この船は迷宮。私の前途は迷路!
なんて言ったの女王。
めかけ、って言った?
どこの世界に、自分の息子に不倫させようとする母親が……
あ、そうか。
子孫を絶やさない為に、というあれ?
子供を産む人は幾らでもいていい、多いほどよいという男系世襲制のあの考えですか?
「これが私の妥協策」
女王は言う。私の戸惑いをよそに、静かな口調。
「あの子、王子は、我儘なんだよ。私の育て方が悪かったのかな」
我儘だから妾持つって?まさか王子の希望なの?
「あの子は久留米里亜との姻戚関係作りをはっきり嫌だとは言わないよ。そりゃ私に面と向かって逆らえる者なんていないものね、国中で」
やっぱり婚約拒否の意思表示してなかったんだ、王子は。『やっぱり』という、予想が当たったすっきり感と、がっかりでショックな胸の痛みが、私の中に混在してる。
女王はそんな私の心の起伏なんて気にせずに自分のペースで話し続ける。
「でも王子は、全身で不満オーラを撒いてるの。目が拒否してんの、私に文句いってんの。それはあまり芳しくない」
本人の気持ちを無視してるのはあなたじゃん、なに文句言ってるのか、て私は思う。でも口には出さない。
声が出ないからだけじゃない。女王からは高気圧みたいに風が出てて、私が口に出した言葉なんて音にならずに吹き飛ばされそうだから。これ威圧感っていうの?貫禄っていうの?
「でも私は国が一番大事なの。家族より。自分自身の心よりもね。子供の頃からそうだった、だから王妃になった時は本当に誇らしかったよ。王……最初の夫と一緒に国の為に生きる、て決めたの!」
ものすごく太くて固い鋼みたいなものが、女王の真ん中には一本通ってる。絶対に折れない、そう誰にも。
「だから私は王子には久留米里亜皇女と一緒になってもらわないと困る。そこは曲げられない。でも私も人の子よ。息子に好きな人と一緒にいさせてやりたい、て思う気持ちはあるの」
なんか、勝手。
私は胸にモヤモヤするものを感じてる。
王子も私も駒とかモノじゃない、ていうの!
「だってあの子ホントにあなたが好きみたい。割り切れないみたいだから」
心揺らす言葉。なに、もう。踵返せないじゃない、そんなこと言われたら。
王子と一緒にいられるし……しかも女王つまり宮廷、いや国公認で?
それにそれに、これって。
泡になんないで済むの?
生きられる?
揺らぐ。これもオトナの取引なのかも?
「そうしてくれるなら安心だよ私は。王子が今のまま暗い顔してちゃ、家庭が円満に行かないでしょ?」
え。そのため?なの?
一気に消沈した。
「あなたの住処も生活も保証するよ。肩書も、私の侍女ってことで。ポジションとか地位は、あなたの希望通りにするから。トップでもいいし、気楽にやりたいなら中堅でもいいしね」
女王の言葉が終わらないうちに私は部屋から出て走り出していた。
なんなの!国国って。人より国なのかって!
確かに、国がないと人は困る。
でも、人が作ってんでしょ、国は!
廊下はどこまでも続く。ほんと迷路みたいよね、この船。でかすぎ。
お金勿体無いじゃない!
って、叫びたい。
人間やだ、人魚になりたい、また。
姉たちに会いたい。会って叫びたい。
船でかすぎ!
税金勿体無いじゃない!
って。




