『せいぜいてめえはなくす前に気づけや』
ちょっとリアルのほうでいろいろあったもんで・・・だいぶ投稿が遅れました
交差する道の先で、今回は少しだけエストの過去がわかるお話です
どうぞお楽しみください
ギルドと呼ばれる組織がある。
いわゆる『便利屋』のようなもので、依頼者はそれ相応の金を積み、ギルドに所属する者は己の腕を持って仕事をこなし金を得る。
あちこちの町にギルドハウスと呼ばれる本拠地があり、ギルドに所属するものであればどの町のギルドハウスでも依頼を受けることができるようになっている。
ここ、王都ポーラリアにおいてギルドハウスは町のはずれに存在している。
便利屋のはずのギルドの本拠地がなぜそのような場所にあるのか?
答えはシンプルに尽きる。
「・・・・・・・・」
ギルドハウスを目指すエストは、自分に注がれる視線の心地悪さに内心、舌を打つ。
視線、と一口に言っても様々なものが入り混じっている。
好奇、さげすみ、羨望・・・そのほとんどが注がれる先は、一点。
エストが腰に下げる剣の柄にぶら下げられているギルドメンバーの証だ。
「(ったく・・・この中の何人がギルドに仕事を頼んだことがあるんだかなぁ・・・)」
ギルドは、王国によって承認された組織ではない・・・いわゆる非合法的な組織だ。
すなわち、そこに身をやつすエストたちギルドメンバーもまた無法者に近い扱いを受けているというわけだ。
だが一方で、ギルドは決してつぶされない。
なぜなら、非合法組織であるはずのギルドに頼る人間が決してゼロにはならないからだ。
居心地の悪い空気に耐えること数分。古い建物の多い王都の中でもひときわ古い建物の扉に手をかけるエスト。
自分にまとわりつく不快な空気そのものを壊すかのように乱暴に押し開かれた扉は、かすかに埃を飛び散らせながら開く。
「・・・・・あ?」
不機嫌そうな声が口をつく。
先ほどまで浴びせられていた腫物を触るような視線とはまた違う、突き刺さるような不快な視線をぶつけられたからである。
「(つくづく嫌になるぜ・・・んなことしてっから後ろ指刺されちまうんだろうが・・・)」
ギルドに所属する人間の大半は、町の人間が想像するような荒くれものであるといっても過言ではない。
ギルドの性質上ギルドハウスさえあれば仕事にはあぶれないので、定住場所を持たぬ者も多いのだ。
エストも幾度となく王都のギルドハウスを訪れているが、同じ顔を二度以上見たものはほとんどいない。
「や、エスト 相変わらずとげとげしい雰囲気だねぇ」
そんな中、ギルドの空気とは全く異なるほんわかとした空気を纏った女性が、ギルドの空気に負けじととげとげしい空気を放っていたエストに話しかける。
「・・・シェルクか お前こそ、相変わらずボケてんな?」
シェルクと呼ばれた女性は、腰ほどまである黒いポニーテールをかきあげつつ、柔和な笑みを浮かべる。
まるで、とげとげしいギルドの空気を中和しているかのように穏やかな彼女の周りの空気に流され、エストのとげとげしさもまたわずかに薄れる。
「いきなりひどいなー 別にぼけてないよ?ただ眠いだけさ」
数少ない定住場所を持つギルドメンバー。
そういう意味で言えばエストは変わり者として扱われるのだろうが、このシェルクという女性はさらに輪をかけて変わり者として悪名をはせていた。
「騎士団の旦那は元気にしてるか?」
「うん!またエストとリオちゃんに会いたいってさー。こんど会いに行ってやってよ」
そう、このシェルク女性は既婚者、しかも子持ちなのだ。
さらに言えばその結婚相手はギルドメンバーとは対極の騎士、それも部隊長クラスのつわものだという。
「アンタんとこの旦那、容赦ねーんだよ もうちょい腕あげたらまた手合せ頼むとするわ」
「あははー、カタブツだからねぇ・・・」
