あなたは誰ですか?
「森番、あなた何者なの」
今目の前にいるのが、ただの森を守る無口な青年には見えなくなった。さっきのよく分かんない『おれの傑作』とかいうセリフもそうだし……ううんよく考えたらもっと前から不自然さはあった。
生粋の森っ子と自称するくせに海の天候変化の前触れに敏感、この人の前でだけ私の声が出る、それに、私のホントの名前を知ってたじゃない!なにそれ。そこまで揃ったら、この予測間違いないでしょ……森番、あなたは
「あなたもなの?」
私の、まだ予防線を取り払えない曖昧な問いに、彼は答える素振りも見せずに、持っていた皿をさっと置いてドアに向かおうとした。
「とにかく、この名作は持っていてください」
言い終わらぬうちに踵を返そうとする森番の腕を私は捕まえた、そして同時にさっきとは違う質問を被せる。同じことを答えてもらうために。
「あなたは何を代償に払ったの、魔女に」
ドアを見つめる彼は口を開く様子も見せない。ただでさえ口数の少ないこの男がそう簡単にこんな一触即発の質問に回答しないことなんて予測できてる私は、彼を掴む掌に力を込めた。逃げないように。逃せない、そう思った。だって。仲間だから。
同族の匂いだから。
「さすがアーティストは自信満々だよね!自分の作品を名作だって!」
わざと挑発した。部屋の扉からこっちに気を転換させるために。
逃げないで。助けて。協力して。教えて。生き方を教えてよ……センパイ!あなた私の先輩だよね?
しめた、かかった!眉ピクッとした。彼はこちらを振り返る。私はほっとして手の力を緩める。
「その通り。それはおれが作った。いいだろ、それ!」
ほお、おれとか言って素が出てきたねえ。もっとぶっちゃけて全部話しちゃってよ。そして同族同士協力しようよ。
私はここに一筋の希望を見た気がした。体内に力が蘇ってきた。いい調子。
「これ作ったの自分って認めたね。てことはあなたは王子の義理のお父さんのゴーストライターならぬゴーストクリエイター?」
「失礼な。おれはゴーストなんかじゃない!本人だ!」
なに?また分からないことを言う、このヒトは。本人?二、三秒首を傾げてから私は当てをつけて言ってみた。
「王子のお父さんの生まれ変わりとか?」
森番は眉をしかめて口をすぼめた。見たことない表情の豊かさだ。そのままバツが悪そうに言う。
「……そんなこと言って、信じるのか」
えっそうなの?でもそれだとおかしいよね、お父さんが亡くなったのは王子が14の時、てことは森番は19歳?とっくに生まれてるじゃん。でもそんな私の思考は、今まで聞いたことのないような明瞭な森番の声に遮られる。
「おれが対価に払ったのは、記憶だ!」
対価?あ、さっき私が聞いた魔女へは何を代償にっていう問いへの答えね。じゃあやっぱり。やっぱりセンパイなんだ!人魚から人間になった……ホントの仲間に会った、初めて……私は嬉しくて少し鼻の奥が熱くなった。でも我慢する。
「人魚の時私と知り合いだったんでしょ?名前知ってたもんね」
「ああ、知ってるも知ってる、よおーく知ってる」
なんかやけな感じ。もう森番じゃない別の人みたいだ。なんか可笑しい、この変わりぶり。
それよりちょっと待って、生まれ変わりについての説明も聞いてないし、順を追って話してよ。
私がそんな疑問を投げる間もなく彼は続ける。
「会ったことはないけどな!」
なに?会ったことないのに私のこと知ってるの?まさか
「ストーキング?」
冗談半分なのに。彼は血管が切れそうな勢いで怒鳴った。
「娘にストーキングするか!」
なにそれ。
森番が王子の義理のお父さんで、それでいて私の父親?
……だから順を追って話してよ、森番!……じゃないねもう、この人物は。




