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死神に育てられた少女は漆黒の剣を胸に抱く【WEB版】  作者: 彩峰舞人
第一章 死神に育てられた少女
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第三十七幕 ~宿命の出会い~

 別働隊がカスパー砦を奪取してから一ヶ月が経過していた。

 オットーの陣頭指揮の下、カスパー砦を中心に堅固な防御ラインが築かれる中、水面下では捕虜交換の話し合いが行われていた。

 その結果アシュトンが予想した通り、帝国側は捕虜交換の申し出を受諾した。だが、調印式の場所がキール要塞だと知れた途端、一部の将校が反発。

 司令官室に押しかけ猛然と抗議した。


「閣下、なぜ我々が敵地に赴かなければならないのです! 今回勝利したのが我々なら、捕虜交換の申し出を行ったのも我々です。当然カスパー砦で調印式を行うのが筋ではないのですかッ!」


 パウルは半分呆れ顔で将校たちの話を訊いていた。彼らの言い分はもっともらしく聞こえるが、つまるところ自尊心を傷つけられたと言いたいだけだ。

 こういう時に限ってオットーは奪還した村々の状況視察に出ている。他ならぬパウルが命令しているだけに、文句をいうこともできないのだが。


「別にお主らにキール要塞に行けと言った覚えはないぞ?」


 パウルがため息交じりにそう言うと、将校はさらに声を荒げる。


「揚げ足を取らないでください! そもそも随行は百人までなどと、ふざけているのにもほどがあります!」


 今回キール要塞で調印式を行うに当たって、帝国側は随行員を百名までとする条件を突きつけてきた。それも彼らにとっては面白くないのだ。


「そうか? わしが帝国の立場だったら同じように要求すると思うぞ? 余計な人数を連れて行けば、それだけで疑心を呼び込むからな」


 旅の道中のことも考えるなら、百名という数字は妥当とパウルは思っている。野盗が襲いかかるには躊躇する人数であり、また敵領土内で暴れられる人数でもない。

 王国側に配慮しつつ、且つ帝国側に不利益を生じさせない。実によく計算されていると言えた。

 そのあたりを詳しく聞かせると、将校たちは一様に動揺した表情を浮かべながらも反論する。


「そ、それでもキール要塞で調印式を行うのは納得いきません! これみよがしに我々から奪った要塞に呼びつけるなど、侮辱もいいとこです!」

「では、お主らはいったいどうせよと言うのだ? 無論、わしを含め帝国を納得させるだけの代案があって意見を言いに来たのだろう? まさか子供の言い分でもあるまいし、気に入らないから反対ですなどとは言わないよな?」


 パウルが鋭い視線を向けると、将校たちは一気にたじろぐ。もちろん代案がないことなどわかっていながら、あえて問うた。

 これ以上、馬鹿馬鹿しい話に付き合っているのは疲れるからだ。


「そ、それは……しかし、閣下の身に万が一のことがあったらどうするのですか!」

「それに関しては、全く問題ないとだけ言っておこう」


 断言するパウルに、将校は眉を顰める。他の将校たちも一様に困惑した態度を見せていた。


「なぜそのようなことが言い切れるのですか? 鬼神の異名は帝国でも知らぬものなどいないはず。これを絶好の機会とし、暗殺を企む者がいないとも限りません」


 将校の言う通り、暗殺を企てるなら絶好のタイミングだろう。パウルとしても防ぐことが困難な暗殺に対し、警戒しないわけでもない。

 だが、今回に限っては、色々な意味で杞憂と言えた。


「圧倒的優位な立場にいる帝国が、そんな卑怯な真似をするとも思えんな」

「で、ですがッ!」

「それに、今回わしの護衛を務めるのはオリビア少尉だ。これでも何か言いたいことがあるかね?」


 オリビアの名を出した途端、彼らの顔が一斉に引き攣る。イリス平原とカスパー砦の戦いを経た今、第七軍に所属するほとんどの者が、オリビアに対して畏怖の念を抱いていた。


「い、いえ。オリビア少尉が護衛を務めるのであれば問題ないと思われます! お忙しいところ大変失礼いたしました!」


 将校たちは一斉に敬礼すると、逃げるように司令官室を後にする。その様子を見てパウルは嘆息すると、胸のポケットに手を伸ばした。



 ▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼



 ──それから一週間後。

 カスパー砦を発したパウルたち一行は、キール要塞を目指して北に進路を取った。不測の事態に備えるため、パウルは隊列の中央。

 そして、間を挟むようにオリビアとクラウディアが護衛につく。


 四方を囲むのは、オリビアと共にカスパー砦に潜入した別働隊の兵士だ。道中オリビアは幾度となくパウルに話しかけ、そのたびにクラウディアを動揺させた。

 さすがに諌めるべきとも思ったが、いつになく朗らかな表情を浮かべるパウルを見て躊躇した。結局見て見ぬふりをしたことは内緒だ。


(これはかなり神経を使うな。まだ、敵と斬り合っているほうが楽かも知れない)


 二人の楽しそうな様子を見つつ、クラウディアはそんなことを思う。そんなクラウディアの思いとは別に、旅自体は順調に進んでいく。

 途中野盗に襲われるということもなく、無事キール要塞に到着した。カスパー砦を発してから四日目のことだった。


 キール要塞は巨大な三重の壁に囲まれ、さらには複雑な地形の上に築かれた天然の要害だ。城壁には十字剣の紋章旗がいくつもはためき、いやが上にも敗北感を突きつけてくる。かつて難攻不落と謳われたキール要塞を、複雑な表情で見つめるパウルたち一行。

