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姫さま、騎士になる


 こんにちは、元姫です。皆さま、ご機嫌如何でしょうか。

 え、口調がおかしい?

 これには、訳がありまして…。


**


「俺が騎士で、お前がお姫さま、ねぇ…」

 遠い目をした元姫さまが手にしているのは、一冊の台本だ。同じものが元騎士の手の中にもある。台本の中にあるお姫さまのセリフ部分にチェックを入れていた元騎士は、苦笑いをしながら顔を上げた。

「あなたが姫役で私が騎士役になれば、演技をする上では大変よろしかったのですが。しかし、くじ引きで決めたことですから、言っても仕方のないことではあります」

 誰が言い出したのか、二人が所属する高校の文化祭で行うクラスの出し物の劇は、大道具から役者まで、全てがくじ引きで決められるという伝統があるらしい。もちろん、男女の別なく、である。

 そのためお姫さまの役は男である元騎士が引き当て、王子さま役はクラスでも小柄な女子が担当することとなったのだ。

「いや。せっかく男に生まれたんだから、もう姫はいいよ。それに、今の体で姫やったって、誰が楽しいんだ」

「それを言われますと、私が姫役をやることを楽しいと思う方もいないでしょう…」

 苦笑を浮かべた元騎士に、元姫さまは笑顔できっぱりと否定の言葉をかけた。

「いや、俺が楽しい」

「……」

 悲しそうな元騎士を放って、元姫さまはパラパラと台本をめくり始める。お姫さま役と違って騎士役のセリフはそう多くないものの、立ち居振る舞いに関する記述が多い。

「あー。なあ、ここの『騎士の誓い』のとこさ。どんなのかわかる?」

 あるページに書かれている文章を指さして、元姫さまが言う。

 凹んでいた元騎士は指された箇所を読み、渋い顔をした。

「『跪いて誓いのポーズをとる』…。これでは何も情報が得られませんね。どのように跪いて、何を誓うのやら…」

 台本を手元に戻して、元姫さまはうなずく。

「台本って、セリフ以外のところは結構アバウトなんだな。他のページもだいたいこんな感じだったし」

 言われて、元騎士は自分が担当する役のセリフ以外の部分にも目を通す。確かに『お姫さまは優雅にステップを~』や『お淑やかな様子でカップに~』など、読み手によって表現が変わりそうな表記がなされていた。

「…私に淑やかさを求められましても…」

「…俺に騎士の立ち居振る舞いなんてできないよ…」

 二人は同時につぶやいた。

 そして、同時に気がつく。お手本が目の前に居ることに。

「ようは、お前みたいにすればいいってことだよな。えー、つまり、私はあなたのように振舞えば良いというわけですね。…こんな感じか」

 元姫さまが言って、元騎士の動作の動作をマネする。

「つまり、私はかつての姫のような振る舞いをするわけですね。…わたくしはそのように足を広げて膝をついたりしませんわ」

 跪いて自分の手をとる元姫さまに、元騎士が言う。

 元姫さまはむっとした表情をし、少し足の位置を動かした。

「これでいかがでしょうか、姫?」

 元騎士は手をのばして、元姫さまの背中をまっすぐにさせる。それからわきをしめるように腕を移動させ、ちょっと眺めて頷いた。

「これならば良いでしょう。そのまま、わたくしの手をそっと支えるようにして下さい」

「違いますよ、姫。『支えるようにしてくださる?』です。」

 そうして二人で口調や動きを互いに訂正しあい、騎士の誓いのポーズが完成した。なんだか楽しくなった二人は、台本にある互いのセリフや動きを一通り完成させてしまった。

 翌日、役者を集めて台本を読もうとなった時に、元姫さまと元騎士の二人だけがセリフと動きを完璧に仕上げてきたため、クラスメイト達は驚いた。

 そして、二人の演技は他の役者だけでなく監督役の生徒をも納得させたため、変更が入ることもなく採用された。


 その年の文化祭にて。

 元姫さまと元騎士が所属するクラスの出し物では、お姫様役と騎士役の二人だけ、妙にクオリティが高いと評判になったのだった。


高校生の時分には、女装するのに妙にはしゃいだものです。

あれが若さか。


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