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第7話:(後編)鉄の乙女のメンテナンス


「……う、くっ……。リアム殿、そこは……あまり、弄られると……」


 洗浄室に、カミラの震える声が響く。

 リアムが魔導ドライバーを差し込んでいるのは、鎧の胸部中央――心臓の真上にある、呪いの核心部コアだ。

 そこは鎧の全神経が集まる場所であり、同時にカミラの生命維持を司る急所でもあった。


「すみません、ここが一番『建付け(たてつけ)』が悪くて。呪いの術式が複雑に絡み合って、鍵穴が錆びついているような状態なんです。……よし、今、油(魔力)を差しますよ」


 リアムが精密な手つきで、高純度の聖魔力を一点に注入する。

 その瞬間、カミラの体中を駆け巡る「鉄の神経」が、激しく火花を散らした。


「ひ、あぁぁぁぁっ! なに、これ……中が、熱い……っ! 私の奥まで、貴殿の魔力が、満ちていく……!」


「カミラさん、しっかりしてください! 今、呪いの『柱』を一本ずつ、祝福の『大黒柱』に植え替えています。もうすぐ、この鎧はあなたを喰らうのをやめる」


 リアムの瞳は真剣そのものだ。

 彼にとって、この作業は単なる除霊ではない。

 住人カミラにとって最も身近な「よろい」を、生涯愛せる一級品へと建て直す……その職人としての矜持が、神業のような速度で術式を書き換えていく。


「……見えた。これが、この家の『隠し扉』の鍵だ!」


 パキィィィィィィィィン!!


 館全体が共鳴するかのような、澄んだ金属音が鳴り響いた。

 直後、カミラの全身を縛っていた赤黒い呪いの鎖が、音を立てて砕け散る。

 棘だらけだった禍々しい甲冑の表面が、リアムの魔力に洗われ、雪のような白銀へと変色していった。


「……え? 嘘……。鎧が、開く……?」


 エルナが驚愕の声を上げた。

 カミラの胸当ての中央から、縦に一筋の光が走る。

 それは、数年間、誰の手によっても、呪いによっても開くことのなかった『鉄の処女』の、真の開錠だった。


 プシュゥゥゥ……。


 内部の圧力が開放され、清涼な蒸気が溢れ出す。

 左右に分かれた胸当ての間から、白銀の鎧の内側を滑り落ちるようにして、一人の女性が崩れ落ちた。


「カミラさん!」


 リアムが咄嗟に手を伸ばし、彼女を抱きとめる。

 そこには、数年間の暗闇から解放された、真実の姿があった。


 鎧の中に隠されていたのは、想像を絶するほど美しい、鍛え上げられた女騎士の肉体。

 汗に濡れた金髪が肩に張り付き、透き通るような白い肌は、リアムの洗浄液の効果で瑞々しく輝いている。

 鎧の中で健康的に育っていたその肢体は、聖女セレスティアが思わず目を逸らすほどに、豊満で力強かった。


「……あ、あ……。……風が……肌に、触れている……」


 カミラは、自分の震える手を見つめた。

 鉄の手甲を介さない、生身の手。

 彼女は、おそるおそるリアムの頬に触れた。温かい。自分の体温が、相手に伝わっている。


「……リアム殿。私は……私は、自由になれたのか……?」


「ええ。呪いの核は、完全に『着脱可能な自動メンテナンス術式』に書き換えました。これからは、あなたの意志でいつでも脱げますし、着ている間は最高の防御力と疲労回復効果が得られる、世界に一つの『スマート・アーマー』です」


 カミラは、しばらくの間、リアムの腕の中で震えていた。

 やがて、彼女は力を振り絞って立ち上がると、リアムに向かって深く、深く頭を下げた。


「……感謝という言葉では、到底足りない。貴殿は、私の命だけでなく……奪われた尊厳までも、リフォームしてくれたのだな」


「いえ、僕はただ、この館の住人に『最高の寝巻き(よろい)』を提供したかっただけですから」


 リアムが照れくさそうに笑うと、カミラは一瞬呆気にとられ、それから鈴を転がすような声で笑った。

 初めて見る、伝説の女騎士の、年相応の少女のような笑顔。


「ふふっ……。やはり貴殿は、変わった男だ。だが、気に入ったぞ」


 カミラは床に転がっている白銀の鎧を愛おしそうに見つめ、それからリアムの目を真っ直ぐに見据えた。


「リアム殿。改めて誓おう。この身、この剣……そしてこの磨かれた魂の全てを、貴殿に捧げる。今日から私は、この館の守護騎士として、貴殿の影となり盾となろう」


「心強いです。あ、でも、まずはゆっくり休んでくださいね。カミラさんのために、高耐荷重の特注ベッドを用意してありますから」


「……あ。……貴殿の、手作りか?」


「もちろんです」


 カミラの頬が、ぽっと赤く染まった。

 それを見ていたセレスティアとエルナが、慌てて二人の間に割り込む。


「ちょ、ちょっとカミラさん! 救出されたからって、いきなりリアム様に密着しすぎですわよ!」

「そうよ! 鎧が軽くなったからって、心のガードまで緩くしすぎじゃない?」


「ふふ、二人とも、そんなに慌てるな。私は騎士だ、恩には『全身全霊』で報いると決めているのだ」


 不敵に微笑むカミラ。

 聖女、エルフの姫に続き、最強の女騎士までもが、リアムという「家」に心酔し、居着いてしまった。


 リアムはそんな彼女たちの騒ぎを余所に、設計図を広げて呟いた。


「三人か……。そろそろ、キッチンの冷蔵庫を大型化しないと、食材が足りなくなるな。……よし、次は地下室の増築だ!」


 職人の情熱は、さらなる「住人」と「リフォーム」を呼び寄せていく。


Q:カミラの身体能力は?

A: 数年間、重い鎧の中で呪いと戦い続けていたため、基礎体力が常人を遥かに凌駕しています。鎧を脱いだ状態でも、リアムの館を狙う並の魔物なら素手で一蹴できるほどです。

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