と、そこでエストは、視界の端をチョロチョロする男の姿をとらえていた。
壁際に立て掛けるようにしてあるシェルクの荷物らしき布袋に手を伸ばしつつ、しきりにこちらをうかがっている。
彼が口に出して忠告するよりも早く、先ほどの苦笑いを顔に張り付けたまま腰の鞘に手を添えるシェルク。
ヒュン、という軽やかな音が彼女のはるか後ろから響く。
「あー、それ私の荷物なんだよね 中に、ね、結婚指輪とか入ってるわけよ。だからとられちゃ困るの」
「・・・ヒュゥ」
まるでハラリという音が聞こえてきそうなほど、見事に男の前髪が深めにかぶったローブごと落ちる。
もはや青いを通り越して白くなってきた顔を見事にさらしつつ、男は情けない悲鳴を上げて外に飛び出していった。
「よかったよかった・・・結婚指輪はちょっとねー・・・って、これ惚気かな?」
あはは、などと乾いた笑顔を浮かべて鞘から手を放す。
エストは背中に滲み出す冷や汗を気取られぬよう、務めて挑戦的な声を意識した。
「さすがだな。その剣・・・カタナ、だっけ?大した切れ味だな」
「んふふー、エストクンはまだまだだねー」
ピッと指を突き付け、下から見上げるように注がれる茶目っ気たっぷりの視線にたじろぐエスト。
男にしてはあまり大柄ではないエストだが、女性の中でも輪をかけて小柄なシェルクには見上げられる形になってしまう。
「私がいつ抜いたか・・・見えなかったのに、強がるもんじゃないよー?」
図星を突かれ、気まずげに視線をそらすエスト。
ただでさえ見上げられることに慣れてないエストにとって、視線だけでも居心地が悪い。
たまったもんではないとでも言いたげに、大仰に両手を上げてみせる。
「ちっ・・・降参だよ降参。大した腕だよ、アンタ・・・旦那に負けず劣らずの」
ついでに性格も負けてねえがな、とまでは口に出さなかった。
だが暗に伝わったようで、より一層距離を詰めようとするシェルク。だがエストとて負けてない。
「むぎゅ・・・ふぁ、ふぁなへー!」
無骨に掌をシェルクの顔面に押し付ける。
もごもごとくぐもった声で騒ぐシェルクを片手で制しつつ、不意にエストは目を閉じた。
掌から伝わるもごもごという振動さえ意識の外に追い出し、普段は感じ得ないそれに意識を集中していく。
「(・・・このカンジ・・・精霊、しかも風の精霊の名残か?)」
この世界には精霊が存在している。
それがたった数人程度の『とある血族』によって賄われているのだが、とにかく今エストたちがいるギルドハウスの内部にさえ、精霊は存在する。
だが人間や他の動物にとって異物である彼ら精霊は、普通にしているだけでは感知できない。
感覚を研ぎ澄まし、知覚を半歩ずらすことで、初めて彼らの気配をつかむことができる。
『んふふー、気づいた?』
まるで直接鼓膜を震わされたかのような違和感に、シェルクの顔をつかむ手の力がわずかに緩んだ。
彼女はその隙を決して見逃さず、するりと手から逃れると腰の刀を持ち上げてみせる。
「でもねー、きっとその答えは半分しかあってかなぁ もう半分はー・・・えへへ、ないしょだよ」
口元に人差し指を当て、小悪魔のように笑うシェルク。
小柄な体も相まって、そのさまはまるでいたずらを思いついた子供のようだったが、そこそこに密な付き合いをしているエストからすれば年上の女性が子供っぽいしぐさをしているようにしか映らなかった。
「年甲斐がねーぞ30代・・・って、あ」
「さん、じゅー、だい? エストクン、今、なんて、言った、の、かな?」
ギギギ、と錆びた蝶番のような音が聞こえてきそうなほどぎこちなく下から上へと動くシェルクの頭。
その顔に張り付いているのは極上と言っても差し支えないほどに屈託のない笑顔、だがエストは知っている。
これが、爆発寸前の彼女の表情であることを。
「(や、やべえ言っちまった・・・!)」
