ程とは……。さあ!!アナタの正体を明かしなさい!!」


そう言って、少女は手の魔方陣の光をいっそう強める。

さしたるピンチではないにせよ、あらぬ疑いをかけられたものだ。とんだ誤解をされたものだ。

一体、彼女が僕のことを何と間違えているのかは知らないが、これはあまりにもあんまりだ。


「おいおい、そんな態度で、素直に相手が答えてくれると思うのか?ちょっと乱暴がすぎるんじゃないの?」

「黙って、私の質問だけに答えなさい。さもなければ次は燃やしますよ」


問答無用ですね。まったく分かりたくもない。


僕の正体、か。彼女はそれを知りたがっているけど、知ってどうするのだろうか。攻撃を止めてくれるだろうか。止めてくれるなら万々歳。だが、僕が僕の話をするには、


「大きな代償を伴う」

「はい?」

「僕が僕の話をすることは、僕にとって、とても大変なことなんだ。だから、あまり言いたくない」

「それは燃やされることよりも?」

「正直言って、君には僕を殺すことはできない。それは君も分かっていることだろ?」


僕の言葉に、少女は怒るでもなく、笑うでもなく、ただまっすぐにこちらを見据えてくる。

睨み合い。


「言いたくない、ということは“言えなくもない”ということですよね?」

「そうなるね」


せめぎ合い。


「君は何を知りたいんだい?知ってどうするんだい?」

「それはアナタの答え次第です」


探り合い。

どうしようもなく時間は、流れるだけ流れて、コンクリに映る僕らの影が伸びていく。


「引く気は?」

「ないです」

「そう……」


魔女、なのだろうか。彼女に一切の妥協はないのだろうか。

先程、悪手だと思ったが、これはもう逃げるしかないのではないか。


そう思った矢先、道の真ん中に立つ僕らを、大きな影が覆った。

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