そのムコはイケメンなの?
「もしかしたらお腹壊すかも?」
二番目の姉は海藻の上に手枕姿でからかうように言う。花魁みたいな風格だ。
「やめときなさいよ。人魚が陸の生き物食べるなんて、お腹壊すじゃ済まないかもよ?」
一番上は慎重派な意見を述べる。
三番目の姉は、葛藤にまみれながら、私が包みから出したハムを見つめる。時折鼻を膨らませながら。ああ、大きい碧眼の他にこういう天然の仕草もあるのね、男子人魚を惹きつけるのもは。まったくー。
「食べるかどうかの判断は、各自に任せまーす」
そう言い渡して、私はハムを摘んだ。三番目の熱い視線が絡まるのを感じながら、それを口に入れる。
「あ、ニェミが福顔した!」
「福だー」
「福なのね」
いつの日からか、私が美味しいものを味わってる時の顔は姉妹の間で『福顔』と呼ばれてるの。
「でもさー、貝って生き物じゃん。それ食べてる人魚だから、肉食イケるってことじゃないの?」
私のその一言で、姉たちのストッパーははずれた。そうね、そっかあ、そうだね、口々に納得のセリフを吐きながらハムに手を伸ばす。
感想は、聞く前から分かってんの。
お、い、し。
私も、うっとりしたもん、初めての時。
「ほんと人間になってから食い道楽ね、ニェミ。他にも茸にハチミツに、セミ……?」
「セミは食べてないから!」
「でもさー、人間みんなそうな訳じゃないんでしょ。やっぱ王家の財力?」
そっか、言われてみればそうかもね。将来王なわけか、王子って。
「人間の世界での王って人魚界で例えたらどんな存在なの」
長姉が尋ねる。すかさず二番目が
「栄光の頃の魔女っこ一家みたいな?」
うーん、みんなを纏めたり、儀式やったり伝統受け継いでいったりとか、似てる部分もあるけど、
「そこまで魔っぽくはないけど。人間界には魔法ってないらしいし」
人魚界もここ何年か急速に廃れてるけどね、魔法。使える人もいなくなってるし。海の中でも潮が早くて住みづらい外れの方でひっそり暮らす魔族の残党が、もぐりでやってるくらいで。私も、その魔法の力でこうやって人の脚を得てるんだけど。それを頼むためにあの海外れまで行くのはホント水流きつくて流されないように必死だったよ。
「なつかしいなあ、人間になった時のこと。浜辺で目が覚めたら人間になっててさ、初めての脚の感覚が、筋肉痛!」
「私たち、慌ててニェミのために大きい海藻探して取ってきたんだよね」
今となっては笑い話だけど、焦ったんだよ、もう。人間は下半身にも着るもの必要なんてことまで考えが及んでなかったから。とりあえず海藻を腰に巻いてさ。ほっとしたのもつかの間、
「体温で温まると磯臭いんじゃないの?って大騒ぎしたよね」
ホントはいけないんだけど、海辺の民家でシーツ干してたから、ごめんって思いながら貰っちゃって腰に巻いたら、古代ギリシャの人みたいで変にサマになっちゃって。
「元からしてた貝殻のブラがまた、いい具合にマッチしちゃってね」
ああ、やっぱりこうやって思い切り声を出して笑うのさいこーね。
「みんなに怪しがられてた魔女っこの魔法、一か八かの賭けでかけてもらったけど、出来栄えなかなかでしょ」
ビニールイカダの上に座ってた私は、両脚を背泳ぎのキックみたいにヒラヒラしてみせた。人の体だと岩はゴツゴツして痛い。姉ズと水遊びの時はこのイカダを持参してる。
「そうみたいね。初めは心配したけど。問題なく生きてるみたいもんね」
長姉はそう言って、細面の上のへの字に近い眉を更に下げた。彼女の、困り顔みたいな笑みは、くにゃんとしてていつも私をほっとさせる。
「魔族も、ほそぼそと家系を繋いでるみたいし、魔法って案外絶えないかもね」
「そうそう、魔女っこ婿取るって話知ってる?」
二番目の発言に、みんな興味を向ける。え、なに、もっと詳しく!
「北の海の魔族らしいけど。魔法の腕は一級らしいの。魔女っことペア組んでまた魔法をメジャーに返り咲き狙ってるとかなんとか」
「そんなんじゃなくて、カッコよさはどうなん、て」
三番目の質問に、他二人も揃って頷く。
「それはー、ははっ……」
情報提供者の反応に、聞き手たちも力なく笑う。そしてすかさず次の質問。
「性格は!?」
「え、どうなんだろそこは。魔力と顔だけがクローズアップされててさ、よく分かんない。フツーなんじゃない?」
やだ、絶対ないよね。そんな、好きでもなくてイケメンでも優しいわけでもない人と、家とか魔法のために結婚するなんて。私はムリだわー。
「特別な家に生まれると大変だよね」
「魔女っこの親が、傾いた家をなんとかさせようとしての政略結婚でしょ?」
四人揃って、自分はできない、あり得ない、て口々に放談する。その時ふっと黒い雲が頭上に現れた。私の上だけね。イメージ的にね。
「人ごとじゃないかも」
姉三人が、雲に気づいて一斉にこっちを見た。
「そっか、あんたのカレもね!?」
「そうそう、どうなってんの、そこらへんは!」