余談になるが、エストがかつて彼女の家に遊びに行った際、一度だけ彼女の夫(クリスという名なのだが)が額に包帯を巻いていたことがあった。
才能に努力、さらに数多の経験に裏打ちされた類まれなる強さを持った男のそんな姿にひどく興味をそそられたエストはその怪我の理由を尋ねた。
彼らの家を訪れるたびに幾度となく繰り返された手合せの中で、一度たりともゆがめられたことのなかったクリスの顔が青ざめるとともに苦悶の表情にゆがむさまは、今でもエストの脳裏に焼き付いている。
震える彼の唇から発せられた言葉は、ほんの二言。
『妻・・・・年・・・・・』
それっきり、クリスは膝を抱えてうずくまるばかりになってしまった。
あまりに少ない言葉だったが、それゆえにエストにははっきりと伝わったようだ・・・その時の、恐怖が。
それ以来エストは心に誓っていたはずだった。
『シェルクに年の話をするまい』と。
だが、今回ばかりはそれさえ忘れてしまっていたようだ。
街中でのいたたまれない視線に、子ども扱いされたことも相まってそれなりに腹が立っていたのだろう。だが、言ってしまった今となってはそんな怒りはどこへやら。今はどうやってこの場から逃げだそうか考えるのみだ。
「ねえねえ、エストクン 怒らないからさぁ・・・なんて言ったのか、言ってみ?」
「な、なんでもねえぜ、いやないです・・・ってうぉ!?」
スパッという軽やかな音とともにエストの視界が反転する。
ドスンという鈍い衝撃に勝手に目が閉じてしまい、次に目を開けた時には自分の生殺与奪剣を握る悪魔の顔が視界いっぱいにまで迫っていた。
「ねえねえ、言おうよ言おうよ、ほらほらほら」
ぐいぐいとエストの頬に押し当てられる手に握られているのは、先ほど自慢げにふるっていたカタナだ。
ここで回答を間違えれば、先ほどの泥棒のフードのようにエストの体の一部が切り落とされることだろう。
「ちょっ、待て待て待て! ギルドハウス内は基本的には抜剣禁止だろうが!」
「ウフフフフー、私がギルドのルールごときで縛りきれるとでも?怒れる乙女に不可能はないんだよー?」
暗い笑みを浮かべ、ついには鞘から刀を抜き放ち、抜き身でエストの頬を撫で始めるシェルク。
背中を伝う冷たい汗と、それ以上に冷たい頬にあたる刃の鋭さに、上がりそうになる悲鳴を必死に噛み殺すエスト。
そんな二人を遠巻きに、しかし緊張感を漂わせつつ眺める荒くれたち。
「・・・・ぷっ、っくくくく・・・」
しかし、そんな謎のこう着状況は、こらえきれずに噴出した笑いによって打ち破られた。
「・・・・・は?」
「アハハハハ! ウソウソ、そんな真面目に怖がらないでよー!」
とぼけた声をあげるエスト。
だがそれも当然だろう、なにせ今まで怒り、自分の腹の上で刃を突き付けていたはずの女性から笑い声が上がったのだから。
「て、てめえ・・・からかいやがったな・・・・!」
そう、結局のところ、シェルクはまったくもって怒ってなどいなかったのだ。
ヒュン、という軽やかな音とともに刀を鞘に納め、開いた右手を床につく。
重力などまったく感じさせぬ、軽やかな身のこなしでもって床についた手を軸に身をひるがえす。
「さすがにそんなことくらいで刃物取り出しちゃうほど、私だって子供じゃないよー。・・・まあ、ちょーっとだけショックだったケド・・・」
跳ね起きでもって身を起こし、背中についた埃を軽く払うエスト。
あんなことをされた後にもかかわらず、睨むのではなく気まずげに視線をそらすあたり、彼もまた少しは反省しているようだった。
「うーん・・・反省してるみたいだし、許したげる。女性に年の話はしちゃダメだよ?まあ、まだリオちゃんとかくらいの年の子なら気にしないんだろうけどネ」
「・・・その、悪かったよ。」
気まずげに頭をかくエストに対し、背伸びをして頭をなでるシェルク。
