「息子の・・・になりなさい!」
「なんかお父さんみたいだな、森番は」
私が言うと、森番は何も答えなかった。
そう言えば王子が若い頃森番のことをおっさんおっさんってからかってた話をしてたっけ、と思い出す。いろんな人に似たようなこと嫌ってほど言われてるのかも。
悪気はなかったけど、気を悪くしたかな?
「シブくてよいんじゃない?」
私はフォローしてそのまま話題を変えた。
「そう言えば梅の引き渡しは無事に済んだの?」
「はい。あれはいい花が咲きます。保証つきです」
初めて森番の表情が少し緩んだ。森や樹木関係の仕事の腕には自信あるのね。
「ずっと森一筋?」
「いや、前は……」
彼は私の他愛ない質問に答えかけたまま口をつぐんだ。なに?また黙るの?なぜ?読めない人だわ。
「いえ、最近は森です。いや、初めから森かな」
へんなのー!答えになってないけど面白いわこのヒト!
私はひとしきり笑った後、何か飲もうかとカウンターの方を振り向いた。すると、女王のお付きの侍女がこちらに歩いてくるのが見えた。他に人はいないから、用があるのは明らかにこの席だ。
「イレミ様。女王がお呼びです」
そう。わかりました。私は心の中で答えた。なに?また声が出ない。調子がいい時と悪い時があるのかな。王子といる時に調子出て欲しいよ。
「お急ぎの用のようです」
私は頷いた。
その時ひときわ強く風が吹き付け、私の髪が乱れて顔に被さる。それをよけると、侍女が付けまつ毛を気にしてるのか風除けのように目の当たりに手をかざしながら、催促するように立っているのが見えた。
一緒に来いってこと。私は森番の目を見て息を呑んだ。森番はいつもの無表情でいた。微かに頷いたようだけど……
今回の、王子と久留米里亜の皇女との婚約成立の背景には、母親である女王のゴリ押しもあった。どう考えても私は邪魔。
女王に追放されちゃうのかな。それとも、ひとまず牽制……?ああ、泡コースへの道のりが早まっちゃうよ。どうしよう。
私は手で髪を整えてから女王の部屋に入った。お辞儀をすると、女王は『来たね』と一言だけ言ってすぐに人払いをした。
私は初めて女王と二人きりになった。もとより彼女とはゆっくり話をしたことも数えるほどしかないけど。
いつも忙しい女王。家族と食事を取ることも月に数回だっていう話だ。
『あなた追放よ!』
『国へ帰ってちょうだい』
なんていうストレート系?
それとも
『親御さんが心配してるんじゃないの?』
『城での生活は疲れるんじゃない?』
なんて嫌味系?
俯いて引導を待つ私はふと女王の手元に目を止めた。指に光るものが。
すごい大きな石、何カラット?さすが一国の女王ね……
ううん違う。
私は宝石のこととかよく分かんないけど、これは硝子だって瞬間で察知した。
多分、王子のお父さん、彼女の亡き二人目の夫が作った……
「時間がないの」
女王の、落ち着いてるけど澄んだよく通る声を聞いて私は我に返った。
「手短に言う」
はい。どうぞ。
「息子の妾になりなさい」
……何を言う!




