姫さま、騎士と再会する
新品の幼稚園生の服に身を包んだ幼児が、ベージュのスーツに身を包んだ母親とビデオカメラを回す父親に手を引かれて歩いていた。仲の良い親子三人は、色とりどりのチューリップが咲く花壇の脇を通りぬける。足を踏み入れた小さな庭には、たくさんの遊具が並んでいた。カラフルな遊具には紙の飾りがつけられ、この目出度い日に相応しく華やかな空間を作り出している。
「入園おめでとうございます」
エプロンをつけた女性が、小さな胸に花飾りをつけた。ひまわり組と書かれた札も付いている。
花飾りのお礼を言うと、黄色い帽子を被った頭を撫でられる。この女性は「幼稚園の先生」だろう。恐らく、自分が所属するであろう「ひまわり組」を受け持つ人。愛想良く振舞っておいて損はない。
(…いけない、これは幼児らしくない思考だ。)
腹のうちでそんなことを考えながら、表向きに見せるのは、下心など感じさせない満面の笑みだ。こんな風に笑うのは、手馴れている。
ただ、そんなことを悟らせて今生の父母を悲しませる気は無いから、今の自分は無邪気な幼児として振舞わなければならない。
「おとうさん、おかあさん、行ってくるね!」
父母の手を離し、自分と同じ黄色い帽子をかぶった集団に向けて駆けていく。傍から見ればひよこの集団のように見えるのだろうか、と思いながら、割り当てられた席に着いた。
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入学式が終わった。
とても短い時間だったのは、じっとしていられない幼児に合わせたものだったのだろう。それでも、親を探して泣き出す者や話に飽きて席を立つ者も見受けられた。
かつての自分が幼少の頃はどうであったろうか。これほどに手の掛かる幼児ではなかったと思う。
「ひめ!!」
そう、かつての自分はお城のお姫様だったのだから。式典など日常茶飯事。
「ひめ、ようやくお会いできました!!」
まあ、体が弱くてほとんどでられなかったのだが。
そこまで考えて、ふと意識を現実に戻す。
目の前には、黄色い帽子を被ったちびっこが一人。妙にキラキラとした瞳で、自分を見上げている。
そう、見上げている。跪いて。
かつて、兄妹のように共にあった騎士が忠誠を誓う、あのポーズで。ああ、この男も生まれ変わったのか。前世の記憶を持ったまま。再び会えたことは、素直に嬉しく思う。
「ひめ、きっとお会いできると、信じておりましたっ!」
目を潤ませて、感激しているのだろう。感情がもろに表に出る。これは、そういう男だった。
だが、時と場所を考えろと言ってやりたい。周囲から向けられる好奇の目が、わからないのか。
「ひめ、私をあなたの騎士にしてください。どんなことからも、きっと守ってみせます!」
小さな手が、自分の同じく小さな手をとる。ああ、懐かしい。前世で騎士の誓いを受けたときの、このポーズ。自分の最後に聞いた、その言葉。
しかし、今世の騎士の親は、どんな思いで彼を育てたのだろうか。自分の子どもがこんなのだったら、ちょっと、いや、かなり嫌だ。
「私に、今世の名をお教え下さい。騎士の誓いをさせてください、ひめっ」
かつての主に再会して、興奮しているのだろう。紅潮している少年のほっぺたを掴んで左右に引っ張り、言ってやった。
「おれは、男だっ!ひめじゃなーーーーい!!!」
これは、かつて病弱だった姫さまとその騎士の、ハッピーエンドへのはじまり。のはず。
のりと勢いだけで書いています。
*BLにはなりません。