第3話
たっぷり10分は泣いたか、ようやく落ち着いてきたアルはしゃっくりしながら話し始める。
「テンは何で母なる森にいるの?」
俺をジッと見つめながら聞いてきた疑問は恐らくこの世界の人間なら皆思うことだろう。特に隠す必要も無いから素直に返事をする。
「いきなり呼び捨てかよ。単純に人と関わるのがめんどいから。人の思惑やら期待やら評価やら、、、まぁ色々な」
この世界は危険も多く命が軽い、四六時中”世紀末”な世界はやはり力が第一になりうる。俺の能力は強すぎる故に今言った通り色々とめんどくさくなるのが目に見えている、だからこそ3年前からこの森に隠れ棲んでいるのだ。
「、、、なんかワケありなんだね。ところでここは王国側?帝国側?」
呼び捨てにはスルーかよ。だがあまりつっこんでこないのはメンドくなくていい。母なる森は北側が山でそこから半円形に森が広がっていてその丁度ど真ん中から西側が帝国、東側が王国側になる。どうやらアルは俺の家が外周部分だと思ってるようだな。
「いや、ど真ん中だ。最深部の山の麓だぞ」
「、、、え?」
アルはぽかーんと口を開けて動きが止まった。そりゃそうなるわな。
母なる森は北側の山に近くなればなるほど魔物が強くなる、この小屋の周りにいる魔物なんかオンネエイプが100体居ても勝てない化け物ばかりだしな。しかも山には竜から龍までそれこそ災害レベル、冒険者ギルド風に言えばSSS級がちらほらだ。
「嘘でしょ?!あたしがいくらただの猟師だからって騙されないよ!ましてやあたしより若い子なのに」
「騙す必要性は全く無いし嘘はついてない。第一に俺は23だが俺から見たらお前の方が年下だ」
「?!年上?」
再びぽかーんとなるアル。見た目の問題は昔からよく言われる、それこそ今と全く同じやりとりを数年前にした事をふと思い出した。
苦笑した俺を見てアルは気まずそうに頭を下げながら言葉を発した。
「あたしは17だから敬語使った方がいいかな?でも苦手なんだよね、、、」
気まずそうな表情を浮かべながら上目遣いでこちらを見るアルに再び苦笑しながら俺は言葉を返す。
「別に構わない。で、話しを戻すがこれからどうするつもりだ?」
「村はきっとダメだと思う、、、後は王都にいる叔母さんくらいしか身寄りもいないからとりあえず王都へ行くよ。あ、でもテンの言う事が本当ならここからは生きて出られる気がしないよ、、、」
「助けた手前ちゃんと俺が王都まで付き合ってやる、、、非常にめんどいが仕方ない」
その言葉にアルはパァーッと笑顔を咲かしウンウン頷く。丁度その頷きが終わった瞬間、家のドアがばーんと開き二つの人影が入ってくる。
1人は見た目16歳くらいの白髪ショートボブな黒目、背は低いが強烈な主張をかます二つの山をもつ猫耳の獣人。もう1人は20歳くらいの鮮やかな青いロングストレートな碧眼、こちらは背は高いが主張は控えめで左右のこめかみからちょっとした角が生えた獣人。2人共正直絶世の美少女だ。
「やっぱりメスが居た!匂いがすると思って急いで帰ってきたら!言った通りでしょ、美雷」
「えぇ確かに貴女の言う通りコソ泥猫が居たわね、華虎」
ズンズンとアルに近づいて行き目の前で椅子に座るアルを見下ろす2人。アルは2人の威圧に一気に涙目になっている。俺はゆっくりと立ち上がり後ろから2人の頭にチョップする。
「「ふぎゃ」」
小さく悲鳴をあげて蹲る2人。
「いきなり何やってんだ、、、悪いな、アル。白髪の方が華虎、青髪が美雷って名前で俺の従者?まぁ色々してもらってる2人だ。で、こっちのが」
俺は手早くアルを2人に紹介する。紹介という名の説明すると2人はアルを見て改めて自己紹介し始める。
「いきなり悪かったよ、アル。アタシは華虎、テン様の奉仕奴隷で一応虎の獣人って事になってるからよろしく〜」
「悪かったわね。私は美雷、ご主人様の肉奴隷で一応ドラゴニュートって事にしているわ」
うむ、ちょっとオカシイ自己紹介だが否定するのもめんどいから良しとしよう。そういうこともしてるしな。アルは2人の自己紹介に顔を赤くして俺を見てくるがシカトだ。
「つー訳でちょっと王都までアルを送ってくるがお前達はどうする?」
「「もちろんお供します(わ)」」
「なら明日にでも早速向かおうか。”駅”が残ってれば直ぐだったんだが三年前に森の外は全てカットしちまったんだよな、、、」
めんどくさがりな俺は三年前にこの森に入った時から人との繋がりを一切切っていた。この2人(匹?)との出会いも森だしな。三年経った今ならそんな面倒もきっと無いだろうし丁度いい機会だったかもしれない。
「良し、そうと決まれば軽く準備して明日に備えるとしようか。アルはメシ食ったら風呂入ってまた休むといい。美雷、風呂の用意と出来ればお前達の服を貸してやってくれ」
「畏まりましたわ」
美雷はリビングを出て行く。アルはありがとうと言いながらポテトを食べ始めた。
「準備って言ってもテン様の”聖箱”に大体入ってるから特にはないよね?」
可愛く首を傾げながら俺に問う華虎。自然と俺は手を華虎の頭に伸ばし撫でる。
「その通りだな」
ウットリとした表情を浮かべながらされるがままにグルグル鳴き始める華虎、やはりネコ科だな。
さて久々の王都だがアルの話しじゃ今森の外はだいぶ面倒な事態のようだし何事もなければいいな。俺はアルと華虎に声をかけそんな事を考えながら部屋に戻っていった。