一見すると親子のようにしか見えないそのやり取りは、エストにとって恥ずかしさと心地よさが入り混じった複雑な感情を喚起させる。
「よしよーし・・・って、そうだそうだ。エストは今日はどうしたの?仕事?」
「・・・・・そういや、こんなことしてる場合じゃねーんだったな」
そろそろ恥ずかしさも限界値に達していたエストは、渡りに船とばかりにペシンとシェルクの手を軽くはねのけギルドハウスの奥に足を向ける。
「ギルドマスターのジジイに呼ばれてんの忘れてたわ・・・じゃーな、シェルク」
「ふふっ、気をつけなさいよエスト。 また王都に帰ってきたら顔出しなさいねー」
ふにゃんふにゃんと振られる手に笑いをこらえきれなかったのか、エストは笑みを浮かべ手を振りかえす。もちろん、顔はシェルクとは反対の方向を向いていたが。
ギルドハウスの中でもひときわ豪華な装飾が施された扉をぐっと押す。
古びた扉独特の軋む音を立て、扉が開いた。
「よぅジジイ、来たぞ」
「相変わらず口は減らねえ、そもそもノックしてから入れと教えても覚えられねえ・・・ったく」
扉の奥でエストを待っていたのは、初老の男性。
目元には深いしわ、頭髪はおろか口元に生える髭にまで白が混じる程度には老いているはずの男は、しかし年寄りらしからぬ獰猛な笑みを浮かべてエストの憎まれ口に返す。
「鳥頭かてめえは?違うってんならマナーの一つでも覚えやがれ」
「うっせーんだよジジイ、非合法組織のトップがマナー?はっ、どの口で言いやがる」
腰に下げた剣を入口付近にある台座にかけ、どっかりとソファに腰を掛けるエスト。
憎まれ口はたたきながらも、それでもギルドにおける本当に最低限度のマナーは守っているのだ。
「いい加減、ほこりかぶせてるくらいならそこの剣よこせよジジイ」
「てめえの貧相な剣と比べられるからってひがむんじゃねえよエスト」
台座にはもう一本―長年そこから動かされていないのだろう―厚い埃をかぶった剣が立て掛けられている。
『話し合いの場に武力の一切を持ち込まない』
荒くれ者の多いギルドにおける、最低限度にして絶対不可侵のルールであった。
「ちっ・・・まあ、いいや めんどくせえし、とっとと本題に入ってくれや」
「おう・・・まあ、呼びつけるほどの話でもねーんだがな・・・」
ギルドマスターの口から語られたのは、王都ポーラリア近辺の地形の話。
王都ポーラリアの周辺は開けた平野、そのさらに外側は山脈と海といった具合で天然の砦のような地形となっている。
港は王都の南に一つのみ、ゆえに山脈を貫くようにある天然洞穴の存在は非常に重要であった。
「あの洞窟はもともと狭い一本道だったのを、人の手で馬車一台分くらいの幅まで広げたんだが・・・最近になって、あの洞窟に脇道が発見された。脇道と言っても、奥が少し開けただけの袋小路なんだがな」
「奥が開けた袋小路・・・魔物が巣にするには、最適の環境だな」
洞窟と言えばじめじめとしていて薄ら寒いイメージがあるが、裏を返せばその低温多湿な環境を保っている場所ともいえる。
その上敵の侵入も一方向に限定できるとくれば、低温環境に適応できる生物であれば間違いなく巣にするだろう。
「そこで、俺たちギルドに依頼が来たと」
「騎士団はいつも通りのだんまりだ。ま、王都中心部の流通は港からの物資ですべて賄われてるからな」
やれやれ、と首を振るエスト。
ギルドマスターの言葉通り、騎士団がその手のトラブルに無干渉を貫き通すというのはいつものことなのだ。彼らはあくまで王族を守護する騎士団、王都に住まうすべてを守護するわけではないのだ。
「ったく・・・そろそろ、ギルドも公認組織にしてくれっつーの」
「はっはっはっはっは、稼ぎの何割か献上すれば騎士団の客員になれるといううわさもあるぞ?」
乾いた笑いをあげつつ鋭い視線を投げかけるギルドマスター。
