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第5話:お仕置きと涙、そして増築の予感


「いいですか、エルナさん。リアム様の隣で朝食を共にするのは、第一居住者である私の特権ですわ!」


「……はぁ? 最初に住んだからって、そんなの古い年功序列だわ。エルフの私は、人間よりも遥かに寿命が長いの。末永く彼を支えるなら、私の方が適任よ」


 聖域化した館のダイニングルーム。

 ピカピカに磨き上げられた無垢材のテーブルを挟んで、聖女セレスティアとエルフの姫エルナが、火花を散らしていた。

 風呂上がりで肌がツヤツヤのエルナと、休息をたっぷり取って美しさを取り戻したセレスティア。伝説級の美女二人が睨み合う光景は壮観だが、その周囲には魔力のパチパチとした放電が飛び交っている。


「……あの、二人とも。せっかくの朝食が冷めるし、床に魔力の火花が散ると焦げ跡がつくから、やめてくれないかな?」


 リアムが困ったように声をかけるが、二人のヒートアップは止まらない。


「焦げ跡くらい、リアム様ならすぐに直せるでしょう!? それよりエルナさん、その……露出度の高いエルフの寝巻きでリアム様に近づくのは、教育上よろしくありませんわ!」


「これ、エルフの伝統的な寝巻きなんだけど。そっちこそ、聖女のくせにリアムが触った場所を思い出しながらニヤニヤするのをやめたら?」


「な、ななな……っ! 私はただ、リフォームの恩義を噛み締めていただけで……っ!」


 激昂したセレスティアの手元で、聖なる魔力の塊が膨れ上がる。

 対抗するように、エルナも精霊の風をその身に纏った。

 このままでは、リアムが心血を注いで修復したダイニングが粉砕される――。


 その瞬間、リアムの雰囲気がガラリと変わった。


「……あーあ。わかった。そこまで派手にやりたいなら、いいよ」


 リアムが静かに立ち上がり、腰の工具ベルトから一本の特殊な魔導鍵を取り出した。

 セレスティアとエルナは、その冷徹なまでの「無機質な声」に、本能的な恐怖を感じて動きを止めた。


「リアム、様……?」


「二人とも、せっかく僕が『住みやすさ』を考えて設計したこの家が、そんなに嫌いなんだね。……喧嘩して床や壁を傷つける子は、住人失格だ」


 リアムは流れるような動作で、壁の隠しスイッチを押した。

 すると、二人の背後の壁がぐにゃりと歪み、隠し扉が現れる。


「お仕置き(・・・・)の時間だ。二人の部屋を連結して、明日の朝まで『防音監禁仕様の相部屋』に強制リフォームする。そこで仲良く、家のルールについて話し合ってきなさい。……はい、入って」


「えっ、ちょ、待って! 相部屋なんて嫌……ひゃあああ!?」


 抗う間もなく、リアムの【居住者登録】権限による強制転移で、二人は窓一つない、けれど異様に寝心地だけは良さそうな六畳一間の個室へと放り込まれた。

 ガチャン、と重厚な鍵がかかる音が響く。


「……リアム様! 開けてください! 私が悪かったですわ!」

「暗いし狭いし、リアムの魔力や癒やしが足りないのは耐えられないわ!」


 壁を叩く音が聞こえるが、リアムは容赦ない。


「だめだよ。そこは僕が『喧嘩した住人を和解させるため』だけに設計した、五感をリラックスさせる特殊ルームだから。たっぷり反省してね」


 リアムは冷たく言い放つと、一人の静かなダイニングでスープを啜った。


     *


 三時間後。

 反省した二人が泣きついたため、リアムは扉を開けてやった。

 二人はフラフラと部屋から出てくると、もはや喧嘩する気力もなく、リアムの足元に縋り付いた。


「もう……もう二度と、家の中で魔力は使いませんわ……」

「相部屋でセレスティアの寝言を聴かされるのは拷問だわ……許して、リアム……」


 二人の心が折れたのを確認したリアムだったが、ここで彼は、さらなる追撃の一手を打った。

 彼はわざとらしく、深い、深い溜息をついたのだ。


「……はぁ。……ごめんね、二人とも」


「え……?」


 リアムの瞳に、薄っすらと涙が浮かぶ。

 彼は悲しげに、自分が丹精込めて磨いた床の、小さな傷(彼女たちがつけたもの)を撫でた。


「僕の設計が、甘かったんだ。二人が喧嘩したくなるような、ストレスの溜まる間取りにしていた僕の責任だ。……職人として、恥ずかしいよ。……僕は、領主なんて器じゃなかったのかな。……いっそ、この館を解体して、どこか別の場所で一人でやり直そうかな……」


 ポロリと、一粒の涙がリアムの頬を伝う。

 その瞬間。


「「い、行かないでえええええええ!!」」


 セレスティアとエルナの絶叫が館に響き渡った。

 二人は必死の形相でリアムに抱きつき、その服を離すまいと力一杯掴んだ。


「私が悪かったんです! 床の傷は私の涙で磨きます! だから、一人で出ていくなんて言わないでくださいまし!」

「私が間違ってた! 貴方がいない場所なんて、どれだけ豪華でもゴミ溜めと同じよ! お願い、捨てないで!」


 リアムの「悲しみ(・・)」は、彼女たちにとってどんな攻撃魔法よりも致命的なダメージだった。

 彼女たちの生存戦略は今や、「リアムを悲しませない=家を大切にする」という一点に集約されたのである。


「……本当に、もう喧嘩しない?」


「「誓いますわ!!」」


 二人が声を揃えて返事をした事を確認すると、リアムは密かに口角を上げた。

 (よし。これで教育は完璧だ)


 リアムが涙を拭い、いつもの穏やかな笑顔に戻ると、二人は安堵のあまりその場にへたり込んだ。


「さて。仲直りしたところで、次の仕事の話をしようか。この館の裏手に、強力な呪いを発している『開かずの離れ』があるんだ。そこから、誰かが助けを求めている気配がする」


「……助け、ですか?」


「ああ。重い鉄の音がするんだ。多分、鎧を纏ったまま動けなくなっている人がいる。……次は、寝室の増築が必要になりそうだね」


 リアムは新しい設計図を広げた。

 次は、三番目のヒロイン――呪われし女騎士カミラとの出会いが待っていた。


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