 そんな中、ひとりはしゃぐ少女の姿。──もちろんオリビアである。


「パウル中将。キール要塞ってガリア要塞より大きくて立派だね!」

「オ、オリビア少尉!」


 さすがに看過できずクラウディアが口を開くと、パウルは軽く手を振り、オリビアの話に乗っかる。


「オリビア少尉、この要塞がかつて王国軍のものだったと知っているかね?」

「うん知ってるよ。帝国軍に盗られちゃったんでしょう?」


 実に気軽な口調で話すオリビアに対し、パウルは僅かに苦笑しつつ頷く。


「その通りだ。我が軍が不甲斐ないばかりにな」

「パウル中将、大丈夫だよ。盗られたならまた取り返せばいいんだよ。カスパー砦も取り返したでしょう?」

「ふふ。オリビア少尉が言うと、簡単に取り返そうな気がするから不思議だな」


 二人が笑い合っていると、巨大なアーチ状の門がゆっくりと開いていく。中から姿を現したのは、黒い軍服に身を包んだ凛とした佇まいの女性。

 そして、青い全身鎧(フルプレート)を身につけた数人の兵士。彼らは女性を守るように、周囲を固めていた。


 おそらくだいぶ前から監視網に引っかかっていたのだろう。クラウディアは油断なく周囲を警戒する。

 パウルは全員馬から降りるよう命令すると、軍服姿の女性と正対した。


「王国軍中将、パウル閣下でいらっしゃいますね」

「いかにも」

「鬼神の武名は帝国軍にも轟いています。お会いできて光栄です。自分は案内役を務めるテレーザ少尉と申します。まずは旅の疲れを癒してください」

「ご丁寧な対応、痛み入ります。では、お言葉に甘えさせていただきます」


 お互い敬礼を返すと、テレーザが促すよう歩き始めた。その後を黙々とついて歩くパウル一行。

 テレーザはオリビアのことが気になるのか、時折視線を向けていた。


 やがて三重の門を潜り抜けると、懐かしい正門の姿が見えてくる。そこでテレーザは足を止めると、こちらに向き直り、すまなそうに口を開く。


「申し訳ございませんが警備の都合上、ここから先の随行は二名までとさせていただきます。お連れの方はすでに部屋をご用意していますので、そちらでおくつろぎください」

「ちょっと待て! いきなり──」


 あまりの勝手な言い草に、クラウディアは抗議の声を上げた。しかし、パウルに肩を叩かれ、自重する。


「クラウディア准尉、構わん。テレーザ少尉、委細承知しました。随行はこの二人。オリビア少尉とクラウディア准尉が務めます」


 パウルの言葉を訊くと、テレーザは驚いた様子でオリビアを凝視している。対してオリビアは、とくに気にする風もなく楽しそうに周囲を眺めていた。


「テレーザ少尉。どうかされましたかな?」

「あ、し、失礼いたしました。ではどうぞお入りください」


 テレーザは慌てながら兵士に開門を命じる。扉が重々しい音を響かせながら開かれると、三人は導かれるまま歩を進めた。



 ──明けて翌日。

 大広間にて捕虜交換の調印式が行われた。

 帝国の将校が大勢立ち並ぶ中、フェリックスとパウルは互いに調印書にサインを記すと握手を交わす。将校たちが「あれが鬼神か」と囁き合う中、フェリックスが口を開く。


「パウル閣下にお会いできて光栄です。こう言ってはなんですが、鬼神と恐れられるパウル閣下を目のあたりにすると、背筋が冷える思いです」

「私も高名な蒼の騎士団を率いるフェリックス閣下にお会いできて光栄です。正直、こんなにお若い方だとは思いませんでした」

「それはよく言われますね」


 パウルとフェリックスはお互い笑みを浮かべる。この後も調印式は滞りなく進み、なごやかな雰囲気のまま終了した。





「──彼らは帰りましたか?」


 フェリックスは窓の外を眺めながらテレーザに尋ねる。


「はい。少し前にお帰りになられました。閣下によろしくとのことです──閣下、どこかお加減でも優れませんか? 顔色が少し悪いようですが」


 言いながら、心配そうにフェリックスを覗き込むテレーザ。フェリックスはそんなテレーザを見て、余計な気を遣わせてしまったと思いつつ、首を横に振る。


「体調は問題ありません。それよりテレーザ少尉は、パウル閣下に随行していた二人と話はしましたか?」

「いいえ、とくには……ただ、二人のうちひとりは随分と若かったですね。それで私と同じ少尉と言っていましたから、かなり驚きました」

「そうですか……」

「閣下?」


 あの調印式のとき。パウルの後ろでジッとこちらを観察するような目を向けてきた銀髪の少女。鬼神と呼ばれたパウルが霞んで見えるほど、圧倒的な存在感を放っていた。フェリックスの背筋を冷たくさせるほどに。


(尋常ではない血の香りと、漂う死の気配。まるで〝死〟そのものが具現化したような存在だ。あの少女は帝国軍にとって非常に厄介な存在になるかもしれない)



 オリビアとフェリックス。二人が再び相見えるのは、だいぶ先のことである。


お読みいただきありがとうございました。

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