どこか辟易したような様子で舌打ちをし、しかし真摯な視線にこたえるように両手を目の前のテーブルにたたきつける。
「・・・・またその話題か、くそじじい」
ダンッ、という乾いた音の残響。
テーブルに乗せられていたカップがカラン、カラン・・・とむなしい音を立てコースターの上を行き来する。
視線だけで相手を射殺すつもりで睨むエストに対し、歴戦の風格でもって逆にエストを睨みつけるギルドマスター。
だがその眼に浮かぶ色は敵意ではなく、あざけりでもなく、ただただ寂しげなものだった。
「・・・なぁ坊主よぉ、こいつは冗談でもなんでもねえ・・・・今ならまだ間に合うんだぞ?」
「俺にッ!・・・・・俺に、騎士になれっつーのかよ・・・っ!」
エストの脳裏をよぎるのは閉じた門扉。
鉄製のなじみ深い、しかし思い出せば胸をちくりと刺す無骨な門。
目の前で閉じられた鉄の門は、左右から鎖を巻きつける二人の騎士に何を訴えようとも開くことはなく。
後ろから自分の手を引く母は何も言わず、しかし静かに涙を流しながら門を振り返る。
そこまで思い出したところで、何かがはじけた。
「っ・・・ざけんな!」
テーブルなど砕けてしまえ。そんな思いで振り下ろされた右手は、しかし先ほどよりやや大きな音を立てるにとどまった。
衝撃に耐えかねたコップはコースターを離れ、乾いた音を立てて割れた。
「騎士団は・・・・ッ! あいつらは俺たちを見限った! 今更受け入れられてたまるかッ!」
「だが騎士団に所属すれば守れるものは増える。・・・リオの嬢ちゃんだって、もしかしたら今の境遇から拾い上げてやれるかもしれん」
物憂げにため息をつき、背もたれに背中を預けるギルドマスター。
鈍い音を立てる椅子にさえいらだちを覚えてしまうエストはさらに鋭い視線を投げつける。
「さっきお前も言っただろう・・・いらなければその剣をよこせ、と。職なんざ剣と同じよぉ・・・たくさんありゃあ、それだけ守れるもんも増えるんだ」
そういって視線をやった先には銀色に輝く紋章。騎士に貢献したもの―客員剣士の証だ。
細かな傷がいくつもついたそれは、しかし壁に下げられたどの勲章よりも輝きを放っている。
「おめえはもうこっち側に足を踏み入れちまった・・・だが、」
「てめえの価値観を押し付けんな!」
さえぎられた言葉の先は、それでもエストには届いた。
握りしめられたこぶしの震えがそれを物語っている。それを満足げに眺めたギルドマスターは椅子から立ち上がった。
「・・・その剣、欲しかったら持ってけや 家族も、ダチも・・・俺ぁもう、守るべきもんはなくしちまったからよ」
うつむき、こぶしを握りしめたエストに彼の顔はうかがえない。
そもそも今の彼に、周りを気にする余裕はなかったのだが・・・ギルドマスターの顔に浮かんでいたのは、後悔だろう。
「年寄りの戯言で構わん。なくしてから気づくことのほうがこの世には多いもんだ・・・けどよぉ、それでもガキの世代にゃあなくしてもらいたくねえ・・・そう思っちまうのは、なんでだろうな」
『せいぜいてめえは、なくす前に気づけや』
捨て台詞のように放たれたその言葉には優しさがにじむ。しかし、今のエストには、まだその言葉は届いていない。
誰もいなくなった部屋から、エストは自分の剣のみを手にして部屋を飛び出した。
前書きでも書いた通り、今回の話では少しだけエストの過去に触れてみました。
伏線(と言えるかものすごい微妙ですか)を張ったつもりになってる作者です。
正直、この作品を上げる前に書いていたテイルズオブユナイティアと比べるとキャラが増えるわ、設定が変わるわ・・・それに伴って、思い描いてたストーリーがだんだん修正(しかも難しいほうに・・・)されていってるのを日々感じます。
不定期更新極まりないですが、こんな作品でよければ付き合ってくださる方はこれからもどうぞおつきあいください。